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『ベーシックインカム――分配する最小国家の可能性』 b

立岩 真也 2010/03/27
『BIメールニュース』 http://bijp.net/mailnews


◇立岩 真也・齊藤・拓 2010/04/10 『ベーシックインカム――分配する最小国家の可能性』 ,青土社,ISBN-10: 4791765257 ISBN-13: 978-4791765256 2310 [amazon][kinokuniya] ※ bi.

 という本を出してもらった。立岩真也・齊藤拓著、青土社、税込2310円。奥付では4月発行だが、もう売っている。3月26・27日の「ベーシック・インカム日本ネットワーク設立集会」でも販売します。どうぞよろしく。
 まず斎藤の第3部「日本のBIをめぐる言説」だけでもこの本を買う価値はある。膨大というほどではないが、近年、いろいろな人がBIを語っている。どうなっているのか。そろそろ「専門」の人でもないと見渡せないようになっている。そこで斎藤が、日本語で出た著書・論文については網羅的に、またネット上のものなど他の媒体に載ったものも含め、紹介し、そして斎藤の視点で、ときにかなり辛辣に、論評している。
 私(立岩)が書いたのは第1部「BIは行けているか?」。この問いに対する答はどうなるか。「否」ではない。しかし(と進むから、めんどくさいやつだと言われるのだが)、今現在言われることがあるような、一人月5万だか8万だかを出して、そしてそれで終わりというような手切れ金のようなものであるなら、また、そのための財源として税率一定の所得税(フラット税)あるいは消費税を使うというのであれば――消費税そのものに常に反対であるわけではないが――、別のものの方がよいし、また今ある制度をよりましにする方がましであると私は言わざるをえない。
 そして、BIがよいと言われる際、よく制度が「簡素」であることがあげられるが、そうか。そしてそれはどれほど大切か。また「スティグマの回避」があげられることもあるが、それはどれほど「本筋」の話なのか。そして「働かない権利」といったことも言われる。その主張がもっともな文脈はある。しかしBIを受け取ることは「権利」であり、そのための徴収は「強制」としてなされる。とすると、やはり「労働(の義務)」のことをどう考えるのかという問題は片がついていないのではないか。
 といったことを私の担当した部分では書いている。やはり基本的なことは考えておかねばならないと思う。しかしそれでは「前向き」でないと言われるだろうか。私に案がないわけではない。第1章「此の世の分け方」をどうぞ。
 対して、斎藤の第2部は、BIを力強く肯定する。ただその肯定の仕方は、日本でよくある(らしい)話とは違うところがある。また私の話と違うようで、意外に違わないところもある。ちなみに、本の副題の「分配する最小国家」という語は私が以前に使った語だが、斎藤はそれを超えて「最大限に分配する最小国家」がよいと言う。ただその点についても私にそう異論はなく、そんな姿勢があまりBIの主張にないのはいやだと思っている。そしてその主張は斎藤が訳した『ベーシック・インカムの哲学――すべての人にリアルな自由を』(原著1990、訳2009、勁草書房)のヴァン・パリースの主張でもある。しかしその人と私が思うことも違う。
 どうなっているのか。こういう――少しだけ――ややこしい話もときに必要だと私は思っている。同時にまったく現実的に具体的に考えていきたい。給付と対になり同時に重要なのは「財源」論である。村上慎司・橋口昌治との共著書『税を直す』(2009、青土社)と合わせて読んでいただきたい。当方(生存学創成拠点)のHPからでも注文できます。

■立岩真也(たていわ・しんや) 1960年佐渡島生。専攻は社会学。立命館大学大学院先端総合学術研究科教授。単著に『私的所有論』(1997)『弱くある自由へ』(2000)『自由の平等』(2004)『ALS』(2004)『希望について』(2006)『良い死』(2008)『唯の生』(2009)


UP:20100324 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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