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二〇〇九年読書アンケート

立岩 真也 2010/02/01
『みすず』52-1(2010-1・2 no.):- http://www.msz.co.jp


 今年に限ったことではないが、ほとんど本を読むことができなかった。だから、ではなく、私が給料をもらっているところ(立命館大学大学院先端総合学術研究科/立命館大学グローバルCOEプログラム「生存学」創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造)の大学院生(と大学院の修了者)が昨年出した本を列挙する。名著といった種類のものではないが、いずれも読まれるに値するものだと考えるから、紹介する。(より長い紹介は、昨年末まで一〇一回続いてしまい終わった『看護教育』でのブックガイドにある→HPでご覧になれる。)
 ◇六月、P.ヴァン・パリース『ベーシック・インカムの哲学――すべての人にリアルな自由を』(勁草書房、原書一九九五)。教員の後藤玲子と昨年博士号をとった齊藤拓が訳し、両者の解説が付されている。この本の検討を含め(初出は『現代思想』連載)、わりあい話題になっているらしいベーシック・インカムについて、私と齊藤の共著の本がこの三月に青土社から刊行される。
 ◇六月、田島明子『障害受容再考――「障害受容」から「障害との自由」へ』(三輪書店)。例えば、田島もずっとその仕事をしてきた(&院生、昨年から大学教員)リハビリテーションの業界では「障害受容ができていない」のはよくない、ということになるのだが、いかがなものか、考えてみましょうという本。
 ◇八月、川口有美子・小長谷百絵編『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』(医歯薬出版)。川口が院生。題の通りのすぐに役に立つ実用書であり、同時に、呼吸器を付けて家で暮らそうという明確なメッセージをもった本。私も一章書かせてもらった。
 ◇九月、立岩真也・村上慎司・橋口昌治『税を直す』(青土社)。第1部の「軸を速く直す――分配のために税を使う」を私が担当。村上は今より累進性が高かった一九八〇年代末の税率に戻した場合の税収を試算。橋口は貧困・格差についての本六〇〇冊余を紹介。この部分だけでこの本を買う価値はある。
 ◇十二月、川口有美子『逝かない身体』(医学書院)。ALS(筋萎縮性側索硬化症)にかかって、相当に早く動かなくなり、ほぼすっかり動かなくなった母親と、その身体を巡ることと、自分と、周囲のこと。発信できないことはどれほど辛いか、という答えられない問いにすぐに答えてしまう人に。
 さらに「生存学研究センター報告」が6冊(市販はされていない→送料実費で送付)。◇一月、有馬斉・天田城介編『特別公開企画「物語・トラウマ・倫理――アーサー・フランク教授を迎えて」』。◇二月、青木慎太朗編『視覚障害学生支援技法』。◇二月、松田亮三・棟居徳子編『健康・公平・人権:健康格差対策の根拠を探る』 。◇三月、安部彰・有馬斉編『ケアと感情労働――異なる学知の交流から考える』。◇十二月、松田亮三・棟居徳子編 『健康権の再検討――近年の国際的議論から日本の課題を探る』。◇十二月、櫻井浩子・堀田義太郎編『出生をめぐる倫理――「生存」への選択』。
 そして◇二月、『生存学』創刊号(生活書院)→この三月には第二号が刊行される。教員の小泉義之天田城介が編集を担当。院生の論文の他、教員が加わった座談会「生存の臨界」他。近い過去から現在まで、身体と社会を巡って書かれ言われたことを振り返りながら考えることを、院生諸氏とともに行なっていきたい。そう座談会で話したのだが、私としての仕事は三月刊行の 『唯の生』の一部で、そして本誌の連載「身体の現代」で少し行なってみている。連載はみすず書房から出される本になる。


◆立命館大学生存学研究センター 編 20090225 『生存学』,生活書院,414p. ISBN-10: 4903690350 ISBN-13: 978-4903690353 \2310 [amazon][kinokuniya] ※
◆Van Parijs, Philippe 1995 Real Freedom for All-What (if Anything) Can Justify Capitalism? Oxford University Press=20090610 後藤 玲子齊藤 拓 訳 『ベーシック・インカムの哲学――すべての人にリアルな自由を』,勁草書房,494p. ISBN-10: 4326101830 ISBN-13: 978-4326101832 \6000 [amazon][kinokuniya] ※
田島 明子 20090625 『障害受容再考――「障害受容」から「障害との自由」へ』,三輪書店,212p. ISBN-10: 4895903389 ISBN-13: 978-4895903387 1890 [amazon][kinokuniya] ※
川口 有美子・小長谷 百絵 編  20090810  『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』 ,医歯薬出版,212p. ISBN-10:4263235290 ISBN-13:9784263235294 \2730 [amazon][kinokuniya] ※ v03 
◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 20090910 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon][kinokuniya] ※ t07.
川口 有美子 20091215 『逝かない身体――ALS的日常を生きる』,医学書院,270p. ISBN-10: 4260010034 ISBN-13: 978-4260010030 \2100 [amazon][kinokuniya] ※

有馬 斉天田 城介 編 20090130 『特別公開企画「物語・トラウマ・倫理――アーサー・フランク教授を迎えて」』,立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告5,243p. ISSN 1882-6539 ※
青木 慎太朗 編 20090205 『視覚障害学生支援技法』,生存学研究センター報告6,182p. ISSN 1882-6539 ※
松田 亮三棟居 徳子 編 20090220 『健康・公平・人権:健康格差対策の根拠を探る』 ,立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告7,130p. ISSN 1882-6539 
安部 彰有馬 斉 編 20090319  『ケアと感情労働――異なる学知の交流から考える』 ,立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告8, 248p. ISSN 1882-6539 ※
松田 亮三棟居 徳子 編 20091204 『健康権の再検討――近年の国際的議論から日本の課題を探る』,立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告9, 99p. ISSN 1882-6539 ※
櫻井 浩子堀田 義太郎 編 20091204 『出生をめぐる倫理――「生存」への選択』,立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告10, 194p. ISSN 1882-6539 ※


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