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異なる身体のもとでの交信

COE&新学術領域研究が目指すもの・2010

立岩 真也 2010/03/25
青木 慎太朗『視覚障害学生支援技法 増補改訂版』
立命館大学生存学研究センター,生存学研究センター報告12,208p. pp.149-172


 *[…]は初版(2009年)に掲載された文章と同じ

■2009年2月に記したこと

 […]

■2010年1月に記すこと

 障害学生支援関連では、2009年5月には、「ダスキン・アジア太平洋障害者リーダー育成事業」で台湾から来日された陳盈如(チン・エイジョ)さん等の参加を得て、国際シンポジウム「障害者による支援の未来――日・台・韓協働の可能性」を開催した。また9月に立命館大学で開催された障害学会第6回大会ではシンポジウム「障害学生支援を語る」が開催された。これらは、先端総合学術研究科の視覚障害院生で、この報告書の編者である青木慎太朗と、2009年に入学したばかりのやはり視覚障害院生である安田真之、他によって企画され、実施された。その記録は学会誌『障害学研究』に掲載される予定である。その他、増補されたこの報告書で別途報告がなされている。
 以下は「交信」に関わる研究について。詳しくは生存学HP(http://www.arsvi.com)の表紙の下にある「異なる身体のもとでの交信」をご覧いただきたい。研究は進んでいる。その中から幾つかごく簡単に紹介する。
 聴覚障害の人の交信関係では、上に「とても高額なAmi Voiceというソフト」と記したものを2009年の障害学会の大会のおりに使ってみた。それまでの研究から予想されたことではあったが、今のところ、リアル・タイムの文字表示のために使えるものではない。ただこれも使いようかもしれないと私は思っている。通訳でも同時通訳でなく逐語通訳というものがある。授業などであれば、文字表示を待って、場合によっては発話者(である例えば教師)が直してから、次を話せばよいかもしれない。人間(「多数派」の社会)を機械に合わせることもあってよい。「社会の方を変えるのだ」というのが「障害学」の教えでもある。その線に沿った案でもある。
 ともかく、手話・PC要約筆記は大切であるに決まっているが、それだけではやはりまにあわない。ハード・ソフトの技術をどうやって使うか、たんに技術の進歩による進展という方向だけでなく、様々考えたり調べたりすることがあると思う。この(2010年の)2月3月には、聴覚障害者やその関係者の団体から人をお招きし、シンポジウムを行うことにもなっている。手話通訳やその養成の現状や課題についても話し合われることになっている。みずほ福祉助成財団の平成21年度社会福祉助成金研究助成を受けて「効率的かつ持続可能な手話通訳制度の構築可能性に関する研究」も始まっている。
 身体が動かない人の交信の関係では、一つ、2009年の8月、NEC社会貢献室の協賛を得て、「生きるためのコミュニケーション――NEC難病コミュニケーション支援講座」を開催した。また、NPO法人「ある」の活動の一部としても位置づけられる「スイッチ研」のメンバーが、おもに京都市内のALSの人たちのコミュニケーション支援の研究と実践を行っている。その記録をHPに掲載している。
 そして視覚障害の人たち――でなく読書に困難がある人全般――の関係。まず、身近なところでは、2009年度先端総合学術研究科に入学の人に視覚障害の人が3人いて、視覚障害の人が6人になった。またすこし大きなところでは、本報告書でもふれられているように著作権法が変更され、政令が出て、状況が変わりつつある。また、それを先取りするつもりで、書籍デジタルコンテンツ流通に関する研究会(松原洋子座長)を2008年から2009年にかけて開催、NPO、国立国会図書館、総務省等の関係者の参加を得、研究者が加わって議論した。その成果が、2009年7月に『書籍デジタルコンテンツ流通に関する研究会報告書』(財団法人マルチメディア振興センター)として公表されている。
 まず、研究科や大学に存在する必要に対応せねばならない。2009年度、私たちは文部科学省から大学をへて大学の障害学生支援室に降りていた予算の(必要に比して多くない)一部を研究科で使うことになった。よく言えば、障害をもつ院生自身が自分たちにとって使いよい仕組みを作っていけることになったということだが、実際には、このかんなかなか機能しなかった大学の「支援」にしびれを切らしてということであり、面倒な仕事を自らに抱えてしまったというところもある。本報告書第4章を担当し、テキスト校正や出版社の対応についてよく知る植村要他がその面倒な仕事に携わってくれている。ただ、この2010年1月から、データを提供する施設として大学の図書館等も含められることになった。大学図書館(等)が提供の主体となるのだが、実際の情報の収集や提供について必要な技術や情報を有しているところはたいへん少ない。また一つひとつの図書館(等)がその業務を独立して行うのは、言うまでもなく、非効率的である。なんらかの組織がそうした業務を行う、各図書館(等)がそれを利用するという形態が考えられるだろう。そのために考えるべきことするべきこともまた多くある。そして私たちはそれを実際に試すことできる場所にいるのでもある。差し迫った必要に応えるためにも、より大きな仕組みを効率的・効果的に作り機能させるためにも、するべきこと、できることからやっていこうと考えている。
 本報告書は最初の1000冊がすぐになくなり、さらに1000冊増刷した。そして韓国語版(印刷版とHP版)・英語版(HP版)も作成された。そして今回の増補改訂版刊行という運びになった。上記した全体の仕組みを作っていくのはこれからの、しかしそう時間を取っていられない課題だが、その仕組みは具体的な技術とともに機能していくのであり、そして、技術とそれを巡る社会の現状の把握は常に必要である。この報告書の刊行とその改訂の増補改訂の意味もそこにある。


グローバルCOE「生存学」創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造・申請書類(2007.2提出)より

 […]


◆立岩 真也 2009/02/05 「異なる身体のもとでの交信――COE&新学術領域研究が目指すもの」,青木慎太朗編『視覚障害学生支援技法』


UP:20100101 REV:20100209, 0614
障害学生支援(障害者と高等教育・大学)  ◇情報・コミュニケーション/と障害者  ◇生存学創成拠点の刊行物  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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