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中間報告報告他

立岩 真也 2010/03/20
『生存学』2:7-10 生活書院


◆定義?
 二〇〇九年三月に刊行された本でこの項目を担当して次のように書いた。

 「生存学(羅)Ars Vivendi 過去に他の使用例がないわけではないが、立命館大学的には、グローバルCOEの申請にあたりごく短い標語を求められ、2006年末に考案された語で、採択されたために、2007年度から若干の予算とともに実在することになった。その研究企画・拠点は、正しく(長く)は「立命館大学グローバルCOEプログラム〈生存学〉創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造」と呼ばれる。その英訳には苦慮し、結局「Ars Vivendi: Forms of Human Life and Survival」となった。「Ars Vivendi」とはラテン語で「生の技法」といった意味である。生存学がなんであるのか、それを定義する必要はたぶんない。申請書類等、上記拠点の関係者が何をしようとしているのかは、また上記拠点その他で毎日産出される「成果」は、そのウェブサイトに掲載されている。人手は常に不足しており、おそらく経済的にはどんな利得ももたらさないであろうが、研究活動への参画を常に歓迎している。」(望月昭・サトウタツヤ・中村正編『対人援助学キーワード事典』、晃洋書房、二〇〇九、p.127-128)

◆中間報告
 同年七月七日、日本学術振興会の建物で行われた「中間評価ヒアリング報告」で次のように、資料を配り、パワーポイントを見てもらいつつ、報告した。これは原稿で、たしかいくらかは変えて話したはずである。

 「立命館大学生存学創成拠点です。いただいた質問の順序を変えて、お答えします。
 まず、質問2「特筆すべき進展」について。計画書に記しているように生存学は多くの課題を掲げています。多様に多面的に展開され、群として成果が生み出されます。したがって、成果・進展については、それを列挙する他ありません。補足資料をご覧ください。○頁以下です。短いものを含め、三年分、一八七七があがっています。
 ただ、2つだけ例をあげます。筋ジストロフィーALS(筋萎縮性側索硬化症)といった神経難病・重度の障害があります。治療法は今のところありませんが、人的・社会的な支援があれば長く生きられます。だからその介護やIT機器を使ったコミュニケーション、福祉や医療の実践や制度の研究が必要です。生死の選択の対象・主体ともされますから、倫理的な考察も必要です。しかしこれまでそうした研究はたいへんわずかでした。私たちは、京都・滋賀・東京・千葉等でその人たちの生活に関わりながら調査研究を進めてきました。また韓国・台湾・モンゴルなど世界各国の当事者とともにシンポジウム等で交流し議論してきました。その結果、この主題関連に限っても、論文・学会報告・講演等が、この三年に[一九年に四三、二〇年に五一、二一年に六〇と累計]一五〇を超えます。院生が編者・著者となる書籍が今年二冊刊行されます【刊行された。八月に川口有美子・小長谷百絵編『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル――暮らしと支援の実際』、医歯薬出版。十二月に川口『逝かない身体――ALS的日常を生きる』、医学書院】。とくにホームページ上の英語・中国語・韓国語のページを増やしつつあり、海外への発信に務めています。調査を韓国で行いました。ニューヨーク・ウィーン・ベルリンでの研究報告があります。院生の一人は国際組織の理事を務め、そこにも成果を発信する場があります。知られていませんが、こうした重度の障害をもった人が生き続けるための営み・仕組みにおいて、日本は先進的な部分があります。私たちの研究は、世界の他にないものを、私たちもその発展に関与しながら、世界に発信していくものです。
 もう一つ、本拠点には視覚障害のある院生が六人います。その人たちが中心になって、視覚障害をもちながら勉強・研究を進めるための研究を進めています。その成果の一つが報告書『視覚障害学生支援技法』です。文字のディジタルデータ化に関わり、著作権などの制度、出版社の対応状況等を調べ、データ化の具体的な手法を示すものです。この二月、一〇〇〇部印刷し、全国からの要望ですべてなくなり、一〇〇〇部増刷しました【これもなくなった。二〇一〇年三月に増補改訂版を刊行】。そうした成果も踏まえ、中央官庁、地方自治体、大学等の教育機関、出版社をつなぎ、障害者が利用可能なディジタルデータを流通させる仕組みを作りつつあります。この冊子の韓国語版も作成中です【作成された】。またアフリカの視覚障害者との研究交流も進めています。
 こうして発表してきたものの全てはホームページで公表されます。その多くは全文を読むことができます。その英語・中国語・韓国語版を作っています。教員・院生他全員のページがあり、全員、約一三〇人について英語ページがあります。年間のアクセスは八〇〇万件を超えます。
 これが質問5「日常的な研究活動の重視とは何か」に対するお答えでもあります。補足資料○頁〜○頁に、この六月、一か月分のホームページの更新記録を付しました。項目だけの列挙です。それが約十万字あります。そこから各々の内容にリンクされています。
 次に、質問4、また留意事項の三番目「人材育成」について。大学院専任の教員が、研究計画の立案、研究・発表を支援しています。例えば、日本学術振興会特別研究員の数はこの三年、十一人→十二人→十三人と推移しています。この数は多いはずです。今まで八【二〇一〇年三月現在で十二】冊刊行している生存学センター報告のうち四【→八】冊の編者にPD・院生がなっています。各種学会誌の他、今年創刊号を出した雑誌『生存学』に多数の原稿が掲載されています。他に、一九年以降のPD・院生による単著・編書が七【→十一】、訳書が五【→六】、分担執筆が十二【→十五】点あります。既刊のものから幾つかをあげます。
 そして、若い学生とともに、病や障害を経験する本人がたくさんいて、また、医療・福祉の専門職者や民間で活動してきた人がやはり多くいます。これら多様な人たちが同じ場にいて互いに与え、得ることが大きな効果を生じさせています。所謂社会人院生たちは、自らの経歴・人生の中から研究の主題を見つけ、その上で様々な学問から得るものを得て、成果をまとめ、そして自らの活動に戻り、それを生かし社会に還元しようしています。
 作業療法士としての仕事の疑問から発し、さきあげたうちの一冊である『障害受容再考』を出版した田島さんもその一人です。彼女は大学教員に転じました。ただ私たちは、研究教育職に就く人の育成は使命の半分だと考えています。例えば葛城さんという院生がいます。自治体職員を退職した人で、長く滋賀県の難病者の連絡協議会の活動を担ってきた人です。実のお姉さんをALSで亡くされた方でもあります。自らの組織の歴史をまとめ、これからの活動の方向と国・自治体の政策を展望するために、関心を共有する多数の院生がおり、国内外の情報がやりとりされる、この研究拠点の存在が大きな意味をもっていると語ります。その活動は新聞・テレビでも紹介されています。
 私たちは、大学院生・修了者の研究支援に最大の力点を置いています。それがCOEのそもそもの主旨でありましょう。本拠点においてはその成果があがっています。院生による研究プロジェクト、海外での研究活動を支援しています。例えばこの支援によって英国リーズ大学に赴いた院生の協力を得て、その障害学センターとの関係を形成しつつあります。
 そして質問3「組織の連繋」について。その全体はお示している通りです。一見複雑ですが、専門を異にしつつ互いをよく知る教員によって構成されています。個々のパートが別々に進んでいる組織と違い、多種多様な院生を含め、私たちメンバーは全体の流れを知り、互いの研究を知っています。それによって他の研究を高め、自らの研究を広げていっています。そのために必要と考え、そして実際に機能させているのは、日常的な交信です。総勢一二〇名を超す教員・PD・院生・事務局員全員が加入しているメーリング・リストがあります。雑多な事務連絡も含みますが、研究内容に関わる意見交換もなされます。一年と三か月で五〇〇〇通【二〇一〇年三月には累計七五〇〇通】、多い日は一日三〇通を超えます。そしてここでも、ほぼ毎日その日の成果を知らせるホームページが重要な役割を果たします。
 質問1「留意事項・参考意見」への対応について。いだたいた三点のうち二点が残っています。
 留意事項1「障害学・生命倫理学との関係」について。いずれとも深い関係を持ちつつ、独自の貢献ができていると考えます。
 障害学については、一九年度、二一年度の学会大会を共催で開催、本拠点の院生他の報告が報告の多くを占めています。英国との関係だけでなく、日韓両国で研究会を行う、日本語の書籍を留学生が韓国語で翻訳・出版する等、韓国の障害学の進展にも協力しています。同時に、病と障害の差異を強調する傾向のある障害学に対し、私たちは、障害者でもあり病者でもある人たちの生活の全体を捉え、何がなされるべきかを考究しています。例えばそれで、最初にあげた神経性難病の人たちの研究が可能になります。
 次に、生命倫理学の領域でも既に研究業績を多く発表しており、それを継続発展させていきますが、その中で、より歴史的・社会的な文脈を重視します。生命倫理学自体を社会と時代の中に起こった出来事として捉え、西欧的な価値に強く規定され、本人の自己決定を言いながら、生命の質の高低を計れるとするその妥当性を吟味しようとしています。そうした業績も発表しつつあります。
 そして今申し上げたことは留意事項2「日本の学なのか世界の学なのか」にも大きく関係しています。私たちは、すくなくとも現在の学の主流とされるものが普遍的で疑問の余地のないものであり、それを模範に学を構築していきさえすればよいとは考えていないのです。日本を含むアジアには独自の思考や実践の蓄積があります。アフリカにもまた他の地域にもあります。そしてそれらは知られてよいほどには知られていません。私たちはそれらを掬い上げ、その意義を、問題点とともに、検証しようとしています。私たちの著作を多言語化すること、まずとくにアジア諸国で刊行する計画を進めているのもそう考えてのことです。
 これらの活動は、それぞれの学に貢献しながらも、独自の研究拠点を形成し維持することによって可能になり、容易になっています。ただそれにはしょうじきお金がかかります。きちんと話をしたり話をうかがうためには、モンゴルからでもどこからでも、人工呼吸器をつけて介助者とともに飛行機でやってくる人々を迎えねばなりません。それは一度実施しました。同時に、通訳し、翻訳し、世界に発信する仕事を大規模に進めねばなりません。大学からの強力な支援を受け、科研費・民間助成を得て活動していますが、包み隠さず申し上げます、お金は足りておりません。
 以上です。ありがとうございました。」

 ちなみに「中間評価」の結果は「B」だった。もっとするべきことがあり、できることがあるとは思っている。しかし、この評価が相対評価である限りにおいて、私は不服である。


UP:20100208 REV:20100209, 0404
「生存学」創成拠点  ◇『生存学』2  ◇立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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