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シンポジウム「障害学生支援を語る」に寄せて
ここで行なわれていること
[English]
立岩 真也
2009/09/26
障害学会第6回大会
このシンポジウムの趣旨は、
青木慎太朗
(立命館大学大学院先端総合学術研究科)と
安田真之
(同)が書いてくれている。学会のシンポジウムであるなら大学院生や教員を招くというのが普通に考えつくことだろうが、幾人か学部に在籍している/いた学生に依頼することを考えたのは彼らである。また、身体障害や視覚障害ということであれば、自分たちや自分たちの仲間がその当人だから、そしてその種の人たちについてはこれまで比較的多くが語られてもしているから、また自分たちもその研究をし成果を発表しているから――青木編
『視覚障害学生支援技法』
等――、別の障害の人たちを招こうと考えたのも彼らである。参加者のみなさんにとって意義あるシンポジウムになってくれればと思う。ここでは、このテーマに私たちがどう関わっているのか、また関わらざるをえないでいるのかについてすこし記しておく。
私が働いている職場(
立命館大学大学院先端総合学術研究科
)には障害学生がいま、すくなくとも10人はいる。視覚障害の人が6人いる。車椅子の利用者が3人いる――4人だったのだが、今年の6月の末、たいへん残念なことに、
竹林弥生
さんがガンのために亡くなられた。精神障害の人の数は数えようだが、すくなくとも「手帳」をもっている人が1人いる。発達障害者という言葉で括られる人たちも、むろんこの言葉の定義によるが、幾人もいるだろう。そしてこうした院生たちはこれからも増えるだろう。だからまず、そうした大学院生への対応のことは考えざるをえない。そして、このことを研究の主題としてこの大学院に来ている人もいる。本大会の報告としては
安田真之
「学生ボランティアを中心とした障害学生支援の課題――日本福祉大学における障害学生支援を手がかりとしての考察」
、
青木慎太朗
・
安田真之
「視覚障害大学院生の研究支援における課題――立命館大学大学院における「視覚系パソコン講座」から見えてきたもの」
がある。
他にも様々な障害や病の「本人」、そして関係者が多数ここに大学院生としてやってきている。そんなこともあって、私たちは2007年にグローバルCOEプログラムに応募するに際して、「生存学創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造」という看板を掲げることにした。それは採択されることなり、私たちはいっそう忙しい日々を送ることになった。そのプログラムには、T「集積と考究」、U「学問の組換」、V「連帯と構築」の3つの柱があるのだが、そのUはさらに3つからなっている。その
概要
から引用する。「1[教育研究機構]障害等を有する人が研究する機構を示す。2[技術開発支援]自然科学研究・技術開発への貢献。利用者の意向を伝え、聞き、やりとりし、作られたものを使い、その評価をフィードバックする経路・機構を作る。3[研究技術倫理][…]。」
ただこのCOEに提供されているお金はずいぶんと少ない。私たちの研究活動にはまったく足りない。そんなこともあり、科学研究費・新学術領域研究(研究課題提案型)に応募することにもなった。
「異なる身体のもとでの交信――本当の実用のための仕組と思想」
という題で応募した。それは採択され、2008年度から2010年度、この資金を得て活動することになった。T「交信の仕組」とU「身体と装置の思想」という枠組みのものだが、そのT「交信の仕組」は1「おもに視覚障害の人に」、2「おもに聴覚障害の人に」、3「おもに不動の身体の人に」という3つからなっている。
1は、今述べたたように直接に利害関係のある院生がいることによる。この大会でも関連する報告がある。
植村要
・
山口真紀
・
櫻井悟史
・鹿島萌子
「書籍のテキストデータ化にかかるコストについて」
。さきほど紹介した
『視覚障害学生支援技法』
も刊行された。また本研究科の教員でありCOEのメンバーである
松原洋子
が座長を務めた研究会(障害学会理事の
石川准
も参加、
立岩
も参加)の報告書『書籍デジタルコンテンツ流通に関する研究会報告書』も発表された(
http://www.fmmc.or.jp/shoseki/090818/sho090818.html
)。研究期間内に「本当の実用のための仕組」を作ろうと考えている。
2を実際に必要とする院生はここにはまだいないのだが、一つには、偶然のようなことから音声を文字化する
アミボイス
(
http://www.advanced-media.co.jp/index.html
)というソフトのことを知らされ、買って、試し始めている。他にも、院生他による研究活動が始まっている。今回の大会報告では、
坂本徳仁
・
佐藤浩子
・
渡邉あい子
「聴覚障害者の情報保障と手話通訳制度に関する考察――3つの自治体の実態調査から」
、
櫻井悟史
・鹿島萌子・
池田雅広
「音声認識ソフトを用いた学習権保障のための仕組み」
がある。音声認識ソフトを使い音声を文字化して映してみることを――なかなかうまくはいっていないのだが、またもちろん手話通訳・PC要約筆記と併行的に、試行的に――この大会で行なわせていだたく。それがなんとかいくらか作動したとしてだが、感想や意見をいただければと思う。
3は、ALS等、身体が動かなくなる障害をもつ人たちに関わる研究を、ときにその支援に関わりながら、行なってきたことに関わる。今回の大会での報告としては、
西田美紀
「医療的ケアを必要とする進行性重度障害者の単身在宅生活に向けての課題」
、
長谷川唯
「重度障害者の在宅支援体制の事例検討」
、
山本晋輔
「重度障害者の単身在宅生活における住まいの実態と課題」
、
伊藤 佳世子
・
川口 有美子
・
川島 孝一郎
・
野崎 泰伸
「ALS――人々の承認に先行する生存の肯定」
、大山 良子・
伊藤 佳世子
・河原 仁志・高阪 静子・林 典子・田中 環
「長期療養の重度障害者の地域移行における支援方法の検討――筋ジストロフィー患者の地域移行事例から」
、
佐藤浩子
・
野崎泰伸
・
川口有美子
「重度障害者等包括支援について――個別と包括の制度間比較」
がある。そして声が出ず、そして身体もわずかしか動かないとなれば、どのようにコミュニケーションをとっているかが問題だ。本大会報告として
韓 星民
・天畠 大輔・
川口 有美子
「情報コミュニケーションと障害の分類」
がある。
こうして、私たちの活動に即していくと、情報関係に傾いていく。それはそれで大切なことであるから、続けていく。ただもちろん、障害学生の支援とは、情報に関わる支援だけではない。さらに、問題は、たんに「環境」を整えれば勉強・研究ができるようになる、だからあとはその環境を整備すればよいというだけの問題ではないかもしれない。情報の即すれば、ある人たちには使えない情報を使える形(例えばテキストデータや点字)に変換するというだけですまない場面もあるだろう。それは、科学研究費を得てなされる研究ではU「身体と装置の思想」に関わる。
そんなことまで時間の限られた今回のシンポジウムで議論することは難しいだろうとは思う。ただ、具体的に悩んでいることあるいは実際に起こっていることが様々に語られ、参加者がなるほどと思ったら、それで十分に意義があると思う。また、その中から問題の幅が知らされるもする、そんな場になったら、それもまたうれしいことだと思う。
■cf.
◆
情報・コミュニケーション/と障害者
◆
障害者と高等教育・大学
◆
障害者と教育
◆立岩 真也 2007/08/20
「多言語問題覚書――ましこひでのり編『ことば/権力/差別――言語権からみた情報弱者の解放』の書評に代えて」
,『社会言語学』7
◆立岩 真也 2009/02/05
「異なる身体のもとでの交信――COE&新学術領域研究が目指すもの」
,青木慎太朗編
『視覚障害学生支援技法』
UP:20090919 REV:20090920, 21, 1108(英語ページにリンク)
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