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第9章のコメントと質問への応答

立岩 真也 2009/01/20
公開シンポジウム:上野千鶴子・中西正司編『ニーズ中心の福祉社会へ:当事者主権の次世代福祉戦略』
(医学書院、2008年)を読み解く
 於:東京大学農学部キャンパス


*報告書が刊行される予定です。できたらお知らせいたします。→できました。↓
*大沢 真理 編 2010/03/20 『公開シンポジウム『ニーズ中心の福祉社会へ:当事者主権の次世代福祉戦略』(上野千鶴子・中西正司編、2008年)を読み解く』,GCOE「グローバル時代の男女共同参画と多文化共生」社会科学研究所連繋拠点研究シリーズNo.2,東京大学社会科学研究所,49p.

立岩 立岩です。いつも見かけるのと違うと思われた方がいるかもしれません。(笑)1年半ぶりにネクタイをして、それから昨日髪を切りました。それでこんななりをしています。さっき上野さんは、僕が僕だと気がつかなかったんですけれども。(笑)これは別にこの催しに敬意を表してというわけではなくて、私の親しかった 友人が亡くなって今日告別式があって、そんな悲しい理由からです。
  いただいたコメントについて、私が基本的にどういう構えでというか立脚点でものを言っているのかということを的確に紹介してくださったということで、それ以上加えることはありません。僕が実際書かなかったことも含めて話していただいたかと思います。
  それに加えて一部紹介していただいたところもありますけれども、僕は、徴収ということに関していえば強制的であり、なおかつ累進的である徴収が望ましく、そのことと、それを用いて各自が例えば自発性に基づきサービスを供給するということは何ら矛盾しないし、むしろ前者が後者を可能にするということは確かに述べています。
  また同時に、徴収においては広く大き▽0039 い範囲において徴収されるのが望ましく、と同時に供給においては時によっては小さな、非営利も含めた、あるいは非営利が大きな役割を占める組織が提供するのがよいということも述べています。こういったことはすべて、べつに新しくここで述べたことではなくて、私のものでも他のものでもっと長く書いてあるものもあります。
  今回それを少し詳しくきちんと説明すべきかなとも思ったんですけれども、すこし違ったことにいくらか分量をとりました。この本は研究会を踏まえてできているんですが、そこで現場はこうなっているという報告が幾度もありました。例えば、本人がすごく遠慮深くて、本当はこういうことをしなければいけないはずなのに、本人がもういいと言ってしまうことがあるということです。これについてどう考えるのか。他方、本人の言うとおりにしたら本人は幾らでも要求してしまうのではないかという懸念も語られることがあります。これが「当事者主権」と整合するのか。私は整合すると思っていますが。この辺の記述を若干ふやしてありますので、そこのところも見ていただければと思います。それだけです。
  あとは、今回のものはそんなに長いものではなくて、例えばケア、介護に関する基本的なことは『弱くある自由へ』(青土社、2000)という本の全体の3分の2ぐらい使って書いてあります。そういったものを見ていただければ、それで補っていただけるかと思います。
  あとは宣伝にして終わりにします。私は今日、朝6時に京都を出てきたのですが、いろいろな本を持ってきました。売れないと京都に持って帰らないといけなくて重たくて嫌なので、帰りに買ってください。(笑)3分ぐらいでいきましたかね。できるだけ時間を残したいので以上にします。ありがとうございました。

『弱くある自由へ』表紙

▽0045立岩 日笠さんへの回答を含めて。累進性を高めるとよくないという話はだいたい二つあって、一つは働く気がなくなるという話で、それから金持ちが海外に逃げていくという話が一つ。一つ目の話については今、『現代思想』で連載をやっていて、もう3回も書いているんですけれども、答えはそこに書いてあります(青土社から2009年夏刊行予定)。経済学的にもその話というのは立証されていない。理論的にも実証的にも論証されていないというのが答えになります。
  それから海外に逃避ということに関しては、これは論理的にはありえます。けれども、まずどうしたらどのぐらい逃げるか、その得失はどうかという話なんですよ。次に、逃避をどういうふうに抑止するというか、軽減するというやり方があるのかないのかという話です。まず、物に比べて人のほうが移動する可能性は少ないということが1点。それから、ある程度は逃げるだろうけれども、その逃げを含めて考えたってどっちのほうがお得なのかということを考える必要があるというのが2点目。逃げるということが基本的によくないことである、移動の自由ということを基本的に認めた上でもよろしくないというふうに考えるんだったら、幾つか手だてが打てるはずであるということが第3点目に言えます。
  とりあえず学者はそういった俗説というか通説を一つ一つあぶり出して反証を加えるというか、それが我々の仕事ということになってきます。その話と、官僚であるとか、あるいはその他もろもろの人を説得するというのは、たしかにまたちょっと違う話になることは事実だと思います。理屈を言っても聞かないやつは聞かないですから。官僚というのはどうなんでしょう。理屈を聞くべき層だとは思いますけれども。それは本当にいろいろな人がいろいろな言い方で言っていく。感情に訴えることのできる人がいれば、そういう言い方もあるでしょうし、理屈を言いたい人は理屈を言えばいいわけです。おのおのがそれぞれやれる範囲のやれる限界までのことで、ものを言っていけばいいというか、それ以外のやりようはないんだろう。これを答えと言うかどうかわかりませんけれども、そんなふうに考えております。以上です。


◆上野 千鶴子・中西 正司 編 20081001 『ニーズ中心の福祉社会へ――当事者主権の次世代福祉戦略』,医学書院,296p. ISBN-10: 4260006436 ISBN-13: 9784260006439 2310 [amazon][kinokuniya] ※ a02 a06 d00(更新)


UP:20090527 REV:20100427 
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
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