HOME > Tateiwa >

選挙はあった。しかし

立岩 真也 2009/09/05 時事通信配信記事


◆立岩 真也・村上 慎司・橋口 昌治 2009/09/10 『税を直す』,青土社,350p. ISBN-10: 4791764935 ISBN-13: 978-4791764938 2310 [amazon][kinokuniya] ※ t07,

  ※草稿

  選挙は終わった。変化があった。ただ、この何十年もの間に、いつのまにかできてしまったものの上に、勝った方も負けた方も乗っていた。そこがつまらなかった。とくに今度与党になる側は、もっと勉強して、もっとまともなことを言えばよいのに、と思う。それで『税を直す』という本をこの時期に出してもらった(青土社刊)。
  この国は、税金という仕組みを使って、多いところから得て、少ないところに、必要なところにお金を渡すことをだんだんしなくなった。今度議員になった人は、いや前からの人も、このことをたぶん知らない。
  消費税を巡る騒ぎの裏で、幾度も高所得者への税金を安くした。高くすると高所得者が働かなくなるとか、海外逃避が起こるとか、そして経済が悪くなるとか、理由は付けられ、繰り返された。しかしそれらは、考えてみるとあまり説得力がない。またこの政策は、レーガンのアメリカやサッチャーのイギリスのまねという面もあったが、それらの国が方針を変えた後も、日本は続けた。
  こうしてじり貧になってきた予算の枠を前提にして、節約して財源を確保するのだと言う。たしかに無駄遣いはよくはない。私自身はたくさん削れると思う。だが実際にはなかなか難しい。そのお金で暮らしてきた人たちがどうなるかという問題もある。消費税はたしかに取りやすい税だが、多いところから高い割合で取る機能はない。
  収入も資産も含め、多くあるところから多く得る。そして少ない人、また医療や介護など多く必要な人に渡す。税金はそのためにある。貯金や保険のようなものなら、わざわざ政府が担う必要はそうない。この基本が取り外された。外しても、合理化したり競争したり成長したら、結果的にはみなの生活がよくなるといった宣伝がなされ、信じてしまった人もいた。そして結果はひどいことになってしまった。
  政府や税の存在意義の基本を是認するか、それともそうでないか。本当の対立軸はそこにあったはずだ。だが、今度の選挙ではそうはならなかった。これまでがあんまりだったから選挙の結果はこうなったが、民主党に投票した人の多くも、その公約が「ずれている」と思ったはずだ。
  対立軸は基本的ではっきりしている方がよい。立ち位置がしっかりしていれば、個々の政策遂行の手際が少し悪くても冷静に見ていられる。そのためにも、歴史を知り、理屈を吟味して、こうすればよかったのにと振り返り、これからはこれでよいと思えたらよい。それで本を書いた。

 

  ※本についての記述を削るようにとの依頼を受けて、変えて、送付したもの(掲載予定)

  選挙は終わった。変化があった。ただ、この何十年もの間に、いつのまにかできてしまったものの上に、勝った方も負けた方も乗っていた。そこがつまらなかった。とくに今度与党になる側は、もっと勉強して、もっとまともなことを言えばよいのに、と思う。
  この国は、税金という仕組みを使って、多いところから得て、少ないところに、必要なところにお金を渡すことをだんだんしなくなった。今度議員になった人は、いや前からの人も、このことをたぶん知らない。
  消費税を巡る騒ぎの裏で、幾度も高所得者への税金を安くした。高くすると高所得者が働かなくなるとか、海外逃避が起こるとか、そして経済が悪くなるとか、理由は付けられ、繰り返された。しかしそれらは、考えてみるとあまり説得力がない。またこの政策は、レーガンのアメリカやサッチャーのイギリスのまねという面もあったが、それらの国が方針を変えた後も、日本は続けた。
  こうしてじり貧になってきた予算の枠を前提にして、節約して財源を確保するのだと言う。たしかに無駄遣いはよくはない。私自身はたくさん削れると思う。だが実際にはなかなか難しい。そのお金で暮らしてきた人たちがどうなるかという問題もある。消費税はたしかに取りやすい税だが、多いところから高い割合で取る機能はない。
  収入も資産も含め、多くあるところから多く得る。そして少ない人、また医療や介護など多く必要な人に渡す。税金はそのためにある。貯金や保険のようなものなら、わざわざ政府が担う必要はそうない。この基本が取り外された。外しても、合理化したり競争したり成長したら、結果的にはみなの生活がよくなるといった宣伝がなされ、信じてしまった人もいた。そして結果はひどいことになってしまった。
  政府や税の存在意義の基本を是認するか、それともそうでないか。本当の対立軸はそこにあったはずだ。だが、今度の選挙ではそうはならなかった。これまでがあんまりだったから選挙の結果はこうなったが、民主党に投票した人の多くも、その公約が「ずれている」と思ったはずだ。
  対立軸は基本的ではっきりしている方がよい。立ち位置がしっかりしていれば、個々の政策遂行の手際が少し悪くても冷静に見ていられる。そのためにも、歴史を知り、理屈を吟味し、あの時こうすればよかったのにと振り返り、これからはこうすればよいと思えたらよい。それが学者の仕事だとも思うから、私もその仕事をしてみている。

→◆立岩 真也・齊藤・拓 2010/04/10 『ベーシックインカム――分配する最小国家の可能性』,青土社,ISBN-10: 4791765257 ISBN-13: 978-4791765256 2310 [amazon][kinokuniya] ※ bi. 文献表


UP:20090831 REV:20090901, 1229
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
TOP HOME (http://www.arsvi.com)