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前に行くために穿り返す

立岩真也 2009/01/10 『朝日新聞』2009-1-10朝刊・京都:31 コラム「風知草」4
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  今回が八回目で最終回。ここのところ「経済」のことについて書いてきた。述べたのはとても簡単なことで、政府の役割の第一は、多くあるところから少ないところに移すことにあること、そんなことをすると景気が悪くなるといったことはまず考えられない、むしろ逆のはずだということだ。今、なされていることはそれと違うのだが、このたびはさすがに多くの人たちが、それが愚かなことであることを感じてはいるようだ。
  税については『現代思想』(青土社)という雑誌にいま連載をしていて、それに経済学を専攻する大学院生による歳入・歳出の試算などを加えて、今年の前半には本を出す。緊急対策、できることからやる、という慌ただしいことも時には必要だろうが、それも、落ち着いて考え決められる時にそれをしなかったつけが回ってきたということでもある。こんな時だからこそ、すこし引いて、基本的なことを考えておいた方がよい。
  そんなふうに、一方では、これからどうしていくかを考えて示していきたいと思っている。そしてそんなことを考えていくと、私たちが、とても多くのことを忘れていることに気がつく。
  まったく昔のことではない。十年前、二十年前のことである。その時も、景気をよくするのだと言って、金のある人もない人も同じ率の減税をして、そして、ずいぶん長い間そのまましておいた。それで歳入が減り、そしてそれを前提に、削りやすいものから削っていったら、この社会はこんなことになってしまったのである。
  そしてその時々に、人々がさんざん言ったことがあり、同時に、今から考えてみれば不思議なのだが、ほとんど言われなかったことがある。そして政治家にしても、経済学者にしても、あるいは自然科学者にしても、基本的には前向きの人たちだから、失敗は覚えていない。忘れることにしている。忘れることは、多くの場合よいことだが、よくないこともある。
  私たちが、税金を使わせてもらって、「障老病異と共に暮らす世界の創造」という副題をもつ「生存学」という共同研究企画を一昨年から始めていることは以前に述べた。それは基本的には前向きの企画なのだが、というか未来志向であるためにも、忘れられ隠されたことを拾って歩いていきたいとも思っている。お金のことや病のこと、障害のことや老いのことを巡り、様々な間違いが語られた。それを忘れない方がよい。よいことが言われたのに忘れていることがある。思い出した方がよい。

◆2008/10/04 「社会経験生かす大学院」
 『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」1
◆2008/10/11 「「障老病異」個々で探究」
 『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」2
◆2008/10/18 「良い死?」
 『朝日新聞』2008-10-18朝刊・京都:31 コラム「風知草」3
◆2008/11/08 「経済を素朴に考えてみる」
 『朝日新聞』2008-11-8朝刊・京都:31 コラム「風知草」4,
◆2008/11/29 「税金の本義」
 『朝日新聞』2008-11-29朝刊・京都:31 コラム「風知草」5
◆2008/12/13 「「税制改革」がもたらしたもの」
 『朝日新聞』2008-12-13朝刊・京都:31 コラム「風知草」6,
◆2008/12/20 「愚かでない「景気対策」」
 『朝日新聞』2008-12-20朝刊・京都:31 コラム「風知草」7,
◆2009/01/10 「前に行くために穿り返す」
 『朝日新聞』2008-1-10朝刊・京都:31 コラム「風知草」8


UP:20090106 REV:
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