HOME > Tateiwa >

「障老病異」個々で探究

立岩真也 2008/10/11 『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」2
購読申込→http://aspara.asahi.com/club/user/guest/choiceSubscription.do


  税金を使わせてもらって、「生存学」という企画を昨年から始めている。副題は「障老病異と共に暮らす世界の創造」という。
  その「障老病異」について、知ったり考えたりしてよいことよりも、この世に言われ書かれていることは少ない、それはよくない、と私たちは思ってきた。
  もちろん、医学や看護学その他は病人を扱ってきたし、社会福祉学その他は障害者や高齢者を扱ってきた。けれどもそれでは足りないと思う。どのように足りないのか。これは長い話になる。ただ一つ、それらの学問は多く、自らの仕事の対象としてその人たちを見る。そして自らの学問を語る時、それがどれだけうまくいくようになったかを語る。けれど、実際にはうまくいかないこともある。なおるようにがんばればそれでよいのだろうかという疑問もわく。
  そんなことを思ってなのか、自分が障害をもっていたり病を抱えていたりして、そんなところから「研究」をしようなどという人が大学院にやってきているということがある。たとえば、こないだ入試があって一人増えたから、四人の視覚障害者がいる。自分たちが勉強・研究をすることがどうしたらもっと容易にできるようになるのか、そのことを研究しようという人がいる。視力が回復するという医療を受けた人にとってそれがどんな経験だったのかを調べて書こうという人がいる。
  また、障老病異に関わり、お金になるあるいはならない仕事・活動をしてきた人がいる。お金になる方では、いわゆる「専門職」の人たちもずいぶんといる。大学などの教員をしている人もいる。近頃は看護学の大学院などもずいぶんと整備されてきたからそんなところで学んでもよい。ただ、自らの仕事をしていくためにも、これまで自分がしてきたこと、学んできたことから、すこし距離をとってみたいと思う人たちがいる。
  そして地域の組織等で活動してきた人たちがいる。お金にはならないながら、忙しく働いてきたのだが、それを振り返って、まとめたいと思う。また、もっと自分たちの力を強くしていくためにどんなことが必要なのか有効なのかを考えたいと思う。そのために何か使えるものがあったらよいと思ってやってくる。
  そんな人たちが、思いのほかたくさん集まってきている。ならいっしょにやろうということになった。その成果はホームページに載せている。「生存学」で検索すると出てくる。

 *題名は新聞社による

◆2008/10/04 「社会経験生かす大学院」
 『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」1
◆2008/10/11 「「障老病異」個々で探究」
 『朝日新聞』2008-10-11朝刊・京都:31 コラム「風知草」2
◆2008/10/18 「良い死?」
 『朝日新聞』2008-10-18朝刊・京都:31 コラム「風知草」3


UP:20081014 REV:
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
TOP HOME(http://www.arsvi.com)