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「救命・延命 医療の責務」

立岩 真也 2008/07/27 『読売新聞』2008-7-27朝刊:15


 「終末期医療 全国病院アンケート」
 『読売新聞』2008-7-26朝刊:1・3
 「終末期医療 全国病院アンケート」(特集)
 『読売新聞』2008-7-27朝刊:14・15の15左上に掲載

 *以下のコメントは『読売新聞』2008-7-27朝刊:15の15左上に掲載

■掲載された文章

 救命・延命 医療の責務 [題は新聞社による]
 立岩真也・立命館大学教授(社会学)

 医療・福祉制度と医療の差し控えに関係があるという認識は、これまで明確には持たれていなかった。この調査では医療全般の問題も聞いた。混沌とした状況とともに、制度的な制約から、なすべきことができない現実が示された。
 医療者たちは、医療を控えてよい場合があると思いながらも、ぎりぎりの決定をためらい、踏みとどまっているようだ。個別に検討する、医療的判断を重視するといったやり方が多く取られている。
 それは時代遅れで、患者の事前の指示通りにするのがすでに当然のようにも言われる。だが現場はもっと迷っている。看護や介護を含め、様々な不足を嘆きながら、不要な苦しみを避けようとしながら、最後まで本人によいことはしなければという思いのあることが多くの調査票からうかがえた。
 医療・福祉の現状では、医療側の対応は重要になる。必要なものが足りず、本人や家族の負担が大きい。すると本人や家族は医療を早めに終えてしまおうとし、医療が、それを止める側にまわらざるをえないことがあるのだ。
 今回の調査が大規模な病院に限られることには注意したい。経済的に厳しい人の多い病院・施設では、本人や家族の状況が直接に差し控えにつながる場合がある。
 多職種による協議や病院外の人も含めた検討は、進める必要がある。だがその手前で、救命・延命という基本的な医療の責務を再確認することが必要と考える。それは、なにより不足しているケアの充実と矛盾することではない。

■次の原稿?

 この調査では、終末期医療についてだけでなく、医療全般の問題も聞いた。結果、現在の混沌とした状況がそのまま示された。
 一方で医療を控えてよい場合があると思いながらも、ぎりぎりの決定をどうするか、医療者たちはためらい踏みとどまっているようだ。
 事前の指示通りにするのが既に当然とされているかに言われる。だが実際には、個別に検討する、医療的な判断を重視するといったやり方が多く取られている。
 それは時代遅れで間違っていると言われることがある。だが現場はもっと迷っている。その迷いの上で、看護や介護を含め様々な支援が不足している現状を嘆きながら、不要な苦しみを与えることは避けようとしながら、最後まで本人によいことはしなければという思いのあることが、多くの調査票からうかがえた。
 とくに医療・福祉の現状では、医療側の対応は重要になる。必要なものが足りず、本人や家族の負担が大きい。このことははほとんどの医療機関が認めている。すると、本人や家族は医療を早めに終えてしまおうとし、医療の側がそれを止める側にまわらざるをえないことがあるのだ。
 医療・福祉制度と医療の差し控えに関係があるという明確な認識は、多くは見られなかった。ただ今回の調査対象が大規模な病院に限られることには注意したい。経済的に厳しい人の多い病院・施設では、本人や家族の状況が直接に差し控えにつながる場合がある。  また、昨今の政策動向に多くの回答者は批判的だったが、仕方がないという捉え方もあった。すると、医療や福祉が不足に起因する差し控えを許容してしまうことにもなってしまう。
 多職種による協議や病院外の人も含めた検討は、今より進める必要がある。だがその手前で、救命・延命という基本的な医療の責務を再度確認することが、この状況では必要と考える。そしてもちろんそのことは、不足している心理的・精神的なケアの充実となんらか矛盾することではない。

■最初に送った原稿

 この調査では、終末期医療の決定とともに、高齢者医療に最も顕著に現れている医療全般の問題も聞いた。結果、現在の混沌とした状況がそのまま示された。
 一方で、制度的な制約からなすべきことができないことが示された。医療も医療以外のものも足りない。
 このことと終末期の「差し控え」に関係があるという明確な認識は、今回多はなかった。ただ今回の調査対象が大きな規模の病院に限られることには注意したい。経済的に厳しい人たちが集まる病院・施設がある。そこでは本人や家族の状況が直接に差し控えにつながっている場合がある。
 また、昨今の政策動向に多くの人は批判的だが、仕方がないという捉え方もあった。だがそうなら、医療や福祉が対応できないために仕方なく差し控えに流れていくことにもなる。
 そうした状況で、一方で医療を控えてよい場合があると思いながらも、ぎりぎりの決定をどうするか、医療者たちがためらい踏みとどまっていることを感じる。本人が決めるのが常に正しいなら、現状は遅れていることになる。だが、医療側で判断せざるをえないでいるという現実の中には、早すぎる医療の停止を医療の側が留保せざるをえないことがあるという理由もある。
 事前の指示通りにするのが既に当然のことであるかに言われる中で、現場はもっと迷っていることがわかる。この迷いは、医療の過剰よりも過少が現実の趨勢になっている現在、意味のあることだと考える。


■紹介・言及

◆立岩 真也 2009/03/10 『唯の生』,筑摩書房,424p. ISBN-10: 4480867201 ISBN-13: 978-4480867209 [amazon][kinokuniya]


UP:20080929
安楽死・尊厳死 2008  ◇安楽死・尊厳死立岩 真也
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