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障害を持つ人が福祉士を育てる――資格・採用試験ランキング(福祉、医療、保健)



■立岩 真也 20080501 「障害を持つ人が福祉士を育てる――資格・採用試験ランキング(福祉、医療、保健)」
 朝日新聞教育・ジュニア編集部 編 20080510 『2009年版大学ランキング』,朝日新聞出版,959p. ISBN-10: 4022745207 ISBN-13: 978-4022745200 2100 p.198,200 [amazon] ※
  *題は編集部による
  *以下は送付した原稿であり、実際に掲載されたものと同じものではない。

  まず古くからある大学がいくつかある。国立大学はこの分野の学部・学科を置かなかったから、多く私立がそれを担ってきた。そして学校の数・定員が増えてきたのはここ何十年の間だ。それは、高齢者福祉の仕事など、この分野の仕事が増えてきたからでもあるが、この種の仕事に資格をつけ、その資格を取得するための場として学校が位置づけられてきたからでもある。専門学校や短期大学も次々にでき、それらが模様変えして大学へということもよくあった。
  となると、学校側では、入学者を確保するため、資格試験の合格者を競うということになる。ただ、医学部などでもあることだが、これにはいろいろとやり方がある。試験に受かりそうにない人たちには受験をさせないといったやり方をとれば、合格率は上がることになる。そしてしょせん試験というものは、暗記した(そして受験の時の)知識で合格したりしなかったりするものだから、ひらすら試験のために知識を押し込むことだけに懸命になっても、合格者の数は増え、合格率が高まるということもありうる。だから、あまり数だとか率だけで判断しない方がよい。
  学校を出て就く仕事は様々だが、介護など実際に人の世話をする仕事と、そのような福祉や医療のサービスと人との間をつなぐ仕事に大きく分けることができる。資格の名前で言うと、「介護福祉士」の仕事は主に前者の仕事であり、「社会福祉士」は後者ということになる。資格ではない名称だと、前者についてはこのごろケアワーカーという言葉が使われることがあるし、後者についてはソーシャルワーカーという言葉が古くからあった。「精神保健福祉士」というのも、精神障害の人たちに関わるソーシャルワーカーということになる。それぞれがどんな仕事なのかについては本がたくさん出ていて、本屋さんに並んでいるから、まずはそれを読むのがよいだろう。
  人間が生きている限りはこういう仕事は必要だし、これからも増えていくだろう。けれどもここしばらくの間にずいぶんたくさんの学校ができたから、職種にもよるようだが、資格さえとれば、就職は安泰ということでもなくなってきているようだ。しかし、コーディネートとか指導とか、そんな「高級」な仕事でなければどうしても嫌だ、というのでなければ、人々が生きて障害をおったり病気になったりするのはなくなるはずのないことだから、なにかの仕事にはつける。ただし、たとえば介護の仕事だとそう高い給料は見込めないのも実際だ。自分はどんなつもりなのか、すこし考えてみてもよいだろう。
  じつは筆者は、こういう関係の学校に勤めているというわけではなく、その方面の学問をしているわけでもない。ただ、介護を利用しながら暮らしている人たちとのつきあいが少しあって、その障害をもつ人たちが、資格もなければ最初は知識も経験もない人たちを、自分たちで一人前の介護者に育てあげ、暮らしていくのを見てきた。その障害者たちは、学校で教えられることなんてたいしたことじゃないと言う。かえって、教わってきたことが仕事やその人たちとの関係を邪魔をすることがあるという。それにはもっともなところがあると思う。
  そしてさらに、介護なら介護の仕事をするために、介護福祉士も含め、とにかく資格がいるというふうになりつつあって、それはかえっって困ることなのだとその人たちは言う。自分たちが育てる方はカウントされず、お金と時間を使って学校などで資格を取らせないと使っていけないこととされてしまう。そして、「専門職」だとかいって、なんだか威張っているというのだ。その不満にももっともなところがある。
  そもそも資格というのは、その人が仕事ができるかどうか、利用者だけでは判断しにくいところがある場合のの品質保証のためにある。へんなものを買わされないため、消費者保護のためにある。その意味で役に立つ、こともある。しかし、同時に、その仕事をする人、教える人、そして学校が自らの仕事を確保し、囲い込むように作用することもある。他の人たちにこの仕事はさせない、とすることによって、自分たちを守るのである。こんな可能性があることにも注意を払ってほしい。けれど、こういう学校は「専門性」を確立したり守ったりすることに熱心で、自分たちにまずいことはあまり教えない。
  だから、この仕事に就こうという人にとっては、専門のこととは別のこと、いろいろなことを学べるところがよいと思う。そこのところは学校によってだいぶ違うはずである。そして、当たり前のことだが、学校で学べないこともたくさんある。このことは誰でも言う。しかし、資格のための受験勉強やら実習やらでとても忙しい学校では、学校以外の場を求めたくても求められない。そのことは、以前、一般教育の教員として、看護やリハビリテーション関係の専門職養成のための学校で何年か働いていたときに私が実感したことでもある。資格養成のカリキュラムは一律なので、そう違いがないことが多いが、それはそれと、「専門馬鹿」にならないための自由さやおまけの部分がどうなっているのか。調べてみたらよいと思う。


UP:20080421
立岩 真也
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