第4部では、南アフリカ共和国でのエイズ治療実現を阻んでいた諸問題に焦点をあてたエドウィン・キャメロンの「Witness to AIDS(エイズに関する証言)」、2004年12月に南アで出版された「Development Update: HIV and AIDS in Southern Africa」に収録された南アでのエイズ治療実施に伴う課題を取り上げたレポート、そしてTACの指導的メンバーとも親しい牧野久美子さんによるTACに関するレポートを紹介する。
南アは、アフリカでもっとも経済力のある国として大きな影響力を持っており、2010年にはサッカー・ワールド・カップが開催されることもなっているだけでなく、世界で最も多くのHIV陽性者が暮らす国の一つである。この南アにおけるエイズ治療めぐるさまざまな課題について検討することは、アフリカ諸国でのエイズ治療の現状と課題を考える上で参考になるだけでなく、世界的なエイズ対策の在り方を考える際にも重要な手がかりとなるだろう。
特に、2001年4月、南アの改正薬事法が知的財産権侵害につながるとして提訴していた製薬企業の提訴取り下げによる改正薬事法裁判決着が途上国でのエイズ治療実現・拡大にとって大きな意義を持つにもかかわらず、肝心の南アでは貧困者を対象とした公的医療機関でのエイズ治療開始が2004年4月になってしまったのはなぜか、そして誰のどのような取り組みによってエイズ治療が開始されたのかに注目する必要がある。
今年、タイ、ブラジルが強制特許実施によってエイズ治療薬製造に踏み出した。この事態の意味を考える、今後の国際的なエイズに関する取り組みのあり方を考える上でも、南アにおけるエイズ治療めぐるさまざまな課題と解決の努力を知る必要があるだろう。
牧野さんには、現在、AIDS Law Project のウェブサイトに全文が公開されている「Development Update: HIV and AIDS in Southern Africa」収録レポートの翻訳・出版許可、および日本アフリカ学会誌「アフリカ研究」掲載報告の転載許可を得るにあたって協力していただいた。