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「生存学」だってさ。2

―知ってることは力になる・47―

立岩 真也 200710 『こちら”ちくま”』54(2007-3)


  9月の「障害学会」の大会はまずまずうまいこといった、かな。情報保障(手話通訳やパソコン要約筆記、その他いろいろ)をどうやってすんなりやっていくか、が課題。その仕掛けをうまく作っていければ、「障害関係」でない集まりでも情報保障やりやすくなる。これ自体研究テーマですね。
  今は、NPOが一つ立ち上がることになって、関係者がばたばた書類の準備とかしています。アイディアは前からあったのですが、いろいろあって、実際に作ってしまうことに。書類もっていくのは10月の初日。いろいろあって、の部分も含め、その話はまたいたしましょう。
  今回は前回の続きで、その前に起こったこと、文科省の「認可」の時期で言うと6月から(お金が来たのはもっと後)始まったことになる「生存学創成拠点」のこと。
  書類を書いて応募して、通ると国から研究資金をもらえるという仕組みは、ずっと前からあるし、また続いています。近くに大学の教員がいたら、その人はだいたい「かけんひ=科研費=科学研究費」のことでぶつぶ言っているはずですが、それです。ただ、それより数をずっと絞って、多目のお金を出すから「成果」を出せという仕組みが5年ほど前から始まっていて、その第1期=最初の5年が終わって、第2期が始まり、それが「グローバルCOE」というおおげさな名称のものです(COE=センター・オブ・エクセレンス)。それに書類書いて応募して採用されました。メンバーは教員が16名、そして多くの大学院生、他。新たなメンバー(大学院生や、それがもう終わってしまった人たち)は年度ごと、入学試験等のたびに募集。
  この審査には書類審査だけでなくて面接試験みたいなものもあって(ヒアリング)、東京に出かけて、学長による演説が2分ほど、その後10分ほどしゃべることになっていて、原稿作って、パワーポイント作って(私はできないから同僚に作ってもらった)、時間通りにできるか練習して、本番でしゃべって、で委員のみなさんの質問とか受けるわけです。前回はその原稿の前半をそのまま紹介したのです。今回は後半。具体的にどんなことをするのか、そして「しめ」の部分です。文章(話)の性格上、おおげさですが、嘘を書いては(言っては)いません。
◇  ◇  ◇
  『第一に、知られていないことを知り、その上で考えるべきことを考えます。
  知りたいことはいくらでもありますし、また広く社会から情報を求めたくもあります。また得たものはすぐに社会に戻し、社会の人々に様々な難問について考えてもらいたくもあります。集積する情報、研究の成果は、そのつど、すべて公開していきます。私たちのHPはすでに約1万のファイル、文字情報だけで100メガバイトを有し、年間アクセスは900万ほどになります。
  学問は独占物ではなく、共有物、コモンズであると私たちは考えています。学的知識における「オープンソース」を目指します。残念なことでもありますが、私たちに追随できる研究機関はなく、競合を恐れることはありません。公表することの積極的意義もあります。私たち自身も、集めた素材をもとに、限界まで頭を使い、考えますが、同時に、あらゆる人に考えてももらいたいのです。そしてそれがまた生存学にフィードバックされます。
  また、そうした作業に学生が参加することは、学生にとって研究の基礎を固める仕事でもあります。自らの仕事の意義と手応えを日々感じながら、責任をもって研究を進めることができます。
  第二に、様々な身体の状態にある人たちが現実に学問・研究に参加し作っていく仕組みを実際に作ります。
  本人参加、当事者主権は今どき誰もが口にする言葉です。しかし先ほど申しましたように、私たちには実際の障害をもつ学生の必要がありますから、現実にその仕組みを作っていかねばなりません。実はすべてをHPにというのも、音声変換ソフトを使って文字情報に接する視覚障害をもつ学生、遠隔地の学生、社会人学生への対応でもあるのです。
  また、私たちが間にはいって、従来つながらなかったものをつなげる、例えば技術の開発者と利用者をつなげることをします。見ていただいている写真は、ALSの人たちがコンピュータで交信する仕組みを作るのを支援しながら、その仕組みについて研究し、それを技術者の方にもフィードバックする、既に始まっている私たちの研究の一場面です。
  そしてこのプロジェクトの全体について研究調査の倫理的側面を検討し、規範を設け、もって人を相手にする研究がどのようであればよいのか、その指針を社会に示します。
  そして第三に、これらの活動をもとに、どんな社会の仕組みを作っていくのかを考え、提案します。
  そしてそれは日本国内のことにかぎりません。例えばアフリカのエイズの問題があります。それは医療技術だけの問題ではありません。薬がどうやったら人の手に渡るようになるかという問題でもあります。そしてそこにもHIV・エイズの当事者たちが大きな役割を果たしてきました。そしてこれらについて日本で最も多くを知り、活動を行ってきたのは研究機関ではなくNGOでした。その代表を私たちは特別招聘教授に迎えました。
  国内・国外の様々な人、機関と協力しながら、どんなことが可能であるのかを考えていきます。
  既に私たちの研究組織は活動を開始し展開しています。これだけの大きな、そして多様な作業をしていくために、自然科学研究のスタイルから取り入れるべきところを取り入れ、研究活動を共同のものとし、組織化していきます。そしてこれまで十分でなかった世界への発信を強化します。実際に暮らしている人々、活動している組織、そして社会と、ダイレクトで密接な関係を維持し、成果を即刻還元し、その反応を得ながら研究を展開していきます。そしてすでに多くの反応を得ています。みなさまも今後の私たちの活動に関心をもっていただければ、ありがたく存じます。
  以上、なぜ私たちはこの拠点を作ったのか、そこで何をするのか、誰とするのか、どのようにするのか、簡単に説明させていただきました。ありがとうざいました。』


UP:20070925 REV:
自立支援センター・ちくま  ◇立岩 真也 
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