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「生存学」だってさ。1

―知ってることは力になる・46―

立岩 真也 200707 『こちら”ちくま”』53(2007-2)


 今回は私の勤め先関係で二つ。一つ、その立命館大学を会場として(朱雀キャンパスというところでやります)、9月16日・17日と「障害学会」の大会があります。ホームページをご覧ください。一つ、「生存学創成拠点」という企画がCOEというのに当たりました。説明は次回にしますが、新聞報道的には、「大学の優れた教育研究拠点を選んで予算を重点配分する<グローバルCOE(卓越した拠点)プログラム>」というものです。以下は、その書類審査に通って、ヒアリングというのに呼ばれ、5月末、日本学術振興会に出かけていって、話した話の前半です。

◇まず、配布させていただいた資料がすこし厚くなっております。後半に、どれだけのことを、とくに今年になって行っているか、その目次にあたるものの一部を参考資料として付したためです。これらはみな、今回のCOE調書も含め、本研究拠点のHPに掲載しているものです。その意図は後で説明いたします。そしてそれは、「<日々の研究、毎日の研究>を強調するのはなぜか」という予めの御質問への私たちなりのお答であるとも考えています。
 では始めさせていただきます。
◇だれもが、「障老病異」、つまり、身体の不如意、老い、病い、これらをも含む様々な身体の異なりそして変化を経験します。それは生まれ死ぬことと同じく普遍的なできごとであり、皆が、そうして、死ぬまで生きています。
 もちろん、その人たちのための技術はあり学問はあります。それはまず「医療」であり「医学」です。ただそれはなおすための技術・学問です。たしかになおればそれでよいのかもしれません。しかしなおらないことも多くあります。そして老いは誰にとっても必然です。
 すると、そうした人のために「社会福祉」があり、そしてその学問、「社会福祉学」があるではないかと言われるでしょうか。けれども、福祉サービスを受ける時間以外の時間にもその人は生きています。その人たちがどうやって生きてきたか、生きているかを知る、そしてこれからどうして生きていくか考える。それが「生存学」です。
◇ただ、そんなことは誰もが知っている、今さら学問の対象とするまでもないと思われるかもしれません。しかしそうでしょうか。例えば、耳が聞こえるようになるという「人工内耳」という機器があるのですが、そんなものはいらないという「ろう」の人がいます。いったいその人は何を考えているのでしょうか。皆さんも知りたくはないでしょうか。そんなことを調べて本を書いた学生が私たちの大学院にいます。
 また例えば、ALSという病気で自分の体がまったく動かなくなって、呼吸も人工呼吸器を使って、1日24時間の介護を得て暮らしている人がいるのですが、その自分を介護する人を養成し、毎日の自宅での介護を管理し、それを自分の商売にしている人がいます。自分の障害をビジネスにしてしまっているのです。そんな組織を立ち上げ、全国に広げようとしている学生がやはり私たちの大学院にいます。なぜそんなことをしようと思ったのでしょうか。また、いったいそんな商売が成り立つのでしょうか。成り立ってよいのでしょうか。
◇そんなことがまだいくらもあります。しかしそれらに従来の学問は本格的にとりくむことはありませんでした。
 まず一つ、からだを扱うのは自然科学だといって、社会科学・人文科学の主流からは外されます。しかし自然科学では今あげたような出来事は捉えられません。こうしてそれは学問の狭間にあってきました。
 もう一つ、医療や福祉はたくさんの人が従事する仕事ですから、そこで働く人のための立派な学問や教育のシステムがあり、同業者の業界があり、それは代々受け継がれ、発展していきます。しかし他方、病や障害は、ふつうは仕事になりませんし、病がもとで死んでしまう人もいます。もちろん共通の利害関心から患者会など様々な集まりが作られてきはしましたが、きちんと知識を蓄積し、伝え、将来を構想する力においてはやはり不利な位置にいます。供給サイドの学問のようには学問として成立してこなかったのです。
 学問をうまく作り機能させることができるなら、必要とされる継続力、組織力、そして体系性を獲得することができます。大学はその器になることができます。そこで私たちが研究拠点を形成することにしたのです。
◇この学問の形成を可能にするのは、まず、私たちのもとにいる三通りの学生たちです。このプロジェクトに関わる学生は70名を超えます。
 第一に、自分たちのことを自分も知りたいし、知らせたいが、そんなことのできる大学院はどこにもなかったという人です。血友病者の研究をしている血友病の学生がいます。視覚障害の人が3人います。車椅子のユーザーが2人います。
 第二に、専門職を長いことしてきたのだが、自分がやっていることやらされていることにどうにも納得がいかないという人たちです。医師が2人、ソーシャルワークやリハビリテーションの仕事をしている人が5人、看護の仕事をしているあるいはしていた人は8人います。
 そしていずれでもないが、この大学に来て、両方の人たちの間に立ち、両方を知り、新たに調べたり考えたりすることを得た人たちがいます。
 その人たちは必ずしも学問のキャリアが長い人たちではありません。しかし得がたい人たちです。私たちはその人たちと研究を進めていていきます。その人たちのすべてがいわゆる職業研究者となることはないでしょう。また私たちもそれを望んではいません。今までの職場や今までの教育システムのもとでえられなかったものを得て、職場に戻る人は戻っていってほしい。また様々な活動の場で活躍していってほしい。そう願っていますし、それは十分に可能だと考えています。
◇素質と、そしてなにより志と経験において優れたものをもっている学生たちは数多くいます。ただ、その素材を研究成果につなげるには今までの大学院教育と異なる体制が必要です。多様な専攻分野を出自としつつ、この領域で業績を数多く発表してきた教員が、大学院専任の教員として、教育に当たっています。また大学院GPを獲得、論文指導スタッフを採用するなどして、強力な指導体制を作り、稼動させています。開学5年目の新しい大学院ですが、日本学術振興会特別研究員の数は12名、うち今年度新規採用は7名。学生たちは論文発表、学会報告を精力的に行っています。[6]院生の協働体制の構築、教員のチームによる指導により、さらにその活動を活発にさせていきます。
◇そして、この拠点で行うことは大きく、「集積と考究」「学問の組み換え」「連帯と構築」、この三つです。[以下次号]


UP:20070621 REV:
立岩 真也  ◇Shinya Tateiwa  ◇自立支援センター・ちくま
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