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書評:村瀬孝生『おばあちゃんが、ぼけた』

立岩 真也 2007/04/
『北海道新聞』


  中学生あたりを読者として想定して作っているという「寄り道パン!セ」というシリーズの一冊。このシリーズ、好評だそうだ。ほんとうは大人が読んでいるという話も聞く。そうかもしれない。大人であろうと読み手は薄くてやさしい方がよいと思う。他方、やさしく書くことはけっこう難しいから、書き手たちはいつもよりかえってがんばる。
  この本の書き手は一九六四年生まれ。福岡県で特別養護老人ホームに八年勤めたが、ここはよくないと思い、辞めて、「宅老所よりあい」という場所を作って、そこで働いている人。そこにやってくる、このごろは「認知症」と呼ばれることになった人たちのことが書いてある。
  まず、なおりもしないものをなおるとか、予防などしきれないものを予防するとか、そういう間違ったことが書いてないから、よい。中学生がどう読むか、わからないのだが、中学生はわざとらしい感動話をきらうか、きらうふりをする。すると、へんに美しく描いたりもしないこの本はよいかもしれない。うれしいことではなくても、なるものはなる。そこで、どうして生きていくかだし、どうしてつきあっていくかだ。
  ではどうするのか。この世の中の年寄りの扱い方はよくない。だから「宅老所」を作ったのだ。このことははっきり書かれる。代わりにどうするか。そのこともいろいろと書いてあるけれど、それはなにかものごとを「解決」することではない。おばあさんは花を盗るのをやめず、その花を育てている元校長先生は怒るのをやめない。けれども、職員がいつも謝ったりして、まあ、なんとかはなっていく。そんなことの繰り返し。それの繰り返しを、一人だけが背負わず、あまりつらくなく続けていける世の中なら、なんとかなる。
  ただ、だいたいそんなふうに書かれているのだが、「積極的」な医療処置はしないという「死に際」についてだけ、「すっきりしすぎ」な感じが残った。むしろ、この本の全体からは、気持ちの悪い処置はできるだけ避けながら、けれど、細く、か細く、長く生きていくという、往生際のわるい往生でよし、ということになるのではないかと思った。

◆村瀬 孝生 20070225 『おばあちゃんが、ぼけた。』,出版社,172p. ISBN-10: 4652078250 ISBN-13: 978-4652078259 1260 [amazon] ※ b a06
◆「寄り道パン!セ」 http://www.rironsha.co.jp/special/series/index.html
◆理論社 http://www.rironsha.co.jp


UP:20070328
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