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○△学×2

医療と社会ブックガイド・74)

立岩 真也 2007/08/25 『看護教育』48-8(2007-8):
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http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/


  今回は「死の決定について・9」のつもりだった。ピーター・シンガーという人の本を紹介していた。その人は、ある種の人間は殺してもよく、ある種の動物は生かさねばならないと言うのだが、それをどう考えたらよいのだろうということになった。なにか関係することにふれているらしい本がある。それで、ジャック・デリダ&エリザベート・ルディネスコ『来たるべき世界のために』(2001、訳2003、岩波書店)、ジョルジョ・アガンベン『開かれ――人間と動物』(2002、訳2004、平凡社)といった本を買い込みはし、すこし読んではみた。案の定と言うべきか、答案を書くのにすぐに役に立つようなことは書いてなかった。自分でも考えなければならない。拙著『私的所有論』(1997、勁草書房)第5章ですこし書いてみたことはあるのだが、それで話が済んだかいえば、怪しい。
  ただこの話をしていると長くなりそうだ。それで思いついたのは、書かなければならない原稿で続きを書くことだ。東京大学出版会から刊行予定の「死生学」というシリーズものの一冊になにか書かねばならない。そこでこのことをすこし考えてみようと思う。本が出るのはしばらく先になるが、この連載では、数回後、そこに書くはずことをすこし紹介できるのでは、と思う。ということで、いったん中断、ということにする。
◇◇◇
  代わりに、今回はお知らせを二つさせていただく。
  一つ、大学関係の人は知っているのではないかと思うのだが、COEというものがある。訳すと「卓越した(研究)拠点」だが、公募し審査して数を絞ったその拠点(大学)に国が大きめのお金を出すというもので、5年前から始まり、その最初の5年ものが今年で終わりになり、代わりに第2期が始まるということになった。(前回のは「21世紀COE」、今度のはGCOE=「グローバルCOE」と呼ばれている。)じつはさきにあげた「死生学」のシリーズもCOEの企画の一環だ。これは「人文科学」の領域のCOEで、東京大学で5年前に始まったもので、継続になった。(新規より継続の件数の方がずっと多いが、継続にならない場合もある。)
 私が働いているのは学部をもたない大学院で、こういう企画には応募しなければならないことになっている。来年度募集の「社会科学」の領域で出すのがすなおなのだろうが、「学際、複合、新領域」もありではあろうということで応募した。書類を書き、ヒアリングに出かけ、通った。
  私たちのは「「生存学」創成拠点――障老病異と共に暮らす世界の創造」という名称のものである。「○△学」というのは個人的には好みではないが、ともかく短い言葉を頭に、というリクエストで、ひねり出した。それだけといえばそれだけのものである。しかしすべきことははっきりしているし、その意味・意義はあると思っているし、成果をあげられると思っている。今回のCOEではとくに教育、研究者の養成が重視される。私たちは重視してきた、というか、労力を費やさざるをえず、費やしてきた。この部分も問題ない。
  では何をするのか、というより既に何をしているのか。それはHPをご覧ください。そしてその成果は、今いる人たちに加え、どんな院生が入ってきて何をするかにかかっている。このところ多いのが、3年次入学(基本的には修士課程の修了者、3年で博士論文が出せる)等のいわゆる社会人院生。以下は、5月のヒアリングで審査員を前に話したことの一部(全文はやはりHPに掲載)。
  「この学問の形成を可能にするのは、まず、私たちのもとにいる三通りの学生たちです。このプロジェクトに関わる学生は70名を超えます。
  第一に、自分たちのことを自分も知りたいし、知らせたいが、そんなことのできる大学院はどこにもなかったという人です。血友病者の研究をしている血友病の学生がいます。視覚障害の人が3人います。車椅子のユーザーが2人います。
  第二に、専門職を長いことしてきたのだが、自分がやっていることやらされていることにどうにも納得がいかないという人たちです。医師が2人、ソーシャルワークやリハビリテーションの仕事をしている人が5人、看護の仕事をしているあるいはしていた人は8人います。
  そしていずれでもないが、この大学に来て、両方の人たちの間に立ち、両方を知り、新たに調べたり考えたりすることを得た人たちがいます。
  その人たちは必ずしも学問のキャリアが長い人たちではありません。しかし得がたい人たちです。私たちはその人たちと研究を進めていていきます。その人たちのすべてがいわゆる職業研究者となることはないでしょう。また私たちもそれを望んではいません。今までの職場や今までの教育システムのもとでえられなかったものを得て、職場に戻る人は戻っていってほしい。また様々な活動の場で活躍していってほしい。そう願っていますし、それは十分に可能だと考えています。」
◇◇◇
  もう一つ、「障害学会」の大会が9月の16日と17日、立命館大学(のJR二条駅至近の朱雀キャンパス)で開催される。第1回静岡県立大学、第2回関西大学、第3回長野大学で、これが第4回の大会。この連載でも、第24回第25回第66回(2003年2月号・3月号、2006年12月号)等、「障害学」関係の本を幾度か紹介してきた。また、ごく短い紹介が新聞に掲載されたもの、雑誌にそれよりは長く書いたものもあるが、紹介していない本もたくさんある。それをしていたらあと1年ぐらいはかかるだろう。その間にも新しい本が出たりして追いつかない。
  それらに書かれていることにはかなりの共通性があり、そして私も同じようなことを考えていて、それで、書いてあることにはおおむね賛成ということになる。違うところ、言えることがないではない。だが、それは、人によってはたいへん些細なことに見えるのかしれない。実際些細なことかもしれない。また、長く説明しないと、言いたいことの意味がよくわからないかもしれない。だがそのスペースはここにはない。そこでここでは紹介したり検討したりしない。これまで取りあげた本に加え、取り上げるべくしてとりあげてこなかった本の書名だけ並べていく。まず読んでもらったらよい。すくなくとも図書館や図書室にはいれておいてほしいと思う。またこれらの本については視覚障害者の必要に対応すべく、テキスト・ファイルでの提供が行なわれてもいる。そしてここではなにも中味を紹介できない代わりに、すべての本について、簡単な(私が作ったものが多い)、あるいは詳しい紹介(それらは本「拠点」の院生他が作っている)のページがHP上にあるので、ご覧ください。
  以下出版年順。安積純子他『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(1990、増補改訂版1995、藤原書店)、石川准・長瀬修編『障害学への招待――社会、文化、ディスアビリティ』(1999、明石書店)、倉本智明・長瀬修編『障害学を語る』(2000、エンパワメント研究所、発売:筒井書房)、土屋葉『障害者家族を生きる』(2002、勁草書房)、石川准・倉本智明編『障害者の主張』(2002、明石書店)、石川准『見えないものと見えるもの――社交とアシストの障害学』(2004、医学書院)、立岩真也『ALS――不動の身体と息する機械』(2004、医学書院)、三島亜紀子『児童虐待と動物虐待』(2005、青弓社)、倉本智明編『セクシュアリティの障害学』(2005、明石書店)、田中耕一郎『障害者運動と価値形成――日英の比較から』(2005、現代書館)、岡部耕典『障害者自立支援法とケアの自律――パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』(2006、明石書店)、中根成寿『知的障害者家族の臨床社会学――社会と家族でケアを分有するために』(2006、明石書店)、田垣正晋編『障害・病いと「ふつう」のはざまで――軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』(2006、明石書店)、星加良司『障害とは何か――ディスアビリティの社会理論に向けて』(2007、生活書院)、杉野昭博『障害学――理論形成と射程』(2007、東京大学出版会)。翻訳では、マイケル・オリバー『障害の政治――イギリス障害学の原点』(1990、訳2006、明石書店)、コリン・バーンズ他『ディスアビリティ・スタディーズ――イギリス障害学概論』(1999、訳2004、明石書店)
  学会は小さいが、関連出版点数は多い。著者・訳者のほとんどは障害学会の会員だ。今度の大会にもその多くが参加するはずだから、会場で会うこともできるだろう。学会への入会、大会への参加については、やはり「拠点」HPに情報があります。

[表紙写真を載せた本]
◆杉野 昭博 20070620 『障害学――理論形成と射程』,東京大学出版会,294p. ISBN-10: 4130511270 ISBN-13: 978-4130511278 3990 [amazon][kinokuniya] ※ b ds

[ほかにとりあげた本](掲載作業中)
◆石川 准・長瀬 修 編 19990331 『障害学への招待――社会、文化、ディスアビリティ』,明石書店,321p. ISBN:4-7503-1138-3 2940 [amazon][kinokuniya][bk1] ※ b ds
◆倉本 智明・長瀬 修 編 20001127 『障害学を語る』,発行:エンパワメント研究所,発売:筒井書房 189p. ISBN:4887203047 2100 [kinokuniya][amazon][bk1] ※ b ds
土屋 葉 20020615 『障害者家族を生きる』,勁草書房 237+22p. 2940 [amazon][kinokuniya] ※ b d ds ** *
◆石川 准・倉本 智明 編 20021031 『障害学の主張』,明石書店,294p. 2730 ISBN:4-7503-1635-0 [amazon][kinokuniya][bk1] ※ b d **
◆石川 准 20040113 『見えないものと見えるもの――社交とアシストの障害学』,医学書院,270p. 2100 [amazon][kinokuniya][bk1] ※ b
◆立岩 真也 20041115 『ALS――不動の身体と息する機械』,医学書院,449p. ISBN:4-260-33377-1 2940 [amazon][kinokuniya] ※, b
◆倉本 智明 編 20050620 『セクシュアリティの障害学』,明石書店,301p. ISBN: 4750321362 2940 [amazon][kinokuniya] ※
田中 耕一郎 20051120 『障害者運動と価値形成――日英の比較から』,現代書館,331p. ISBN: 4768434509 3360 [kinokuniya][amazon] ※,
◆中根 成寿 20060601 『知的障害者家族の臨床社会学――社会と家族でケアを分有するために』,明石書店,277p. ISBN: 4750323535 3360 [kinokuniya][amazon] ※, b
◆岡部 耕典 20060605 『障害者自立支援法とケアの自律――パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』,明石書店,161p. ASIN: 4750323551 2100 [kinokuniya][amazon] ※, b ds
◆田垣 正晋 編 20060831 『障害・病いと「ふつう」のはざまで――軽度障害者どっちつかずのジレンマを語る』,明石書店,246p. ISBN-10: 4750323918 ISBN-13: 978-4750323916 [amazon][amazon] ※ b ds
◆星加 良司 20070225 『障害とは何か――ディスアビリティの社会理論に向けて』,生活書院,360p. ISB?4903690040 3150 [amazon][kinokuniya] b ds

◆Oliver, Michael 1990 The Politics of Disablement, Macmillan, 152p. ASIN: 0312046588=20060605 三島亜紀子・山岸倫子・山森亮横須賀俊司訳,『障害の政治――イギリス障害学の原点』,明石書店,276p. ASIN: 4750323381 2940 [kinokuniya][amazon] ※,
◆Barnes, Colin ; Mercer, Geoffrey ; Shakespeare, Tom 1999 Exploring Disability : A Sociological Introduction, Polity Press=20040331 杉野 昭博松波 めぐみ山下 幸子 訳,『ディスアビリティ・スタディーズ――イギリス障害学概論』,明石書店,349p. ISBN:4-7503-1882-5 3800+税 [kinokuniya][amazon] ※


UP:20070627 REV:(誤字訂正)
医療と社会ブックガイド  ◇医学書院の本より  ◇書評・本の紹介 by 立岩
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