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「社会人(院生)」の本・1

医療と社会ブックガイド・64)

立岩 真也 2006/10/25 『看護教育』47-09(2006-10):900-901
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 最初は「障害(学)」関係の本という括りで、と思っていた。本連載第24回から第26回等で何冊か紹介したが、その後もいくつか出ているので紹介をと思ったのだ。ただ、結局すこし趣向を変えて、というか、別の括り方でと思った。それで今回の題になった。
 学部から大学院に進学して(しまって)博士論文(ときに修士論文)を書く。それが出版される。そんな本をいくつか紹介した。第52回には、書名を列挙しただけだが、山根純佳『産む産まないは女の権利か――フェミニズムとリベラリズム』(2004、勁草書房)。三井さよ『ケアの社会学――臨床現場との対話』(2004、勁草書房)、貴戸理恵『不登校は終わらない――「選択」の物語から〈当事者〉の語りへ』(2004、新曜社)、土屋葉『障害者家族を生きる』(2002、勁草書房)、天田城介『<老い衰えゆくこと>の社会学』(2003、多賀出版)をあげた。その最後の本については、第58回で紹介し、そしてその紹介は終わっていないのだった。その後にも幾つか出ている。その一つが中根成寿『知的障害者家族の臨床社会学――社会と家族でケアを分有するために』(2006、明石書店)。これももとは博士論文(立命館大学大学院)。家族を主題にした本としては上にあげた土屋の本があるが、中根は、知的障害の子の母親、それから父親に聞き取り調査を行ってきて、それをまとめ、そこから何が言えるかを書こうとしている。機会があったら紹介しよう。
 さて、今回から、それよりすこし(あるいはもうすこし)上の世代の人たちの本を紹介する。というか、様々な場所で働いたりなにかして、それを継いで、その成果として、あるいは新たに思いたって、調べたり書いたりする人でいる。そのある人は、よせばよいのに、かもしれないのだが、大学院に入ったりして、そこで長い論文を書いたりして、そしてそれが本になる。そんな本がいくつか出ている。中身の方は読んでもらえばよいということにしておおむね略し、どんな人が書いているか、そして本として出すことの意義、本を全体の中にどう位置づけるかいう戦略について。
◇◇◇
 しばらく人生をやった後、なにかしらの「問題意識」をもってやってくる大学院生がいる。そういう人が、いちおう論文という体裁のものを書く。本になるものがあり、ずっと研究者しかやってこなかった人たちのものよりよいものもいくつもある。それには理由がある。どんな事情でかは様々だが、だてに年をくってきたわけではない、蓄えがあるということだ。既に知っていること考えてきた蓄えがある。あるいは、これから知って考えようとすることを始めさせる蓄えがある。
 私はいま大学院で働いているのだが、そこでも「社会人院生」がとても多い。職をもちながらという人もいるし、もう退職している人もいる。その他様々。忙しい人も多くて大変ではある。ただ、すべきことは、たくさんのことを勉強するというよりは、時間をかけて、必要であれば助言を得ながら、納得できるまとまったものを一つ書くことだと定めれば、なんとかならないものでもない。
 もう5年も前、第8回(2001年8・9月号)ですぐれた本として紹介したのが大林道子の『助産婦の戦後』(1989、勁草書房)だった。大林の場合は、大学を出たのが1959年、その本が出たのはその30年後ということになる。出版社で働いた後、1976〜79年に米国カリフォニルア州立大学の大学院で学んで帰国。そして長い時間をかけた調査を行って本を出した。その本は、大学院での研究の直接の成果ではない。しかし問題を得て、その後、からだを使い時間をかけて、そしてまとめた。
 それはこの領域では唯一と言ってよい本格的な研究であり、それは現在もそのままだと思う。そしてただ希少な研究であるというだけでない重要な寄与をしている。
 この本のどこがすぐれているかについては、その回に書いたから略す。ただ、一点繰り返すと、これはこの時期を外すと不可能、とは言わないまでも難しさが増す研究だった。関係者に直接に話を聞こうと思うなら、生きている間にしか聞けないのである。
 急がねばならないこともある。それなのに、本業であるはずの人たち、例えば医療社会学者がどれだけの仕事をしてきたかである。教科書のようなものは幾つも出ている。翻訳もある。しかし大林の著作のようなものがどれだけ出ているかである。その本はどんな著者がどんな経緯からということと関係なく意義のある本だが、ストレートに研究者という経路と別の経路を通ってきた人が書いた優れた研究書として先駆的だった。
◇◇◇
 こうしてすこし振り返った後、最近の本を。岡部耕典『障害者自立支援法とケアの自律――パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』
 この本は、まず一つには、ここ数年の間に何が起こってきたのか、今何が起こっているのかを知るために要る。すこしでも関係・関心のある人だったら、ここに書かれていることは押さえておかねばならない。だから序章「障害福祉/運動 2003‐2005」はまず読む。ごく短い期間のことだが、様々に起こったことを文字にしておく意義のあることがわかる。
 そしてこの本の主題は、どんな仕組みがよいのかを考えて示すことである。政策を論じる人が少なくてそれはよくないと思う。このことは、岡部も報告者の一人だった障害学会第2回大会のシンポジウムでも述べた――その記録は近く刊行される『障害学研究』(明石書店)第2号に掲載される。
 第1部「障害者の自律/自立生活支援と福祉の保険化」、第2部 障害福祉の利用制度化/給付制度化」、第3部 「パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント」。博士論文がもとになっているとなると固い本のようで、たしかにそうではある。しかしこのぐらいは読んでもらわないと困る。十分に理解できる論になっている。理解に苦労はない。
 今あるのは介助(介護)の制度を一括りに介護保険(的なもの)の方へという流れである。私はよくないと思う。このことは前回紹介した、また岡部の文章も収録されている岡崎伸郎・岩尾俊一郎編『「障害者自立支援法」時代を生き抜くために』(2006、批評社)に再録された文章でも述べた。で、どうしたらよいか。それを岡部は、考えなければならず、考える。まわりを見ても、きちんと言っている人は少ない。それで言わなければと思って本にしてもらった。
 著者は1955年生。私がいた大学の同じ社会学科の先輩なのだが5年離れていて、その時には会うことはなかった。修士課程は出て、そして「社会人」になってかなりの時が経った。その間に知的障害をもつ子が生まれて育ち、仕事の仕方、生計の立て方を変え、現在、自らが主宰する「リソースセンターいなっふ」を中心に活動。また今は名称が変わったらしい東京都立大学の大学院に入り、2006年に論文を出して博士課程を修了。
 彼は今「いなっふ」のHPで「障害程度区分・認定審査会・支給決定」関連の大量の情報を提供している。私たちはそのHPを重宝にするとともに、今起こってしまっているそのことをどう見たからよいか、本を読んで岡部の見方について考える。こんな組み合わせが可能になっている。
 同じ領域で、同様に複数のメディアを組み合わせ、発信している「在野」「民間」の「社会人」がいる。今、介護保険自体にも、給付の抑制、予防で対応というようなことごとが起こっている。こういう大きな制度については、たくさんの解説書が出て、本屋にもたくさん並んでいるのだが、コンパクトなものとして岩波ブックレットで出ている小竹雅子『こう変わる!介護保険』(2006、岩波書店)がある。そしてその著者が主宰するNPO法人・市民福祉情報オフィスハスカップ編『おかしいよ!改正介護保険』(2006、現代書館)は、複数のNPOで活動する人たちが、問題点を指摘し、どうしたらよいか書いている。
 本の奥付を見ると小竹は1956年生。「障害児を普通学校へ・全国連絡会」の事務局員も務めたとある。その時々の関連情報をまとめたメールマガジン「市民福祉情報」を頻繁に送ってくれる。2003年発刊、今日届いたのが288号(バックナンバーは私のHPにも収蔵)。制度はどんどん変わる。起こらなくてもよいことも起こる。それが随時配信されてくる。同時に、そのような情報の海に溺れそうになるから、コンパクトに全体を一望できる短い本にする。問題点を指摘し、こうあったらよいと提案する本を出す。さらに岡部のような人が「大上段」の話をする。そんなことが、「大人」になって20年とか30年といった人たちによって、ときに大学院という場を使いながら、行われている。


[表紙写真を載せた本]
岡部 耕典 20060605 『障害者自立支援法とケアの自律――パーソナルアシスタンスとダイレクトペイメント』,明石書店,161p. ASIN: 4750323551 2100 [amazon][kinokuniya][kinokuniya] ※ d c04,

中根 成寿 20060601 『知的障害者家族の臨床社会学――社会と家族でケアを分有するために』,明石書店,277p. ISBN: 4750323535 3360 [kinokuniya][amazon] ※,
◆岡崎 伸郎+岩尾 俊一郎 編 20060210 『「障害者自立支援法」時代を生き抜くために』,批評社,メンタルヘルス・ライブラリー15,176p. 1900+ ISBN4-8265-0436-5 C3047 pp.43-54 [kinokuniya][amazon] ※,


UP:20060830 REV:0905(誤字訂正)
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