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分担執筆及び単著の本
(
医療と社会ブックガイド
・63)
立岩 真也
2006/08/25 『看護教育』47-08(2006-08):
http://www.igaku-shoin.co.jp
http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/
ここ5回、「認知症」の人に関わる本をみてきた。3月号と5月号で
天田城介
の本、4月号で
小澤勲
・黒川由紀子編『認知症と診断されたあなたへ』(2006、医学書院)、6月号と7月号で小澤勲編『ケアってなんだろう』(2006、医学書院)をとりあげた。前から天田や小澤の本をと思っていて、さらに関連する本が続けて出て、紹介した。その話をどう「しめる」か。しばらく考えてみることにして、今回はただ、昨年から今まで、私が関係した本でこの連載に関係するものを幾つか挙げる。いずれも目次等の情報はホームページに掲載してあるのでご覧ください。
◇◇◇
上杉富之編『現代生殖医療――社会科学からのアプローチ』(2005、世界思想社)。
いま生殖医療とか生殖技術とか呼ばれるものが、どんな具合になっているのか、どのように捉えられているのかを知るのに役に立つ本になっている。多くの人が書いた文章を集め、そう厚くなく、だからそう値も張らない本をたくさん出している世界思想社から、そうした本の一冊として出ている。
第T部「生殖医療を考える視点」第II部「生殖医療への取り組み」と大きく二つの部分からなっていて、第T部は諸社会科学はこれをどう見るか、社会科学からどう見えるかといった文章を並べるという趣旨なのだと思う。たしかにこの主題で、法学の議論はいくらかあったとして、他はあまりなかった。と思えるのだがそうでもない。この本の編者の上杉は人類学者だが、彼が担当した章の文献表に出口顕(第II部で一つの章を担当してもいる)の『出産のジェネオロジー――人口生殖と自然らしさ』(1999、世界思想社)があって、その本を知り、では読もうか、となったりする。柘植あづみ(やはり第II部に文章を寄せている)の専攻領域は「医療人類学」となっていて、ああそうだったな、と改めて思う人もいるだろう。
なお私は「そこに起こること」という、どの「学」から見ているのか不明な文章を書いた。記憶によれば、(社会学の?)別の人にこの本の原稿を頼んだがその人が結局書けなかったとのことで、代打者のような役割を果たしたということでしかない。そしてこれまで書いてきたことを繰り返している。ただ、基本的にはこう考えばよいのではないかと、それなりにはっきり、思っていることを書いたつもりではある。拙著『私的所有論』(1997、勁草書房)での長々とした話をてっとり早くわかるためにはよいかもしれない。
また第2部は、おおむね、各国事情の紹介といった性格のものになっていて、イタリア、イスラエル、韓国といった、どんなことになっているのか、ほとんどの人は知らない(私もまったく知らない)国々の状況が記される。
こうしてこの本は、すこし関心がある人、関心を持とうかなという人は、まずこの1冊、というふうに使える。また、ある程度のことは頭に入っている人にとっても、知らないことは様々記されているから、それをいちおう押さえておくためにもあった方がよい本ということになる。
◇◇◇
川本隆史編『ケアの社会倫理学――医療・看護・介護・教育をつなぐ』(2005、有斐閣)。
I「医療とケア」、II「看護とケア」、III「介護とケア」、IV「生命倫理教育の反省」という構成。例えばIIは、池川清子「実践知としてのケアの倫理」、武井麻子「感情労働としてのケア」、堀江剛・中岡成文「臨床哲学とケア」といった章立てになっている。やはり、たくさんの人の文章を集めた、厚くなく高くない本。
「ケアの倫理(学)」というとき、ケアにおける倫理という意味と倫理(学)の基本にケアを置こうというのと、むろん互いに関係しつつ、二つある。前者が大切であることは言うまでもないが、後者もそれなりに考えるに値する主題だと思う。私自身はケアから倫理(学)をという発想に懐疑的なのだが、それでも考えておく必要はあると思う。この二つのどちらでもかまわないのだが、どちらを狙うにしても、本来は、それなりの分量を要するもののように思う。この本はさらに広い範囲を扱っている。そして著者として、この主題に関係して様々書いている人がかなり含まいる。
そこで、これからすこし読んでみようかという人が、誰が何を言っているのか、それをおおまかに知ることができる。つまり、この本は、起こっている事態についての知識を得るというより、誰がどう見ているのか、それをかるくチェックして、さらにその人の著作を読んでみるとか、読まないとか、その参考にはなる。
本の中で詰めるべきところは詰められたらよいと私なら思う。ただこの本で、全体として何かに集中し、何かが詰められているわけではない。例えば、大熊由紀子と三好春樹が述べていることは違うのだが、各々が各々が思うことを述べて終わりということになっている。それ以上を考えたい人は、論点・争点を自分で探し出して、自分で考えてみることになる。
私が、「生命倫理教育」についてということで依頼をもらって書いたのは、本の題からさらに離れる「学校で話したこと――1995〜2002」。7年間、前の勤め先(信州大学医療技術短期大学部・当時)の授業で話したことを書いた。まったくそれだけの文章である。わりあい書くのに手間がかかることが多い私としては、ずいぶんと手早く書けた。『私的所有論』という本を授業で使うという無謀なことをどのようにして行なっていたのかを書いた。安直である。ただ、いろいろ考えた上でも、他のことは書けなかったようにも思う。
◇◇◇
そして今年になって、池田清彦編『遺伝子「不平等」社会――人間の本性とはなにか』(2006、岩波書店)。これは池田清彦(生物学)が、4人と対談して本にしたというもの。対談の前に対談する2人が文章を書き、各々がそれを読んで対談に臨むというかたちをとり、そしてその文章が対談の前に掲載されている。
小川眞里子(科学史)と「男と女の狭間」。正高信男(霊長類学)と「教育のパラドックス」。計見一雄(精神医学)と「心の在り処 」そして私と「「いのち」を誰が決めるのか」。私とのパートは、池田の「「いのち」を誰が決めるのか」、私の「自由は優生を支持しないと思う」の後、対談「「いのち」を誰が決めるのか」。
私は、いつも明るい池田さんと、最近そういう役回りが多くていやだなと思いつつ、暗くて重い(と私には思える)テーマで話をした。他は皆終わっていて、私の対談が最後だったのだが、それにも事前原稿をまにあわせられず、対談の後に仕上げることになった。対談の前に池田さんに送ったメモはホームページに掲載してある。「遺伝的」と言われると、「社会的」と返すというのが社会(科)学者の常道なのだが、そんなことが言いたいのではないと言い、その上で、いのちを決めないことについて考えてきたことを話した。
他に、昨年の4月号(連載48)で紹介した松原洋子・小泉義之編『生命の臨界――争点としての生命』(2005、人文書院)。その中で私が対談させてもらっている小泉の『病いの哲学』(2006、ちくま新書)について、『Webちくま』に連載している「良い死」で書き始めたところ。この欄の2倍ぐらいの原稿を2回書いて、ようやく後半に行けるかといった長い文章になってしまっている。
そして岡崎伸郎・岩尾俊一郎編『「障害者自立支援法」時代を生き抜くために』(2006、批評社)。『精神医療』の特集号に新たな文章を幾つか加え単行本化したもの。介護保険、自立支援法についてもこの間何冊か本が出ているから、機会があったら紹介したい。
◇◇◇
最後に新刊の拙著
『希望について』
。『ALS――不動の身体と息する機械』(2004、医学書院)に続く5冊目の単著ということになる。『ALS』をここでとりあげるのはまったく疚しくなかったが、こちらはすこし疚しい。ここ数年の間に書いた多くは短い文章を集めて8つに分けて並べた本だが、この連載に直接に関係するような文章はそのうち別にまとめるかもしれないので、基本的に省いたのだ。ただ、このご時世でもあり、最後に思いつき、末尾にVIII「死なないこと」というパートを作り、新聞などに書いた短文を4つ収録した。また、VI「所有」には遺伝子情報の所有について書いた文章も収めた。『助産婦雑誌』(医学書院)2001年1月号、特集「21世紀のいのち」に書かせてもらった「ふつうのことをしていくために」の一部を、「少子高齢化」に関わる文章を集めたIV「不足について」に載せさせてもらってもいる。雑多ではある。しかし一人で書いてよいのは、本に一貫性はあるということ、いちおう筋は通っているということだ。
[表紙写真を載せた本]
◆立岩 真也 2006/07/10
『希望について』
,青土社,320p. ISBN4791762797 2310
[kinokuniya]
/
[amazon]
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[bk1]
※,
◆上杉 富之 編 200504
『現代生殖医療――社会科学からのアプローチ』
,世界思想社,274p. ISBN: 4790711315 2310
[kinokuniya]
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[amazon]
※
◆川本 隆史 編 20050825
『ケアの社会倫理学――医療・看護・介護・教育をつなぐ』
,有斐閣,369+5p. ISBN: 4641280975 \2100
[kinokuniya]
/
[amazon]
※,
◆
池田 清彦
編 20060526
『遺伝子「不平等」社会――人間の本性とはなにか』
,岩波書店,240p. ISBN:4-00-005052-4 C0045 2205
[kinokuniya]
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[amazon]
※,
◆岡崎 伸郎+岩尾 俊一郎 編 20060210
『「障害者自立支援法」時代を生き抜くために』
,批評社,メンタルヘルス・ライブラリー15,176p. 1900+ ISBN4-8265-0436-5 C3047 pp.43-54
[kinokuniya]
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[amazon]
※,
UP:20060630 REV:0702
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