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『ケアってなんだろう』

医療と社会ブックガイド・61)

立岩 真也 2006/06/25 『看護教育』47-06(2006-06):
http://www.igaku-shoin.co.jp
http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/


※この文章の全文(にいくらか捕捉を加えたもの)は以下の本に収録されました。
◆立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 [amazon][kinokuniya] ※ m.


 前回の続きが終わっていないのだが、別の、しかし人も中味もこの間の話の流れに関係のある本を紹介する。4月号であげた本の編者の一人の小澤勲の本。3月号と5月号で著書をあげた天田城介はこの本の中で対談者の一人でもあり、文章を書いてもいる。
 まず、編集者による宣伝の一部。「自閉症研究の先駆者、反精神医学の旗手、認知症を文学にした男……そんなさまざまな顔をもつ小澤氏に、”ケアの境界”にいる専門家、作家、若手研究者らが、「ケアってなんだ?」と迫り聴きます。/第T部は、田口ランディ(作家)、向谷地生良(べてるの家)、滝川一廣(精神科医)、瀬戸内寂聴(作家)という多様なバックグラウンドをもつ各氏との対談。第U部は、西川勝(看護/臨床哲学)、出口泰靖(社会学)、天田城介(社会学)という気鋭の学者3氏による踏み込んだインタビュー+熱烈な小澤論。さらに、小澤氏自身による講演録と、書き下ろしケア論も付いています。」
 小澤さんっていい、といった感じで読んでもらってもよいし、楽しんでくれればよいし、様々に具体的にわかったり納得したりすることがある。岩波新書の『痴呆を生きるということ』は6万部以上売れているそうだ(p.106)。小澤の本が出たせいなのか、それともそれ以前からのことだったのか、もうわからなくなっているのだが、ここで語られている事々は至極もっともなことに思える。ただ、それはまだすべての人にとってのことではないらしい。
 「医学界ではあまり評価されない私の論」(p.14――「と、こんなにも共通の考えをもつ方が、若手の臨床社会学、臨床哲学の領域におられたのか、という「発見」――と続く)「『痴呆を生きるということ』を出したときに、医者たちから「あんなの文学作品や。科学でもなんでもない」と言われてね」(p.91)「医者の評価は高くはないのですが」(p.101)。
 そのような反応はまったく愚かしいことであると言うほかない。それで、最近よく思うのだが、幾度でも同じことを語るしかない。小澤が現在客員教授を勤める種智院大学での公開講座に、近所の人たち含めとてもたくさんの人がやって来た。そこで次のようなきちんとした話がされるのはやはりとても大切なことだと思う。「認知症にはさまざまな原因があり、種類があって、それによって治療やケア、経過や予後も違うのです。[…]そのような違いを無視して語られる予防論も多く、とてもうさんくさいのです。私は予防の話が嫌いです。予防論には、どこか認知症を絶望的な病いとする雰囲気があります。また、認知症を生活習慣病とする考えた方からすると、現在、認知症をかかえて生きておられる方は、間違った生活習慣を送ってきた人なのでしょうか。その結果、いわば自業自得でいまの病いをかかえられるようになったのでしょうか。私は、決してそうは思いません。」(pp.240-241)
◇◇◇
 さて、この本全体の中で若干浮いている感を与えているのが、天田城介の文章なのだが、ここでは対談のところを。司会とともにしつこく突っ込み、小澤が同じように返す。これが反復される。

 […]

 本人の言葉としては経験を重ねてきただけというのはありだろう。しかし、このことは三井さよの『ケアの社会学』(2004、勁草書房)の書評でも述べたのだが、他人はそれで終わらせられない。また、実践の方向としても、つねに以心伝心、実際に見て覚えよとは行かないなら、どうしようということになる。ではきまりを決めるか、マニュアルを作るか。しかし、それ(だけ)ではまずいだろうところから話は始まってもいたのだ。小澤も、自らが「棒の如きもの」に貫かれてやってきたと言う(p.188)。それは何か。言葉にできるようなものであるのか。(続く)

■紹介した本

小澤 勲 編 20060501 『ケアってなんだろう』,医学書院,300p ISBN: 4-260-00266-X 2000 [amazon] ※,

■再録

◆立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 [amazon][kinokuniya] ※ m.


UP:20060428 REV:0502(誤字訂正), 20151007
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