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2003−2005

医療と社会ブックガイド・57)

立岩 真也 2006/02/25 『看護教育』47-02(2006-02):170-171
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 年末から年の始まり、「○○年の3冊」といった企画がよくある。私の場合は、1999年から『週刊読書人』に3冊、みすず書房の『みすず』(月刊)に5冊あげてきた。それに昨年は『東京新聞』『中日新聞』に3冊。知られてよいほどには知られていない本をあげたいといった気持ちも働く。誰にでもお勧めできる本、読んで楽しい本とはならない。そして私は読書家ではなく目利きではない。それでも、以下3年分。《》内は書いた文章そのまま。HPにはこれまで書いた全部を掲載。まず2005年。
 林達雄『エイズとの闘い――世界を変えた人々の声』(岩波ブックレット)。《薬があれば死なない病で年に300万といった人が死んでいる。だがこの小さな本に書かれるのは、人々の苦境だけではない。実際に、人々、とりわけアフリカの人々が、絶望的な状況に挑戦し、この世界を変えてきた経緯、戦略が描かれる。》
 この本についてはこの連載でとりあげた。次に、この連載でとりあげているジャンルではない――しかし実は深く関係していると私は思うのだが――本ではG・A・コーエン『自己所有権・自由・平等』(青木書店、405p.、6000+)、T・フィッツパトリック『自由と保障―ベーシック・インカム論争』(勁草書房、265p.、3600+)。コメントはHPをどうぞ。
 以上で3冊。5冊ならあと2冊だが、どうしたものかまだ決めていない。この連載関係の本では、浦河べてるの家『べてるの家の「当事者研究」』(医学書院、304p.、2100)。2002年にこの連載で2回にわたり紹介した浦河べてるの家『べてるの家の「非」援助論――そのままでいいと思えるための25章』(2002、医学書院、256p.、2000+)に続き、おもしろい。さて、あの、はちゃめちゃでありながらも、よくできた、ときにできすぎた感じというのは、また、あのかくも広範な人々の支持は、どこからやって来るのか。
 そして昨年11月号の『精神看護』に書評を書いた佐藤幹夫『自閉症裁判――レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』(洋泉社、318p. 2310)。そして本誌の昨年8月号でひとまず紹介し、その続きがあるはずなのにない、三島亜紀子『児童虐待と動物虐待』(青弓社、214p.、1680)。

◇◇◇

 その三島が書いた「誘いの受け方、断り方――社会福祉実習指導の問題点」という章も含まれる倉本智明編『セクシュアリティの障害学』(明石書店、301p.、2940)。「障害学」の関係では、以前紹介もした『奨学への招待』『障害学の主張』(明石書店)、『障害学を語る』(筒井書房)に続く単行本ということになる。以下は共同通信が配信した紹介。
 《全部で八章からなる。おもしろそうな題を拾っていくと「性的弱者論」「戦略、あるいは呪縛としてのロマンチックラブ・イデオロギー」「自分のセクシュアリティについて語ってみる」「パンツ一枚の攻防――介助現場における身体距離とセクシュアリティー」「介助と秘めごと――マスターベーション介助をめぐる介助者の語り」、等。
 「障害者と性」というのはじつは近頃少しはやりのテーマで、きっとそれはよいことなのだろうと思いつつ、すこしうんざりな感じはないではなかった。まず「タブー」ではもはやないと言われて、それはけっこうと思いながらも、かまわないでほっといてくれ、勝手にさせてくれと思うところがある。また「啓蒙」も必要なことだろうとは思いながら、なんだか悲しく、ようやくそのような段階に至ったと人々に思われるのも、なんだかいやな感じがする。そして「弱者」に対する(無償の)サービスとしての性というものも、そんなことがあってよいのではあろうが、人々の少しきわどく怪しい興味とある種の哀れみの感じが喚起され、そのために、けっしてそんなつもりで書かれたのではないだろう本が売れるというのはいやだ、と思う。
 比べてこの本はよい。書き手は「障害学」というものをやっている人たちなのだが、それ以前に障害のある御当人だったり、その人たちを介護してきた人たちであったりする。実際自分の人生をやっていく上で、あるいはその脇にいて暮らしを手伝ったりする上で、様々に起こること、起こってしまうこと、また起こらないでしまうことがどんな具合になっているのか。それをどう料理したら論文や本になるのか、どう書いたらよいものかと思いながらも、書いてみた。そんな本だ。
 また、黙っていたら現状維持、けれどただ「暴露」しても得なことはなく、おもしろくない。そのことをもう知っているから、どうにかしてその先へ行ってみたいという思いがここにはある。
 うまく先に行けたか。読んでみてください。》

◇◇◇

 次に2004年の5冊。以下書誌情報略(HPに記載)。《広田伊蘇夫『立法百年史――精神保健・医療・福祉関連法規の立法史』(批評社)。過去のできごとは堆積していき、それをいちいちとどめておくというのもうっとおしいことではあるのだが、それでも、仕方なく必要なこともある。
 韓国女性ホットライン連合編、山下英愛訳『韓国女性人権運動史』(明石書店)。「男性は自分の経験を過剰に普遍化する反面、女性は”先に書く者の権力”を過剰に警戒する。」「レズビアンや障害女性の人権は、ジェンダーの矛盾には還元されず、既存の女性主義とは異なる方法と内容によって概念化されなければならない」(鄭喜鎮・日本語版序文より)》
 あと3冊は、寺嶋秀明編『平等と不平等をめぐる人類学的研究』(ナカニシヤ出版)、マーサ・ミノウ『復讐と赦しのあいだ――ジェノサイドと大規模暴力の後で歴史に向き合う』(信山社)、スーザン・ソンタグ『良心の境界』(NTT出版)。コメント略。

◇◇◇

 そして2003年。この年は3冊+5冊で8冊。この年はこの連載関連の本だけにした。
 《言語的・文化的少数派という存在は知られるようになったとして、ではその人たちはどうして生きていったらよいか。思想する相手を知らないまま思想が語られることがある。すると思想も弱くなり空疎になる。上農正剛『たったひとりのクレオール――聴覚障害児教育における言語論と障害認識』(ポット出版)から考えることがたくさんある。
 医療に人が取り込まれることは言われてきた。ただそれだけでない。放逐される。そして両者は、また「尊厳死」も、別のことではない。いま広範に起こっていて、多くの人が既に巻き込まれている事態について向井承子『患者追放――行き場を失う老人たち』(筑摩書房)。
 こんな具合に、読めば知らないでもないような気がするが、一度は書かれなければならないことがたくさんある。『現代思想』2003年11月号、特集「争点としての生命」(青土社)に身体や生命や医療に関わる現代史を辿る小難しくなく重要な論文が幾本も掲載された。》
 《天田城介『<老い衰えゆくこと>の社会学』(田賀出版)。とても大きな本で、もとは博士論文だが、退屈な本ではなく、気合が入っていて、私ら(以下)の世代ががんばって書いて、この辺りまで。だがそれは、これ以外の書きようがあるということか、ないということか。多分ある、と言いたいが、それがどういうものかは私にはまだよく見えない。
 アリス・ウェクスラー『ウェクスラー家の選択――遺伝子診断と向きあった家族』(新潮社)。同じく翻訳書で、ハーブ・カチンス他『精神疾患はつくられる――DSM診断の罠』(日本評論社)。いずれも、この本を読んだらそれでわかってしまうという本ではないが、この本がないと知ることのできないことが書いてある。人が知らない(そして知る価値のある)ことを高密度でたくさん書いた本は、今のところ翻訳に偏っている。後者の主題(の一部)についてのさらに大きな本格的な仕事としては、2003年に出た本ではないが、アラン・ヤング『PTSDの医療人類学』(みすず書房)。おもしろいが、全体をなかなか把握し尽くせない。そして、さらに読みこんで把握できたとしても、ある状態を精神疾患と名指すことをどのように評定したらよいか、答は直接には出てこないと思う。しかしそこから考えることができるだけのものは与えられる。最後に、優生手術に対する謝罪を求める会『優生保護法の犯した罪――子どもをもつことを奪われた人々の証言』(現代書館)。》
 すこし補足。その後、上農は大学で教職を続けながら私がいる大学院の大学院生にもなり、博士論文を書くことになった。また天田も2006年度から[略]。天田の本は、多分、次回とりあげる。


 [表紙写真を載せる本]
◆倉本 智明 編 20050620 『セクシュアリティの障害学』,明石書店,301p. ISBN: 4750321362 2940 [kinokuniya] ※,

 [とりあげた本]
天田城介 20030228 『<老い衰えゆくこと>の社会学』,多賀出版,595p. ISBN:4-8115-6361-1 8925 [kinokuniya][bk1] ※ **,
上農正剛 2003/10/20 『たったひとりのクレオール――聴覚障害児教育における言語論と障害認識』,ポット出版,505p. ISBN:4-939015-55-6 2700 [kinokuniya][bk1] ※,
◆浦河べてるの家 20050220 『べてるの家の「当事者研究」』、医学書院、304p. ISBN: 4-260-33388-7 2100 [kinokuniya] ※
佐藤 幹夫 20050317 『自閉症裁判――レッサーパンダ帽男の「罪と罰」』、洋泉社、318p. ISBN: 4896918983 2310 [kinokuniya] ※,
◆立岩 真也 編 20050412 『生存の争い――のために・1』、立命館大学大学院先端総合学術研究科立岩研究室、1000円+送料
◆上杉 富之 編 200504 『現代生殖医療――社会科学からのアプローチ』、世界思想社、274p. ISBN: 4790711315 2310 [kinokuniya] ※
三島 亜紀子 20050617 『児童虐待と動物虐待』、青弓社、青弓社ライブラリー38、214p. ISBN: 4787232452 1680 [kinokuniya] ※,
cf.立岩 2005/08/25 「『児童虐待と動物虐待』」(医療と社会ブックガイド・52)、『看護教育』46-08:(医学書院)
◆倉本 智明 編 20050620 『セクシュアリティの障害学』、明石書店、301p. ISBN: 4750321362 2940 [kinokuniya] ※,
cf.立岩 2005/07/** 「紹介:倉本智明編『セクシュアリティの障害学』」、共同通信配信記事
◆Cohen, Gerald Allan 1995 Self-Ownership, Freedom, and Equality, Cambridge University Press=20050121 松井 暁・中村 宗之 訳『自己所有権・自由・平等』、青木書店、405p. ISBN: 4250205010 6000+ [kinokuniya] ※,
 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/dw/cohen.htm
cf.立岩 2005/12/** 「二〇〇五年の収穫」、『週刊読書人』
◆Fitzpatrick, Tony 1999 Freedom and Security: An Introduction to the Basic Income Debate, Macmillan Press=20050525 武川 正吾・菊地 英明訳、『自由と保障―ベーシック・インカム論争』、勁草書房、265p.、ISBN: 432660185X 3600+ [kinokuniya] ※,
cf.立岩 2005/12/** 「二〇〇五年の収穫」、『週刊読書人』


UP:20051219 REV:
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