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エイズとアフリカの本・3
(
医療と社会ブックガイド
・56)
立岩 真也
2006/01/25 『看護教育』47-01(2006-01):
http://www.igaku-shoin.co.jp
http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/
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昨年の10月号で
林達雄
『エイズとの闘い』(2005、岩波書店)を紹介した。その林さん(アフリカ日本協議会=AJF代表)はここのところ全国各地の大学など様々な場所で講演活動を行なっている。私が勤める大学院にも来てもらった。呼んだら来てくれるだろうと思う。講演料はAJFの活動にも生かされる。11月号では、A・アーウィン他『グローバル・エイズ』(2005、明石書店)を紹介した。他にもいくつか出ているので、以下列挙していく。
徳永瑞子『シンギラ ミンギ――アフリカでエイズ患者と共に生きて』(2001、サンパウロ)。著者にはアフリカでの活動に関わる他の著作もあり、アマゾンでは、古本を含め3冊購入できた。そして、本誌の読者なら知っていると思うが、1948年生の看護師・助産師、現在長崎大学医学部教授。「アフリカ友の会」を設立し、1993年から中央アフリカ共和国での活動に携わってきた。既にこの時期には有効な薬はある。しかし著者が入った地域では使えてはいない。そうした中での活動が描かれている。「シンギラ ミンギ」はありがとうの意。
宮田一雄
『世界はエイズとどう闘ったきたのか――危機の20年を歩く』(2003、ポット出版、238p.、2000)。著者は産経新聞の記者。ずっとエイズのことを取材し、長い連載記事を書いてきた。著書も幾冊かあり、新しい方の本がこれ。各地の取材から書かれ、この一冊でだいたいのことがわかるという本になっている。巻末にブックガイドと年表。
『Quiet Storm 静かなる嵐――HIV/エイズとたたかう人々の勝利のために』(2004、国連開発計画、発売:ポット出版、74p.、1800)。国連開発計画(UNDP)の「北東アジア地域HIVと開発とプログラム」への支持を呼びかけて刊行された。きれいな本で、左の頁が写真。はっきり前から映っている人もいるし、後姿の人もいる。右の頁には短い文章が付されている。アジアのいろいろな国の人たちがいる。日本の人ではハルと、佐藤美奈子と、長谷川博史が出ている。この本の収益は全額「アジア太平洋HIV陽性者支援基金」と日本国内のHIV陽性者活動に支援に寄付される。ちなみに宮田の本もこの本もポット出版から出ている。ここはかつて取り上げた上農正剛の『たった一人のクレオール』を出している出版社でもあり、性的少数者の本をいくつも出している出版社でもある。
石弘之『子どもたちのアフリカ――〈忘れられた大陸〉に希望の架け橋を』(2005、岩波書店、228p. 1700)。章立ては、エイズが残した大量の孤児/日常的にくりかえされる性的虐待/女性性器切除(FGM)と少女たち/はびこる子ども労働/戦場で戦う少年たち/現代に生きる子ども奴隷。著者は2年間ザンビアの大使をつとめたこともある人。さまざまに事態が大変であることを伝える。徳永の本と同じく、かわいいアフリカの女の子の写真が表紙に使われている。
エイズ会議研究会『エイズ 終わりなき夏――第七回アジア・太平洋地域エイズ国際会議に向けて』(2005、連合出版、218p.、1500)
昨年7月に副題にある国際会議が神戸であった。準備態勢の組み立て方であるとか、なかなか難しいところがあったとも聞くが、ともかく行なわれた。過去の国際会議のこと、SARS流行(そのためこの会議はこの年に延期された)のこと、中国でのエイズ危機などが取り上げられている。著者になっているエイズ会議研究会は宮田が呼びかけて作られたもので、花井十伍や樽井正義もメンバー。この本の中ではSARSについてのパネル・ディスカッションに出て報告し議論に参加している。
◇◇◇
つらい話を読んで、それでどうするか。もちろん、私たちは悲しい話が好きな人たちなのではあり、それを楽しむことができるのではあるが、これは、なにぶん現在の実際の話であるから、そんなわけにもいかない。
一つ、書いている人たちはなんとかなったらよいと思うから書いている。悲しい話に動かされて、これではまずいのだろうと人は思う。そのように働きかけてうまく行くことも多々ある。だから、それはそれとしてよいことである。
ただ、格別の関係や関心がなくとも、すべきことはすべきなのだと、出すべき金は出すべきなのだろうとも思う。それが、深く心を揺り動かされないと動かないということになると、病の悲惨やつぶらな瞳を強調せざるをえないことになり、それがインフレを起こし、かえって食傷感を起こすといった具合になってしまうことがある。するとかえって逆効果だ。
だからどうしたらよいのか。一つには、情動を求めそして飽きてしまう私たちの傾向というものは自覚としておくこと。心を動かされなければ何もしなくてもよいのだという居直りがたんなる居直りだと知ること。ただ、これこそ、たんなる精神論であるかもしれない。なかなかうまい手はない。一つの答はなさそうだ。
ただ、各人の好みがあるだろうとは思うのだが、私の場合は、ひどい状況をどうにかするにはどうするか、どこを叩くのが効果的なのか、それを考えて行動する人たちのことを知ると、楽しい。そんなことを『エイズとの闘い』など紹介する回に書いた。そしてその時にも、こちらで作った冊子を紹介した。その続きができた。
◇◇◇
資料集
『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ』
が、当初の予定の第3部までできて、ひとまず、ひとまとまりした。
無愛想な冊子ではある。しかし盛りだくさんである。そのうち市販される本を作ることになるかもしれないが、そこにはすべてを載せることはできないだろう。ずいぶんな量になってしまう。しかし、A4の紙にたくさん字を印刷すればずいぶん入る。3部で214頁、400字詰なら約1000枚、普通の本なら2冊分の分量がある。
報道(その多くは国外のものの日本語訳)が連なっていくところなどあるから、端から全部読んでいくのは、人によってはつらいかもしれない。第2部から読み始めてもよいと思う。私は、とてもおもしろいと思う。
昨年6月に出た第1部と、9月にできた第2部については昨年の11月号に目次など記した。私のホームページにも紹介がある。第2部は、動かしがたいと思われた事態を動かしてきた人々のこと、人々の動きが記される。11月号でも紹介した南アフリカのザッキー・アハマットの話がおもしろい。一度覚えると、第3部に、林達雄が2002年に彼に会った話が出てきたりすると、あの人だ、と思う。また「巨大製薬会社、ロースクール一年生にひざまずく」という長い記事の翻訳も、おもしろい。このできすぎた話を読んでから、他の様々な場所での特許権をめぐる攻防等々について書かれている長いあるいは短い文章に進んでいってもよいだろう。
第3部は10月に出来た。第1章「エイズ危機への国際的な対応」、第2章「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(GFATM)」、第3章「AJF活動の流れ」、第4章「日本の新聞報道」、第5章「国際エイズ治療体制構築サミット最終報告書」という構成になっている。すくなくともここでの問題の場合には、政府・国際機関が金を出す仕組み、それらに金を出せるための運動、これらが決定的に重要でなる。アフリカ日本協議会(AJF)もその運動を担ってきた。その経緯も描かれる。
全3部に収録されている情報を蓄積してきたのはAJFと(とくに翻訳については)その協力者たち、そしてそれらをまとめ全体を構成したのは、事務局長の斉藤龍一郎。その資料を印刷物にまで作っていたのは、また自ら第1部に概説を書いたのは、こちらの大学院の院生である三浦藍。他に、AJFの稲場雅紀、大学院生の高橋慎一・堀田義太郎が文章を書いてくれている。私は第1部にこの主題に関連してこれまで書いたものを収録してもらった以外は、第1部・第2部については版下作りをし、他は幾つか誤字をなおしたぐらいだった。そして、印刷・製本のために研究室のプリンターと簡易製本機を使ってもらった。
第1〜3部の合本版1500円。その全額がAJFの活動のために使われる。ついでに林の『エイズとの闘い』も委託され販売している。定価504円だが500円。この本については、定価の2割がAJFの活動資金に充てられる。
つまり、冊子(合本版)と本、1セット2000円(+送料)を購入すると、1600円ほどが寄付される。HPの「ここでしか買えない冊子」に関連情報があり、注文できる。第1部〜第3部の各々(各500円)の提供にも応じるが、全額を寄付するから、できれば、合本版の方を買っていただきたい。自家印刷・製本のため不良品ありえます。取り替えの希望があれば応じます。
[表紙写真を載せる本]
◇徳永 瑞子 20011004 『シンギラミンギ――アフリカでエイズ患者と共に生きて』,サンパウロ、273p. ISBN: 4805638842 1260
[kinokuniya]
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[amazon]
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[とりあげた本]
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宮田 一雄
20031201 『世界はエイズとどう闘ってきたのか――危機の20年を歩く』,ポット出版,238p. ISBN: 4939015564 2000+
[kinokuniya]
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◇国連開発計画 20041201 『Quiet Storm 静かなる嵐――HIV/エイズとたたかう人々の勝利のために』,国連開発計画,発売:ポット出版,74p. ISBN: 4939015718 1800+
[kinokuniya]
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◇エイズ会議研究会 20050310 『エイズ 終わりなき夏――第七回アジア・太平洋地域エイズ国際会議に向けて』,連合出版,218p. ISBN: 4897721970 1500
[kinokuniya]
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石 弘之
20050420 『子どもたちのアフリカ――〈忘れられた大陸〉に希望の架け橋を』,岩波書店,228p. ISBN: 4000228552 1700+
[kinokuniya]
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アフリカ日本協議会
+三浦 藍+立岩 真也 編 2005
『貧しい国々でのエイズ治療実現へのあゆみ』
,<分配と支援の未来>刊行委員会,第1部〜第3部合本版, 1500円+送料,
◇立岩 真也 2005/10/25
「『エイズとの闘い――世界を変えた人々の声』」
(医療と社会ブックガイド・53),『看護教育』46-09(2005-10):(医学書院)
◇立岩 真也 2005/11/25
「エイズとアフリカの本・2」
(医療と社会ブックガイド・54),『看護教育』46-10(2005-11):900-901(医学書院)
UP:20061201 REV:1204(誤字訂正), 20150101
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医療と社会ブックガイド
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生を辿り道を探る――身体×社会アーカイブの構築
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医学書院の本より
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身体×世界:関連書籍
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書評・本の紹介 by 立岩
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立岩 真也
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