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ALSと向き合って・社会は人が生きていくための場・中立でなく”生の支持”こそ

立岩 真也 2005/03/03 『聖教新聞』2005/03/03:9


  *題・見出しは編集部による
  *この文章は、注を付した上で『希望について』に収録されました。買っていただけたらうれしいです。

  『ALS』という本を昨年の末に出してもらった(医学書院刊)。ありがたいことに多くの人に読んでいただいている。
  題の通りALS=筋萎縮性側索硬化症の人たちのことを書いた本だ。ALSは全身の筋肉が動かなくなっていく、まだ治療法のない病気である。やがて息も苦しくなり、人工呼吸器が必要になる。わずかな身体の動きを使い、近ごろはコンピュータを使い、長い時間をかけて書かれた文章が多くある。それらを読み、たくさん引用し、私なりには考え、本にした。
  様々なことが書かれ、語られている。たとえば病気のことを知らされること知らされないことについて。不動の身体とともに生きるすべについて。そして生きることや生きないことについて。
  このごろ、周囲はあくまで中立を保つべきで、正確な情報は提供すべきだが、あとは本人が決めることだという話が主流である。わかるが、違うのではないかと感じてきた。この本を書いて、やはり違うと思った。
  むろん多くの場合に正確な情報は必要である。また、その人にとって何がよいか、普通は本人に聞くのが一番よい。その普通のことがなされていないから、本人が決めるという主張も出てきた。
  だが、とくに生き死ににかかわる時にはどうか。ALSの人は人工呼吸器をつけるかやめるか聞かれてしまう。私は臆病で、息苦しいのは辛い。長生きしたい。だからつける。だが「選ばない」人も多くいる。動かない身体のことや、代わりに動くことになる人たちを思ってのことである。
  それが「自然な死」とされる。「本人が選んだ死」とされる。
  しかし、毎日機械を使って生きており、そして息をして生きている私たちなのに、息するための機械を使わないのは変ではないか。その方が不自然ではないか。「自分らしく」も「自然に」もきっとよいことだ。ただ、それにこだわりすぎるとかえって、自分らしくも自然にもなれない。
  そして、周囲が大変だからとその人に思わせてしまう社会とは、まず中立でさえない。次に、人は生きても死んでもどちらでもよいというのが社会のあり方だろうか。人が生きていくためにある場が社会であるのに。
  周囲に左右され、自分の意志を通せないのは、主体性がなく、よくないことだろうか。そんなことはない。その人は優しい人である。そんな人にこそ「生きていなさい」と言うのが基本のあり方ではないか。実際多くのALSの人たちが、周囲が中立でなく、生を支持したために、生きることにして、暮らしている。
  その同じ今、「尊厳死法」が検討されていると聞く。本人が前もって決めたなら、生きるための処置をしなくてよいとしようというものらしい。
  ALSの人のことに続けて尊厳死法について書くと、この法は生きられる人でなく「末期」の人のための法で、話が別だと言うかもしれない。
  たしかに呼吸器をつけて十何年、何十年というALSの人がたくさんいる。しかし、ALSの人の自発呼吸が困難な状態が「末期」と言われ、人工呼吸器装着が「延命措置」と言われてきたのも事実だ。また「尊厳死」を支持する時よく使われる「機械に生かされる」とか「たんなる延命」といった言葉もALSの人にずっと使われてきた。だからその人たちがこの法律が「怖い」と言うのは当然だと私は思う。
  ならば「末期」を厳しく規定すればよいだろうか。だがそうすると、末期とはまさにもうすぐ亡くなる時になる。ならば急ぐことはない。末期ならなおさら、ゆっくりかまえたらよい。もちろん痛いこと苦しいことはいやなことだ。それはよくわかる。しかし多くの場合には、痛みや苦しみを和らげることができる。
  意識がない状態はどうか。だがその時は苦しくもなく、死にたい思いもない。その人自身に死を早めたい理由がない。そしてどうしてほしいとその人は言いようもない。
  だから事前に決めておいてもらおうと尊厳死賛成の人は言う。けれど、人は何を知り、何を思って決めるのだろう。
  みなさんは違うかもしれない。だが、面倒が長引くからと、「延命」を希望しない関係者、希望しないでくれと本人に言う関係者がいる。また、まわりの人がそんな人であることを知り、弱気になり、書面にサインするだろう人を、私は具体的に思い浮かべられる。
  そして人は「ただ生きているだけ」などと言われてきたALSの人たちが、実際どのように暮らしてきたかも知らない。知り、ゆっくり考えてよことがたくさんある。命を救う時には急がなければならない。しかし尊厳死法ができても命が助かる人はいないのである。


UP:20050310
立岩 真也
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