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介護保険的なもの・対・障害者の運動 7

―知ってることは力になる・32―

立岩真也 200407 『こちら”ちくま”』39:
発行:自立支援センター・ちくま


  送ってもらったEメイルが着かなかったりして1回休みになりました。「介護保険的なもの…」の1回目から、1年と4分の1経ってしまいました。その間、とくに今年に入って、介護保険の方に統合したい側の動きが強まっていますし、それに反対する動きも活発に行われています。そのわりにはあまり新聞などでは取り上げられていません。また、取り上げられるときには、事態をよくわかっていない人が書いているせいなのか、的を外した取り上げられ方をされています。
  これから秋にかけて、また来年度に向けてどうなるか、わかりません。しかし「統合派」に押し切られたらまずい。理由は簡単です。前回、「すくなくとも量は介護保険に合わせられない」で書いたように、今のままの介護保険の制度では暮らしていけないからです。最も障害を重く判定されたとしても(実際にはなかなかそうならないでしょう)、訪問介護に使えば1日2時間から3時間でしょう。(いまの松本市の支援費制度の水準がどの程度か私は知りませんが)それでも現状よりはよくなる地域もあるでしょう。しかし、最大1日24時間までようやくもってきた地域では、今までの苦労も今の実績もなくなってしまいます。そして、そうした地域にならってこれからというところは目標とその実現可能性を失います。
  それに対して第一に、自治体が独自に行う分にはかまわないと言われますが、今まで半分の費用を国が出していたのがなくなって、それでも自治体は行うか、行うとしても、現状より増やしていくでしょうか。(「地方分権」と言うとなんでもよいことのようになってしまいますが、こうした生活の基本的な部分に関わる財源については、国の財源を使うべきです。)第二に、介護保険は介護保険として、それと別の制度も置いて、両方を合わせて使えばよいと言われます。「2階建方式」とか呼ばれるものです。しかしその2階の部分がどんなものであるか、これまで示されていません。つまり、これからどうなるかわからないまま、とにかく(財源がないから、まず)介護保険に統合しようと言っているのです。そんな危ない話には乗れない、ということです。
  知的障害の人たちや精神障害の人たちは、とにかく今まで、ほとんどあるいはまったくなにもサービスがありませんでした。それよりはよくなるかも、ということなのか、あるいは補助金など団体(の行っている事業)にもらっている手前、政府との「良好な関係」を維持したいということなのか、いくつかの団体、当事者の団体というよりは家族が主体の団体のいくつかは受け入れにまわろうとしていると伝えられています。しかし、これも、基本的に賛成、とかやむなしとか、今言ってよいことはないはずです。
  判定やケアマネジメントがどんなものであるかによって、制度が使えるか使えないかまったく変わってきます。もちろんそれは身体障害の場合でも同じなのですが、知的障害や精神障害の場合には、暮らしのどんなところにどんなサービスを得られるか、これはとても大事で微妙なところで、その基準や評価の仕方がよくないものであればかえって当人に有害なものにさえなるでしょう。その辺もわかりません。というか、そのまま進んでいけばろくなものにはならないと思います。デイ・ケアとかで作業所にお金が入ってくるかもという期待はわからないでもないですが、それで様々な部分が不透明なまま、まずは認めようというのはいかにもみっともない。知的障害や精神障害の当事者、当事者の組織が反対の立場を明らかにしています。その声をまずはよく聞き、きちんと考えてほしいし、様々な障害の人たちがいっしょにやっていける限りはいっしょに今回のことに向かっていってほしいと思います。
  政府の側の動きもあわただしく、それに応ずる側も忙しい。六月には、千人規模で「6月9日地域生活確立実現を求める全国大行動」が行われました。シンポジウムもいくつか開催され、私も話をさせてもらったりしています。そうした動きについて、少なくともいくつかの全国紙が伝えるよりはましな情報を、ホームページから提供していきたいと思っています。http://www.arsvi.com(私の名前で検索してみてください、最初か、最初の方に出てくるはずです)のトップから入れるようにしてあります。ここ7回、『月刊総合ケア』に昨年書いた文章を分けて掲載してきました。実はまだ「測定し判定し制限することは必須か」「資格はいつも必要なのか」「いくらかの希望」という部分が残っていて、今回書いたことにも関係はあるのですが、これもホームページの方で読んでくださるようお願いします。

◇2003/04/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 1――知ってることは力になる・26」
 『こちら”ちくま”』32:
◇2003/06/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 2――知ってることは力になる・27」
 『こちら”ちくま”』33
◇2003/08/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 3――知ってることは力になる・28」
 『こちら”ちくま”』34
◇2003/10/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 4――知ってることは力になる・29」
 『こちら”ちくま”』35
◇2003/12/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 5――知ってることは力になる・30」
 『こちら”ちくま”』36
◇2004/02/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 6――知ってることは力になる・31」
 『こちら”ちくま”』37
◇2004/09/00「介護保険的なもの・対・障害者の運動 8――知ってることは力になる・33」
 『こちら”ちくま”』40


UP:20040630
介助・介護 2004  ◇自立支援センター・ちくま  ◇立岩 真也 
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