HOME > Tateiwa >

選挙に行くということ

立岩 真也 『朝日新聞』2004-6-18

Tweet

※2004.6.14発送
※この文章は、新たに注を付した上で『希望について』に収録されました。買っていただけたらうれしいです。

『希望について』表紙

 選挙に行かないのはよくないことではない。こう言うのは、政治に失望しているから人は選挙に行かないという説を信じているからではない。この失望説は選挙に行かない人をほめすぎだ。私が言うのはもっと単純なことである。行ってどうなる、と思いながらも行かざるをえないほど困ったことがない人は幸福である。行かなくてすむという状態は悪くない。

 けれど、一つ。民主主義はやっかいなもので、自分が何もしないことも含め、国家が行うことに国民に責任が生じてしまう。参政権を放棄できれば違うとしても、できないならこのことは認めざるをえない。だから、いま様々な地で人が死んでいくことについてあなたに責任があると言われればその通りと答えざるをえない。あることに賛成したか、反対したか、あるいはどちらの意志をも表明しなかったか、そのいずれかであり、それら以外であることはない。

 そんな重苦しさをこの社会の制度はどうしてももっている。今どき選挙に行くとしたら、まずそんな消極的な、だがやむをえぬ理由からだ。この選挙と無縁でありえないその遠くの地の人に問われたら、聞いてもらえるかわからないが、私はこちら側に賛成した、加担したと言いわけをするのだ。

 もう一つ。私は無関心は心配していない。この時代に悲観的なのも芸がないから私は楽観的なのだが、そんな私でも心配なのは政治に関心のある人たちのことだ。

 その人たちはまじめでそして憤っている。そしてそれにはもっとなところがある。この間の現実を進めてきたのは、現状維持の保守勢力だけでなく改革を言う人たちであり、それを支持する人たちである。既得権益を排除し無駄を減らすという主張はまずはもっともで、だから支持される。不当に得をしているらしい部分を削っていこうという。ところが、いつのまにか身に覚えのない自分も削られたりする。実際にそうなってしまえば思い直してもみるかもしれないが、自分は大丈夫だと思っている人は、また当落線上あたりにいる人も、いま立ち止まってみるのは甘く、甘いことを言うのは非現実的だと思っている。

 そしてこの路線に批判的な人たちも、及び腰になってしまい、その路線では「弱者が救われない」といった湿っぽい言い方をしてしまう。しかし今どきの人たちは湿っぽいのがきらいなので、かえってそれは逆効果だったりする。

 私はそんなとんがった人たちが怖くもあるが、またそこに希望もあると思う。弱者という呼び名は社会がつけたのだという感覚は、基本的には当たっている。しかしそう思う元気さが見当外れなところに向かってしまっている。

 だから、そういう人にはかえって、正面から基本的なことをはっきりと言えばよいと私は思う。私が正しいと思うのは以下。必要と稼ぎは人によって違うので、必要の方に合せて世にあるものを分配する。それは政治の仕事であり、それ以外に政治がすべきことはとても少ない。たしかに無駄なことを政府はたくさんしているのでそれは減らす。そうしたら社会の停滞が起こってしまうという心配はわかるが、ここは焦らず落ち着いて考えてみれば、それほど心配することがないことがわかる。

 今の選挙区制度のせいもあり、議席をとれる政党は一貫性のない中途半端なことしか言えず、たしかにわけがわからない。こんな場合には、こちらの立ち位置をはっきりさせ、そこから距離を測るしかない。すると、現在の政治勢力のすべてに様々な難はあるが、しかたなく選ぶことはできる。選挙とはそんなものだと思う。

 

◇2004.6.16朝に担当の方にお送りしたメイル。

「前文、ありがとうございます。そういうことでお願いいたします。
今回はどうもあっとうてきに舌足らずの感があり、忸怩たるものがあります。
(一つに絞って書けばよいのでしょうが、そうすることもできず。)
足りないところを補うべく、機会が与えられれば、書きますので
今回はこんなところでご勘弁。
失礼いたします。」

 

◇最初の原稿の第3段落*

*「その地」が何を指すのか一読してわかりにくいという指摘を受けて、以下を上のように変えました。2004.6.16夕

 そんな重苦しさをこの社会の制度はどうしてももっている。今どき選挙に行くとしたら、まずそんな消極的な、だがやむをえぬ理由からだ。それでその地の人に問われたら、聞いてくれるかわからないが、私はこちら側に賛成した、加担したと言いわけをするのだ。

 

◇cf.立岩 真也 2001/07/29 「選択の前に」(参議院議員選挙について)」(インタビュー),『朝日新聞』2001/07/29


UP:20040616 
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa 
TOP HOME (http://www.arsvi.com)