これは題名通り、日本でも広く使われ精神科関係の人なら誰でも知っている(がそうでない人はほとんど知らない)『DSM』(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders=精神障害の診断・統計マニュアル)についての本。「まえがき」には次のようにある。
「アメリカ精神医学会(APA)の権威あるマニュアルとして、DSMは精神科の病気を定義し、分類し、記述してきた。それは、ありふれた精神医学書などとは比較にならない存在なのである。DSMは、社会的価値観と、政治的妥協と、科学的証拠と、そして保険請求用の病名のごった煮が入った大鍋である。本書では、この影響力の強いマニュアルがどのように開発され発展してきたか、診断というものがどのように創られ、また捨てられてきたか、そしてそれがどのように利用され、あるいは誤用されてきたか、を述べてゆくつもりである。」(p.iii-iv)
前回に紹介した『PTSDの医療人類学』と比べると、この本に難しいところはない。深刻といえば深刻な話なのだが、まず内幕物としてのおもしろさがある。私は読んでないからわからないが、猪瀬直樹の道路公団についての本がおもしろいとすれば、それと同じようなおもしろさがあると言ったらよいだろうか。なお監訳者の一人である塚本千秋には『明るい反精神医学』(日本評論社、1999、215p.、1700円)という、また別の意味でおもしろい本がある。
ごく短く要約すれば、さきの前書きからの引用のようなことになるだろうが、こういう本は要約しても仕方がないところがある。[…]
◆Kutchins, Herb & Stuart A Kirk 1997 Making Us Crazy: DSM - The Psychiatric Bible & the Creation of Mental Disorders, New York: The Free Press, 320p. ISBN-10: 0684822806 ISBN-13: 978-0684822808 [amazon]/[kinokuniya]=20021025 高木 俊介・塚本 千秋 監訳,『精神疾患はつくられる――DSM診断の罠』,日本評論社,345p. ISBN-10:4535981957 ISBN-13: 978-4535981959 \2940 [amazon]/[kinokuniya] ※ m