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「書評:芹沢俊介『「新しい家族」のつくりかた』」

立岩 真也 2004/01/
『東京新聞』2004-01-



芹沢 俊介 20031030 『「新しい家族」のつくりかた』,晶文社,205p. 1700 ※

  家族論は危うい。それは、実在しない過去の家族像を持ち出し、それが壊れているので犯罪など様々な問題が起こっているから家族を大切にせよという話になることが多いからである。これはとても乱暴な話だ。関係者に責任を負わせるというやり方は学校も抑圧的なところにした。芹沢もまた、本の冒頭で、家族を非難し責任を取らせよと言う政治家の発言の粗暴さを批判している。
  では家族の話には関わらない方がよいのか。また乱暴な言葉をただ批判すればよいのか。芹沢は危うさを承知しながら、家族のことが今の人のありように関係していることを確信しているから、家族を論ずる。
  ただ芹沢が大切だと言うものは今ある家族ではない。同居や血縁がなければならないと言わない。また芹沢は環境であるとともに信任の対象としての<母>という受け止め手が大切だと言うのだが、その<母>は、父でも、またグループホームの世話人でもよい。ここがまず違う。
  その上でなお「受け止めることが大切なことは知っている、私は大丈夫。しかし、厳しくしなければならない時もあり、バランスが大切だ」と弁解する人もいる。その自信過剰が困るのだが、こういう人は頑固だから難しい。しかしその元気が空元気であることに当人も実はもう気づいている。そんな人は、身構えずにゆっくりとこの本を読むといい。
  ただその反対側に「私は子どもを愛せない親だ」と自らを責める人がいる。追い込まれかえって子どもへの攻撃に向かう人がいる。その人には受け止めるのはそう難しいことでないと言いたいのだが、どう言えばよいだろう。否定しないことと別のこと、それ以上のものとしての肯定は必要か。母でなく<母>のであれともかく誰かの強い肯定がないとやっていけない現実が肯定を必要とさせていないか。そんなことも、家族を論じる危うさを知りながらもはっきり言うべきことは言おうとするこの本から考えてみたいと思う。

16字×50行=800字 原稿送付:20031218

◇(多分掲載されるヴァージョン…一部、微妙に変わっています。)

  […]
  その上でなお「子どもを受け止めることが大切なことは知っている、私は大丈夫。しかし厳しくしなければならない時もあり、バランスが大切だ」と弁解する人もいる。その自信過剰が困るのだが、こういう人は頑固だから難しい。だがその元気が空元気であることに当人も実はもう気づいている。そんな人は身構えずにゆっくりとこの本を読むといい。
  […]
  ただその反対側に「私は子どもを愛せない親だ」と自らを責める人がいる。追い込まれかえって子どもへの攻撃に向かう人がいる。その人には受け止めるのはそう難しいことでないと言いたいのだが、どう言えばよいだろう。人の存在を否定しないことと別のこと、以上のこととしての肯定は必要か。ともかく誰かの強い肯定がないとやっていけない現実が肯定を必要とさせているのではないか。そんなことも、家族を論じる危うさを知りながらもはっきり言うべきことは言おうとするこの本から考えてみたいと思う。


UP:20031220 REV:20040107,0502(リンクミス修正)
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