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人生半ばの女性の本

―「障害関係」・3―
医療と社会ブックガイド・26)

立岩 真也 2003/04/25 『看護教育』44-04(2003-04):304-305
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 まずご案内。しばらく前からホームページの「本」のコーナーから医療と社会、生命倫理関連書籍のリストに行けるようになっている。発行年順に現在約600冊。次に近ごろ始めたのが障害(者)、障害学関連書籍のリスト。やはり発行年順に現在約200冊。ご覧ください。
 前々回『障害学への招待』『障害学の主張』を、前回『生の技法』とその本の第1章を書いた(話した)安積遊歩(純子)の本を紹介した。以下はそこからの二通りの続き。
 彼女は、言葉としては知られつつある「ピア・カウンセリング」の創始者とは言わないまでも、その普及にもっとも力を尽くしてきた人でもある。ピアpeerは仲間・同輩といった意味の言葉。何か同じものを共有し共通の境遇や経験があることによって、互いの相談に乗り支援することがよくできるという考えのもとになされるのがピア・カウンセリング。その共通のところは、女性だとか、学生だとか、年寄りだとか、様々。その中に障害者同士のカウンセリングもある。安積は私たちが会う前の1983年、半年ほど米国に行った。当時、ダスキンがお金を出し、日本の障害者が米国で学ぶというプログラムがあったのである。彼女は米国でこのアイディアを仕入れてきた。もちろん仲間同士の話の聞き合い、助け合いはずっと行なわれてきたことではあるのだが、その場と時間を設定し、理念や方法を明確にしようとしたものということになろうか。彼女は、1986年に設立された自立生活センターの草分け(を自称する)東京都八王子市の「ヒューマンケア協会」という(最初はとても小さな)組織でこの部門の責任者になり、仕事を始めた。(センターについては『生の技法』の第9章。狭義のカウンセリングではないが、この考え方を使った「自立生活プログラム」については第6章。)このカウンセリングは、はまる人とそうでもない人、その辺りの温度差はありつつ、かなりの速度で全国に広がっていった。
 私は以前、ヒューマンケア協会発行の報告書『自立生活への鍵――ピア・カウンセリングの研究』(1992年,110p.,1200円)の編集実務の仕事を頼まれてしたことがあるのだが、これは報告書としては珍しく刊行10年を過ぎて今でも注文がある(目次等は私のHP)。その後も出版物はいくつも出ているが、本屋で買える本では、安積遊歩・野上温子編『ピア・カウンセリングという名の戦略』(青英舎,1999年,245p.,1524円)がある。
 もう一つ情報を追加。本誌昨年12月号の第22回「サバイバーたちの本の続き・2」で紹介した日本社会臨床学会編『カウンセリング・幻想と現実』(現代書館、2000年)の中で、篠原睦治はピア・カウンセリングに対して(も)批判的な文章を書いている。いっしょに読まれたらよい。

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 実は、女性で障害者でという人が書いた本でおもしろい本すぐれた本、そしてその数はそう多くないにしても後に続く人たちに大きな影響を与えた本がかなりの数ある。
 有名なのはたぶん北海道の小山内美智子の本だろう。比較的新しいものとしては『車椅子で夜明けのコーヒー――障害者の性』(ネスコ,発売:文藝春秋,1995年)、『あなたは私の手になれますか』(中央法規,1997年)。ただこれはみなさん知っているはず。他にもたくさん重要なものがある。今回調べてみたら、やはりほとんどが品切・絶版になっているので、出版社や値段等は一部略す(HPのリストで確認できる)。
 1960年代には脳性麻痺者で後に沖縄で「土の宿」という民宿を開いたりもする木村浩子の『足指に生きる』『わが半生記』が自費出版で出る。そして1970年代には文学者でもある箙田鶴子のシリアスな『神への告発』『他者への旅』。これらは後に続く人たちにはかなり読まれていて――例えば、安積は箙の本のことを語ったことがあるし、後述の境屋の本には木村の本のことが出てくる――影響を与えている。これもまた、共通のものをもっている人に、気持ちや勇気やときには具体的な処世術が伝わっていく一つのかたちである。
 そしてその後、これは女性の本というわけではないが牧口一二・河野秀忠編『ラブ』(長征社,1983年)。そして津野田真理子『マリコいろにそまれ――障害者の女が街で生きる時』(千書房,1983年)、岸田美智子・金満里編『私は女』(長征社,1984年)と1980年代前半に名作が続けて出る。ただ、金満里・岸田美智子編『新版私は女』(長征社、1995年)も含めいずれも品切のようだ。津野田は東京の人で、本は『話の特集』に連載された文章を集めたものなのだが、後は関西系、ということになろうか。例えば最初の本の編者の二人は男だが、河野は『そよ風のように街に出よう』というとても大切な雑誌を出し続けている大阪人、牧口はNHK教育の番組に時々出てくる、ポリオをかつて患った大阪人。なぜこの時期に本が続けて出たのか。1970年代、全国的に、それまでと異った、突っ張ってもいるし脱力系でもある障害者の運動が現われた。そして大阪・兵庫あたりの関西圏はまた独特に盛り上がった。それを受け、一つには言いたいことはとにかく言えばよいのだということになる。そして同時に、そこにいて引っ張り廻された感じもする私、女の私は誰?、何?、をすこし振り返って考えてみようというところが出てきたということだろうか。

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 その感じも伝える本として、さきに編者としても名の出てきた金満理の『生きることのはじまり』がまだ買える。1996年の出版。彼女は1953年大阪生まれ、3歳のときにポリオにかかる。4年間の入院の後退院、1961年に施設に入所、10年を過ごす。1975年に介助を受けながらの一人暮らし、いわゆる「自立生活」を始める。1983年に劇団「態変」を旗揚げし現在も主宰する。85年に出産。
 もう一冊は東京に暮らす境屋純子の本。安積や町田市の堤愛子や樋口恵子たちとも活動、ピア・カウンセリング等の仕事をいっしょにしてきた――樋口はもう一人のさらに有名な評論家とは同姓同名の別人で、著書に『エンジョイ自立生活――障害を最高の恵みとして』(現代書館,1998年,1500円)。また安積と境屋は東京都国立市にある自立生活センター「くにたち援助為センター」の運営にも関わっている。(このところ境屋うららの名前で出ている。)
 この本も生い立ちからずっと書いてある。1952年高崎市生まれ。脳性麻痺に。1960年に施設に入所、養護学校に入学。高等部は(現在筑波大学付属)桐ヶ丘養護学校。1973年に「自立生活」を始める。76年に和光大学に入学。車椅子の聴講生を受け入れ話題になった明治学院大学は願書の受理を拒否、和光大学も受け入れは初めてで、様々にもめる――ちなみにさきにちらっと名前を出した篠原睦治はここの教員で、本の中にも出てくる。77年から84年の間に3人の子を産み、88年に子の父と別居、91年に離婚、3番目の子と暮らす。
 年齢、一人で暮らし始めた時期も二人は近く、それぞれは大阪と東京でほぼ同時期にそれぞれその頃のものを受け取ってやってきた。例えば金の本には、療護施設のあり方に抗議しようと施設に行き、成り行きで占拠することになり、針金で自分を部屋の机にくくりつけて籠城し、そして踏み込んだ機動隊に連行されるのだが、しかし連れて行かれたのは警察署・拘置所ではなく自分たちの事務所だったという、高揚した、同時になさけない、一部で有名な事件の顛末が書かれていたりする(127-132頁)。そして男や子どものことが書かれているし、もちろん、優生保護法、子宮摘出手術のこと等、大きな問題になって、そして今に引き継がれていることがどのように問題にされたのか、自らがどう受け止めたのかが書かれている――もちろん、と言えるほど知られているか、知られるべく記録されているかが問題なのだが、これについてはまた他の本も含め所在を確かめてみよう。
 彼女らは、こうして激動の中にいたのだが、これは一度だけ起こったことなのか、ずっと起こっていることなのだろうかと思う。両方なのだろう。その形は状況の中で変わっていくのだが、しかしこのままではどうもよいことはないことに変わりはなく、ではどのようにやっていくかということになり、そのときに人は自分のまわりにあるものに影響されたり、またそれを自身で使ってみたりする。そこでは、「私」と「私たち」の関係を問うことも起こる。そして「論理」の位置を考えることにもなる。例えば金は鋭利な論客であり、論理で仲間を説得し、相手を破った。つながりとかふれあいとかすぐ言い、福祉は論理ではありませんみたいなことを、平明に、しかし高慢に語る人たちとそれは異なる。そんな場所から関西では「国際障害者年をブッ飛ばせ!'81」という歌って踊る催しが行われる。それはレオタードで身体障害とその動きを表出する劇団「態変」の旗揚げにつながる。やがてその劇は台詞もない筋立てもない劇になっていく。

[表紙写真を載せた本]

境屋 純子 19920525 『空飛ぶトラブルメーカー――「障害」者で私生子の私がいて』,教育史料出版会,235p. ISBN:4-87652-229-4 1500 [amazon][kinokuniya][bk1] ※
金 満里 199608 『生きることのはじまり』,筑摩書房,ちくまプリマーブックス103,224p. 1100円


UP:20030311 REV:20070502
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