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障害学?の本・1

医療と社会ブックガイド・24)

立岩 真也 2003/02/25 『看護教育』44-02(2003-02):132-133
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 この欄を書かせていただくようになってはや3年目、しばらく医療から外れることになるが、そして以下は私も関わっている本の紹介ではあって多分に広告的なものになってしまうが、乞御容赦。
 「障害学」というものが存在する、ことにしてしまっている。『障害学への招待』その後、倉本智明・長瀬修編『障害学を語る』(筒井書房、2000年、189p.、2000円)が出版された。そして昨秋 『障害者の主張』 が出た。真ん中のものは講演集だから、書き下ろしの論文集としては2冊目ということになる。
 まず、ただ単に章立てを紹介する。ホームページには各著者についてのデータや序文・あとがき等を掲載しているのでどうぞ。
 1999年3月に刊行された『障害学への招待』。長瀬修「障害学に向けて」、石川准「障害、テクノロジー、アイデンティティ」、立岩真也「なにより、でないが、とても、大切なもの――自己決定する自立、について」、玉井真理子「「障害」と出生前診断」、市野川容孝「優生思想の系譜」、森壮也「ろう文化と障害、障害者」、金澤貴之「聾教育における「障害」の構築」、倉本智明「異形のパラドックス――青い芝・ドッグレッグス・劇団態変」、花田春兆「歴史は創られる」、山田富秋「障害学から見た精神障害――精神障害の社会学」。
 そして昨秋、2002年10月に刊行された『障害学の主張』。石川准「ディスアビリティの削減、インペアメントの変換」、立岩真也「ないにこしたことはない、か・1」、好井裕明「障害者を嫌がり、嫌い、恐れるということ」、倉本智明「欲望する、<男>になる」、瀬山紀子「声を生み出すこと――女性障害者運動の軌跡」、ニキ・リンコ「所属変更あるいは汚名返上としての中途診断――人が自らラベルを求めるとき」、寺本晃久「能力と危害」、杉野 昭博「インペアメントを語る契機――イギリス障害学理論の展開」。

◇◇◇

 どれからでも、どの章から読んでももらってもよいのだが、まず最初の本である『障害学への招待』。自分たちではこれは出すべき本、重要な仕事だとは思ったが、そう売れるとは考えていなかった。けれど意外に売れた。今出ているのがたしか第6刷で、それはこの手の本では珍しい。さてそれはどんな本であるのかだが、ここでは少し遠回りしながら、だんだんと紹介していこう。
 もう忘れた人もいるかもしれないけれど、この前年、1998年の秋に乙武洋匡の『五体不満足』(講談社、271p.、1600円)が出て、ベストセラーになった。内輪で売れたと喜んだ『招待』の 300倍より出たはずだ。本人も誰もそれがその翌年にかけ一番のミリオンセラーになると思いはしなかった。彼の友人から、こんな本が出るからホームページで紹介してほしい旨のEメイルをいただき、宣伝文を掲載したくらいだ。
 みなさん読んだはずなので紹介の必要はないだろう。『ロスアンジェルス・タイムズ』からなぜこれが日本で受けているのか言いなさいという(日本語の)電話取材があって、ファックスで返信しますと言って送ったことがある。はたして実際の紙面に載ったのか確認していないが、次のように書いた(口答でコメントするとまったく違ったニュアンスの文章になることがあるので、できるだけ文書を送るようにしている)。
 「「五体満足でないと不幸だ」というきまりごとに日本人もまた息苦しさを感じているのではあり、そこに、乙武さんが「五体不満足であることは不便であるだけだ」と言い、実際にそのように暮らす姿を示したことは、ある種の解放感をもって受け止められたのだと思う。と同時に、彼は十分にハンサムであり、頭がよくて、その意味で現代の社会の価値を脅かすことにならない。このちょうどよいバランスがベストセラーの一因になっていると思う。」
 こちらはおまけですと言ってもう一つの版も送った。「さんざん苦労し困難を乗り越えた末の成功物語という従来の描かれ方はもう流行らないと思っている人々にとって、彼の青春の記は、さわやかで軽々とした、しかし障害があることはやはり大変だろうと思う自らにとっては十分に立派な、克服的でない克服の物語として受け取られることになる。」
 私も根性がねじれているのかもしれないのだが、そしてこの本の明るさは小浜逸郎(『「弱者」とはだれか』、PHP新書、1999年、222p.、657円)あたりからいちゃもんをつけられることにもなるのだが、しかし、障害があるのは不便だが不幸ではないというメッセージは、やはりまず「まる」、ではないか。そしてそのとき私が思ったのは、このことが言われたのは最初ではないということだった。そして、そんなふうにまず言い切ってしまうところから、障害者の運動の歴史が新しく始まって展開してきた。前回まで紹介してきた精神病・精神障害の人たちのしてきたこと、その人たちの本もその流れの中にある。そして「障害学」とやらもそれと無縁ではない。
 今までずっと言ってきたことが、しかしあまり聞いてもらえなかったことが、どうしてえらく受けたのだろう。上に引用した私の文章は、そのことだけに関わっている。それは不思議なことでもあるが、一味足せば、あるいは減らせば、それなりに広範な人々に、こういう乗りを受け入れたい部分があるということだとも言える。そしてそれはよいことだと、当然のことだと私は思う。
 とすると、足したもの、引いたものにどんな意味があるのか、ないのか。乙武以前の人たちは、ただ言い方が下手だったのだろうか。
 だが、そう簡単には引き算してしまえそうにないこともある。例えば人は人に対し常に無害であることはできないのだが、それが精神障害と結びつけられることがある。それは乱暴な結びつけ方だが、その乱暴さをどう言えばよいかはなかなか厄介だ。(このことにすこし関係する文章を青土社『現代思想』1月号掲載の「生存の争い・9」に書いた。特集は「トランスナショナル・フェミニズム」。そして医学書院『精神看護』1月号の特集が「「反社会性人格障害者」という人」。)
 そして身体のこと。乙武は先天性四肢切断症で、たしかに十分に本格的な身体障害者だ。ただ、すこし慣れるとそう異形の者という感じはしなくなる。過剰なものはない。むしろ「普通」の人から手足を引いて、そしてさっぱりさせた感じだ。これは例えば脊髄損傷等の中途障害で車椅子に乗っている人が、やはり「普通」の人が車椅子に乗っているだけという感じであるのにも似ている。ドラマなどでも出てくる人はたいていそういう人たちだ。脳性まひで身体がそっくり返っていたり、捻じ曲がっていたりしている人は登場しない。また、役者が真似しようと思ってもできないところがある。そのような部分はどうなるのだろう。広く受けはしなかったが、むしろそこにこだわったというか、その部分を押し出したというか、そんな人たちが実はいた。それはどういうことだ。
 というようなことを考え出してしまうなら、それは既に障害学をしていることなのである。

◇◇◇

 私のようにただ考えていたいことを考えているだけでは「学」という印のついた旗は上がらず、集団はできない。旗を上げるには面倒なことを引き受ける人が必要になってくる。この場合には長瀬修がその役割を果たした。彼は私と似たような年の人で、国会議員の秘書だとか青年海外協力隊員だとかさまざまな活動・仕事をしながら、収入は通訳等でなんとかという、つまりはフリーターをしてきたのだが、昨年から東京大学先端科学技術研究センターで特任助教授の職を得ている。(ここには後に紹介する<盲ろうの大学(助)教授>福島智がいて、2人は通称「バリアフリー部門」という研究室をやっているのだ。)
 まったく知らないその長瀬という人のオランダからの本の注文のEメイルをもらって、『生の技法』という本(後で紹介)を送ったことがある。彼はその本も使って、日本の障害者運動のことを書いた修士論文をオランダの大学院に出し、1995年に日本に戻ってきた。それでまた電話がかかってきて、私が住んでいた松本に訪ねてきてくれた。どんな話をしたかよくは覚えていないのだが、「障害学 disability studies」というものが米国や英国にはあって、なかなかおもしろいこと、ただそれを輸入しようというわけではなく、すでに日本にも様々蓄積はあるのだから、そんな仕事をしてきた人、関心をもっている人に呼びかけて、まず本を1冊作ろうというような話だったのではなかったか。
 そして彼は私の先輩でもある静岡県立大学の<全盲の社会学者>石川准にも相談し、執筆者として何人かに声をかけ、メイリング・リストを作った(それは今では出入り自由のMLになっていて、私のHP→石川のHP経由でも登録できる)。こうして本作りが始まった。

[表紙写真を載せた本]

◆石川 准・長瀬 修 編 19990331 『障害学への招待――社会、文化、ディスアビリティ』,明石書店,321p. ISBN:4-7503-1138-3 2940 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][bk1] ※ d ds
◆石川准・倉本智明編 2002 『障害学の主張』,明石書店,294p.,2600円

◆立岩真也 2003/03/25 「障害学?の本・2」 (医療と社会ブックガイド・25),『看護教育』44-03(2003-03):214-215(医学書院)


UP:20030113 REV:
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