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「支援費制度」?・2

―知ってることは力になる・24―

立岩 真也 200211
『こちら”ちくま”』30:(2002年)
発行:自立支援センター・ちくま
http://www.azumino.cnet.ne.jp/human/chikuma



  今回は「支援費制度」の第2回目ということになるのですが、第1回を読んだとしても、何か月前に読んだことなど普通は忘れるのが当たり前ですから、まず少し復習。
  支援費制度とは、1)利用者が選んだ事業者(サービスの直接の提供者)に、そのサービス=事業に応じた支援費が国・自治体から支払われるという制度であること、2)利用者が選べるというところだけ見ればこれまでの措置制度より利用者・障害者の運動・主張に沿ったものであること、3)ただこれはあくまでかたちの変更であってサービス量の変化(拡大)ではないこと、そして4)選択したい事業者がいないことには話にならないこと、5)事業者になる要件が緩くなったのでもあるから、自分たち自身が、利用者にとって使い勝手のよい事業者になっていくという方向があること、等を書きました。

  1)について補足。お金をサービスを使う本人が受け取る(そしてサービスの提供者に払う)余地も残されてはいますが、今度の制度では基本的には「代理受領方式」といって事業者が受け取るかたちになります。関係する法律の関係する箇所が変更されたのは今年になってからです。介護保険のときも具体的な肝心のところが直前まで決まりませんでしたが、今回も来年4月の実施を前にし、そしてこの秋からはサービス利用者への説明等が始まっているのに、まだ確定していない部分があります。書いている時点では、9月12日付の「支援費担当課長会議資料」が厚生労働省発の最新の情報ということになります。ただ、そこに書いてあることもこれから変わる可能性があります。
  ちなみにこの資料は分量も多く、細かく(細かいところが大切なんですが)、見やすくはありません。その要点をまとめた文章などがいくつかあって、私のホームページからリンクされています。http://www.arsvi.com→「50音順索引」→「支援費制度」、または、→「立岩真也」→「「支援費制度」?・2」→「支援費制度」と辿るなどしてご覧ください。東京都社会福祉協議会発行の『障害福祉分野における支援費制度とは――制度のあらましと準備の状況』(2001年)に掲載された「残された部分の方がずっと大きい」等、私がこれまでに書いた文章も読むことができます。

  次に制度の具体的なところについて少し。支援費制度には、施設でのサービスやデイ・ケア等も含まれますが、ここではいわゆる在宅の人の介助・介護だけ見ていくことにします。
  「身体介護」「家事援助」「移動介護」「日常生活支援」と4種類が立てられています。「身体介護」「家事援助」は、1時間あたりの単価にしても、介護保険のサービスとほぼ同じものです。「移動介護」はこれまでの「ガイドヘルプ」に対応するもので、これは(介護保険では高齢者は移動しないことになっているのでしょう)介護保険にはありません。そして「日常生活支援」という4つめのものが、各地の運動によって獲得されてきた「全身性障害者介護人派遣事業」に対応するものと考えてもらってよいでしょう。介護保険の発想・システムでは、長い時間介助者が利用者について必要に応じて介助するというかたちがそもそもありません。それでは在宅で長時間の介助を要する人、介助を使いながら様々な活動をしていこうという人にはどうしようもありません。だから、介護保険がそのまま高齢者でない障害者にもやってきたらどうしようという危機意識があって、ここ数年間、障害者の運動は国の動きを監視してきたのです。それで、これまでの実績と要求をふまえ、このタイプが4つめに置かれたということだと思います。なお、介護保険のサービスを受けている人でも、支援費制度のサービスを受けられる場合があるとされていることを付け加えておきます。
  ただ、「日常生活支援」は「身体介護」に比べると単価が低く設定され(1時間半で2630円)、また9月の資料では「身体介護」「家事援助」と「日常生活支援」とは併用できないとされています。「身体介護」+「家事援助」+「移動介護」という組み合わせをとるか、「日常生活支援」+「移動介護」の組み合わせをとるかどちらかにしてくれということです。このことをどう評価するか、また自治体のレベルでどちちの方に仕向けられそうか、それに対してどのように言っていくか、これは大切なところだと思います。
  自己負担が心配されていましたが、1月あたりの自己負担の上限が所得に応じて設定されました。給与が月30〜40万円の人なら月7200円が上限だそうです。最高の4万7800円/月というのはかなりの高額所得者になります。配偶者の所得(だから本当は自己負担ではなく家族負担です)は算定されますが、同居の親は負担の義務から外れます、つまり親の収入のあるなしは関係なくなります。
  さて、支援費制度に移行すれば、これら4種類のサービスがどこでも自動的に行われる、ということにはなりません。いままでガイドヘルプ・サービスを行ってきた自治体や全身性障害者派遣事業があった自治体は、この制度の「移動介護」「日常生活支援」にそれを移していくでしょうが、ないところは新たに作らせなければなりません。ただ、こうやってメニューには入っているとなると、今までよりはすこし作らせやすくということはあるかと思います。これまでなかったところでは、これを機会に始めさせるように動く必要があります。

  次に5)、これらのサービスを提供する事業者になることについて。いままでは、サービス提供を自分たちでやろうと思っても、組織に対して行政からの資金提供がある東京都のようなところ以外では自前でやっていくしかありませんでした。事業委託を行政から受けなければ、ホームヘルプサービス等の公的なサービスの提供はできませんでした。公的なサービスを利用者が使いよいように使おうとすれば、実施主体である市町村か、あるいは市町村が指定する委託先に自分が選んだ介助者を登録するという「登録ヘルパー」というやり方がとられきました。これは今までの制度のもとではよいやり方でしたが、自分たちが事業者になれるなら、その方がもっとよいわけです。
  支援費制度では事業者に入る支援費を介助者の人件費にあてる以外に事業の運営に関わる費用に使うことができます。それで組織、事務局を運営していくことができます。とくに儲けようなどと思わなければ、利用者数人で小さくやっていくというのもよいかもしれません。介護保険導入でぼつぼつNPO法人等のそういう事業者が出てきたのですが、それが高齢者対象に限らないものになります。利用者自身の側で作っていくこともできるのです。
  問題は事業所をやっていく上での要件です。今まで、とくに介護福祉士等の資格をもっていない人たちが介助にあたってきて、それでやってこれたのですが、これこれの資格をもつ人が何人以上いないといけないというように定められてしまうと事業所を作ってやっていけないということにもなります。介助者個人にしても、この制度のもとでの介助者になれないということになります。資格のある人でないと利用者が困るなら別ですが、実際にはそんなことはないなら、この条件がきついのは困ります。それで今回の制度の変更にあたっては、すでに登録などしてヘルパーをしてきた人は、支援費制度のもとでも介助者を続けていけるような措置がとられそうです(ということは、変更の前にヘルパーの登録をしておく必要があるということですが)。また、日常生活支援と移動介護だけを行う事業者(自立生活センターのような組織というイメージだと思います)について介護福祉士は不要ということになりそうです。さらに人員確保が困難な地域では「基準該当居宅支援事業所」という形態が認められ、市町村の首長が事業所として認めれば法人格も不要。ただ、NPO法人を取得すること自体はそう難しくないですから、まずはNPO法人をとるのは順当な手でしょう。
  自分たちで介助者を選ぶ、組織も作ってしまうというのは脳性マヒや脊髄損傷といったポピュラーな?障害をもつ人たちが開発してきたやり方ですが、これは、特例として介護保険に入れられたもののたいして役には立たなかった難病の人たち、例えば掛け値なしで24時間介助が必要な(しかし介護保険では2〜3時間分しかまかなえない)ALS(筋萎縮性側索硬化症)の人たちにとっても使えるもので、今回の変更は一つのチャンスになるはずです。というか、せっかくですからチャンスとして捉えましょうということです。何人かの患者、あるいはその家族が事業所を作ってしまう、医療行為だからと他ではやってくれなかった介助、例えば吸引にしても、家族はずっとそれをやってきたのですから、それを自分たちできちんと介助者に教えることもできるのです。

  とにかく今後を注意深くみて行ってほしいと思いますし、必要なところでは口をはさみ、変なものにならないように、使い勝手の悪いものにならないようにしなくてはなりません。1970年代の中頃東京で始まった介護人派遣事業は、わりあいおおざっぱな制度で、ある意味ルーズなところがあって、それで融通がきいて使いやすかった部分がありました。それが全国的な、(行政の側からみたときに)かたちとして整ったものになっていくときに、かえって使えないものになってしまう可能性もあるということです。
  とにかく行政の人が言ってくることをそのまま受け入れる必要はありません。今回の制度の変更にあたっても、中央官庁は中央官庁でわかっていなかった部分が多々あり、前回紹介した「全国障害者介護保障協議会」の人たち等、実際のところを知っている側から指摘を受けて、(もちろん役所として対応できる範囲で、ですが)手直しに応じてもきました。また、地方行政の側は地方行政の側で、担当部署、担当者の誤解・誤読から、できるはずのことをしなかったとか、そんなことがこれまで多々ありました。もちろん、すべての利用者がこの制度に精通するというのは無理なことですが、すくなくとも利用者の側に立ち、その権利を擁護しようとする人・組織は、情報に気をつけてほしいと思いますし、今度の制度から最大限の可能性を引き出すにはどんな方法があるか、またどんな実例があるか、気をつけて見ていってほしい、積極的に取り入れてほしい、行政に提案していってほしいと思います。
  同時に、この制度は、当人による選択・決定をうたっているのですから、サービスを利用する本人自身がその仕組みをわかっていた方がよいこともまたその通りです。例えば東京の立川市にある「自立生活センター立川」では支援費制度が利用者にやさしくわかるプログラムの開発という事業を委託され、いま作成中です。完成するまでにすこし時間がかかるはずですぐには使えないにせよ、こういうものも役に立つでしょう。できたらお知らせします。


UP:20021108 20021114誤字訂正
自立支援センター・ちくま  ◇立岩 真也
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