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二〇〇一年読書アンケート

立岩 真也
200201
『みすず』44-1(490)(2002-1):49-50
http://www.msz.co.jp


  他であげた三冊のうちの一冊は、森岡正博『生命学に何ができるか――脳死・フェミニズム・優生思想』(勁草書房)。『看護教育』(医学書院)で「医療と社会・ブックガイド」という連載を昨年の一月から始めていて、数か月遅れで(いちおう雑誌の営業に対する配慮です)ホームページ(私の名で検索すると出てきます)にも掲載される。森岡の本はそこでも取り上げた。
  そしてマーサ・ヌスバウム他『国を愛するということ――愛国主義をめぐる論争』(人文書院)。すぐれた文章ばかりが載っているわけではない。だが、「国民の創出」といった歴史的な視点(これはまったく重要な視点だが)からだけでなく、国家について考えようとすることが必要だと思うのであげる。
  もう一冊はジョン・ローマー『分配的正義の理論――経済学と倫理学の対話』(木鐸社)。分配が思考の主題であることを思い知っていない人は思い知ってください。原著は一九九六年。著者はアナリティカル・マルキシズムの旗手の一人。他に訳書では『これからの社会主義――市場社会主義の可能性』(青木書店、一九九七年、原著一九九四年)がある。G・A・コーエン(著書に『自己所有、自由、平等』等、翻訳はない)などがいるこの学派はもっと注目されるべき。短かすぎてもの足りないが一冊しかない日本語の紹介本として高増明・松井暁編『アナリティカル・マルキシズム』(ナカニシヤ出版、一九九九年)がある。他にこの領域で今年出た本として鈴村興太郎・後藤玲子『アマルティア・セン――経済学と倫理学』(実教出版)。センの翻訳はだいぶ出たが、センについて日本語で書かれた本はこれが最初ということになる。
  国家とか、分配とか、基本的な主題は退屈な主題だと思ってしまって、考えない。そういう悲惨な状態からようやく私たちは抜け出ようとしているのだと思う。私は「自由の平等」という文章を昨年『思想』に四回書いて、まだ終わらない。どうやら私と似たようなことを考えている人たち、つまり今記したような人たちがいるらしいと遅ればせながら気がついて、少し勉強した上で終わらせた方がよいのかなと思っている。



Roemer, John E.  ◇Sen, Amartya  ◇書評・本の紹介 by 立岩  ◇立岩 真也
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