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サバイバーたちの本の続き・2

医療と社会ブックガイド・22)

立岩 真也 2002/12/25 『看護教育』43-12(2002-12):1076-1077
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※全文は以下の本に収録されました。
◇立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 [amazon][kinokuniya] ※ m.

※また吉田おさみについては以下の本で紹介しました。
◇立岩 真也 2013/12/10 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社,434p. ISBN-10: 4791767446 ISBN-13: 978-4791767441 2800+ [amazon][kinokuniya] ※ m.

 前回は、行った人はみなよかったと言う札幌でのDPI世界会議にもやってきた米国とニュージーランドの2人の精神障害の人が書いた本を紹介した。今回は国内篇だが、その前に別の種類の本を取り上げる。
 本誌10月号p.794「あまのじゃくのススメ」(宮本博章、私のすすめる本10)でも取り上げられた小沢牧子の『「心の専門家」はいらない』(洋泉社、2002年、218頁、700円)が読まれているようだ。私が買った第3刷の帯には「「心のケア」「心の教育」ってどこかうさんくさい!」とある上に「大反響!」と刷られている。それには必然があると思う。
 私自身はまったく門外漢だが、日本臨床心理学会という学会が、それまでカウンセリングをする人の資格化の方向で進んでいた議論を止め、自分たちの仕事を「問い直し」たりしてしまう作業を1970年代初頭から初めてしまう。それが90年代、臨床心理士の資格化に関わってさらにひともめし、結局は実現された資格化に最後まで賛成しなかった少数派が作ったのが日本社会臨床学会で、小沢はずっとそこで活動してきた人で、そしてこの本に書かれていることをずっと言ってきた人だ。実際今度のこの本にしても、その学会の活動や学会のメンバー達の主張が言ったり書いたりしたことがかなりの分量をとって紹介されている。
 この学会が編集したりそこに関係した人たちが書いた本を私はずいぶん前に読んで、同業者の学会・団体のくせにこれでは少数派になるのは無理もなく、なかなかきびしい自己矛盾的なことをよくまあやっているなあと思うと同時に、しかし八、九割当たってはいるが、全部を受け入れることもできそうにない、それをどう言えばよいのだろう、などと思い、そんなところからものを考えてきたところがある。
 そういう私も含むのかどうか、それらはかなり特殊な?関心を持つ人だけによって読まれた。その活動を知っている人は多くはなかった。だが、いまも少数派であることにまちがいはないのだが、日本社会臨床学会編『カウンセリング・幻想と現実』(現代書館、2000年)は上下2巻、各3000円という分量、価格であったにもかかわらず、書いた当人たちが思った以上に読まれた。(小沢は上巻の第1章を執筆している。)そして今度の小沢の本である。

 […]

◇◇◇
 それを論じると長くなる。前回からの流れでは、本人の書いたものを取り上げるのだったはずなのに、脇に逸れている。けれど、私としてはつながっている。小沢の本を最初にもってきたのは、その中に吉田おさみのことが書かれていたからだ。彼は精神障害の本人で、すでに亡くなっている人で、私は文字を介してだけ知っている。小沢の本によれば、1984年に52歳で亡くなっている。
 彼には日本臨床心理学会の学会誌等に遺した文章の他、2冊の著書があって、1冊目の『”狂気”からの反撃』(新泉社、1980年)はもう品切だが、1983年刊行の『「精神障害者」の解放と連帯』はまだ買える。
 まずこれを買ってくださいとはなかなか言いづらい本ではあるが、言ってしまってもよいかなとも思う。
 一つには資料的な意味があって、70年代から80年代初めの(ごく一部の)精神障害の人たちの動きについて書かれている。もっと詳しい方がありがたいが、他により詳しく書いた本がそうあるわけでもなく、貴重な資料の一つではある。
 文章そのものも時代がかっている。「患者大衆の運動への結集」などと書かれると、そういえば昔こういうのってあったと思う人と、ただ漢字が多く使い方が妙だなと思う人と両方いるのかもしれない。たしかに時代の本ではある。それにも、今はこんな言い方はしないというのと、今ではこの主張はそれなりに一般的なものになってしまったというのと2つある。非常に稀な人だと思うが吉田の本を読んでいる精神科医(のすくなくとも資格はもっている人)がいて、その人が吉田おさみってすごい過激な奴だと思っていたけど、読み直したらすごい普通なことを書いていると思ったと、こないだ言っていた。それもそうだなと思う。
 同時に、私はひさしぶりに読んで、この人はきちんと考えているではないかと、あらためて思った。これは一人のまっとうな思想家・思想者の本でもある。
 精神病であることについて。「むしろ人間は単に能動的・主体的な存在でなく受動的・受苦的存在であり、ティピカルな「精神病」者は受動的・受苦的存在としての人間なのです」といった箇所は拙著『弱くある自由へ』(青土社)の「1970年」という章でも引いたことがある。これは、障害者も健常者と同じなんだ(同じになるんだ)という捉え方と異なる捉え方であり、できる/できないでいえば、「できない(と思われていた)人もできる(ようになる)」と言うのでなく「できないものはできない」と言う。この構えはとても重要だと思う。「障害学」について紹介するときにまた触れようと思う。
 さらに『臨床心理学研究』に掲載された文章には、「問題は誰がなおしたいかということです。身体病の場合は主として本人がなおしたいのであり、精神病の場合は主として社会がなおしたいのです」という文がある(小沢の本のp.89に引用)。極端と思われるかもしれず、たしかに極端だが、しかしことの本質を捉えていると言わざるをえない。
 ただそれでも本人が苦しいこともある。では治療をどう考えるのか、薬はどうか。医療も、薬も、カウンセラーもいらない、という一本気な主張にもなるし、苦しければ使えばいいさという話にもなる。また本人にはいらないかもしれない医療がなぜあるのか、という問いも続く。
 さらに鋭いのは例えば病因論についての言及。

 […]

[表紙写真を載せた本]

◆日本臨床心理学会 編 1979 『心理テスト・その虚構と現実』、現代書館、445p. <260,319> [bk1] ※ 
吉田 おさみ 19831201 『「精神障害者」の解放と連帯』,新泉社,246p. ISBN: 4787783157 1575 [kinokuniya] ※

[ほかにとりあげた本]

小沢 牧子 20020321 『「心の専門家」はいらない』,洋泉社,新書y057,218p.,ISBN: 4896916158 735 [amazon][kinokuniya][kinokuniya][bk1] ※ m,
◆日本社会臨床学会 編 200001 『カウンセリング・幻想と現実 上巻 理論と社会』,現代書館,326p. ISBN:4-7684-3419-3 3150 [amazon][kinokuniya][bk1] ※
◆日本社会臨床学会 編 200001 『カウンセリング・幻想と現実 下巻 生活と臨床』,現代書館,342p. ISBN:4-7684-3420-7 3150 [amazon][kinokuniya][bk1] ※
◆日本臨床心理学会 編 19900810 『裁判と心理学――能力差別への加担』,現代書館,396p. ISBN-10: 4768433731 ISBN-13: 978-4768433737 3500 [amazon][kinokuniya][bk1] ※ d
吉田 おさみ 198101 『”狂気”からの反撃――精神医療解体運動への視点』,新泉社,276p. ISBN: 4787780085 1575 [品切] [kinokuniya]

[言及]

◆立岩 真也 2013 『造反有理――精神医療現代史へ』,青土社


UP:20021101 REV:1118(誤字訂正)
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