HOME > Tateiwa >

(家族について)

立岩 真也 
記事執筆:三村卓也(信濃毎日新聞社 編集局文化部記者)
『信濃毎日新聞』2001-01-05
http://www.shinmai.co.jp/


▽少子・高齢社会はよい社会
▽仕事の分配で乗り切れる

 「昔からあった家族が近ごろ変化してきたというのではありません。一部の階層だけに存在した専業主婦が、一般家庭にも広まったのは、ようやく戦後のことなんです。その時には妻が働かないのはステータスだった。ただ、実際にやってみると『そうおもしろくはない』と、多くの女性が感じたんだとと思います」
 信州大学医療技術短期大学部助教授の立岩真也さん(社会学)は、専業主婦が家事に専念する家族モデルは、成立した六〇年代の段階で、既に崩壊が始まり、現在も自然な解体過程の中にあるととらえている。
 「けれどまだそうすっきりはしていない。家族の外に向けられてよいエネルギーが妙なぐあいに子どもに注がれている。家族がきちんとしていないから問題がいろいろ起こると言われるけれど、それは違います。家事や子育てにこんなに手間ひまかけている時代はないです。そこから出てくる問題の方が大きいと思う」 二十一世紀に入ると、少子・高齢化が急速に進む。大変な時代が来るから、家族を見直し、たくさん子どもを産める社会にしなくてはならない―という意見がある。「本当にそうだろうか」と立岩さんは考える。
 「まずおかしいと思うのは、高齢化が未来永劫続くかのようなイメージがあることです。でも、これからしばらくの間の右肩上がりの高齢化は、団塊の世代の人たちが特別多いことによるところが大きく、その後二〇五〇年くらいには高齢者の割合は横這いになります。やがて下がっていくという予測もあります。つまり、この先数十年、智恵を絞って乗り切れればなんとかなるということです」 仮にこれから子どもを増やしたところで、働けるまでには二〇年かかる。またグローバルな視点から見れば、人間がたくさんいることの方が、さまざまな問題を生み出している。
 「人口増加の問題は途上国の問題だと言う人がいますが、環境に対する負荷は先進国の人間一人で他の国の人の何十人分にもなります。身近な暮らしに引きつけて考えても、都市での住宅、交通、環境などの問題は、人間の数と人間の活動量の増大に起因します。それらが安定化する少子・高齢化社会は、むしろよい社会だと思うのです」
 ならば、二十一世紀前半をどう乗り切っていったらいいのか。立岩さんは、いま労働力は十分あり、これからも社会を支えていくのは十分可能だという。
 「日本はそれほとでもないですがヨーローッパ等での十数パーセントの失業率は不景気による一時的なものではなく、社会全体で必要な生産量をそれだけの人が働かなくてもまかなえるようになったということです。これは基本的には歓迎すべきことです。高齢者を含め働ける人はたくさんいます。あとはうまく仕事を配分すればいいんです」 女性の力も発揮しにくい状況にある。例えばOLとして働いていた人が、育児や介護のために仕事を辞めてしまう。一度辞めると、再び復帰するのが難しい。
 「家族の中で本当に大変なのは育児や介護などの一時期です。あとはそうでもない。『大変さ』に非常にむらがあります。このむらをならし、女性が外での仕事も続けられるようにした方が明らかに社会全体としても合理的なんです。」 忙しい一時期の仕事をうまく社会で分配すれば、少子・高齢化は乗り切れるはずだ。「それには税金を使うことになりますから、お金がかかるようになって大変―と思うかもしれないけれどこれは見かけ上のことで、全体としてみればむしろ効率的です。危機だ危機だと騒がれると、年とったら生きてちゃいけないみたいに思えてくるでしょ。そんなことないです。少子・高齢化なんかあまり心配しないでください。」(了)



家族  ◇「つよくなくてもやっていける」  ◇人口・少子化・高齢化  ◇立岩 真也
TOP HOME (http://www.arsvi.com)