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福島智さんのこと

―知ってることは力になる・19―

立岩真也 2001 『こちら”ちくま”』24
(発行:自立支援センター・ちくま
http://www.azumino.cnet.ne.jp/human/chikuma


  こんど12月1日(日曜)に私の勤め先(信州大学医療技術短期大学部)で(会場は西門入って左の経済学部第2講義室、時間は午前10時〜正午)、またその前日11月30日(金曜)午後1時30分から松本市障害者自立支援センター「ぴあねっと21」の主催の講演会で、福島智(さとし)さんが講演をしてくれることになった。
  新聞的に言うと、福島さんは、1962年兵庫県生まれ、東京都立大学、同大学院の修士・博士課程を経て、1991年に都立大学助手、1996年に金沢大学助教授、2001年4月から東京大学先端科学技術研究センター助教授。病気のため九歳で失明、18歳で耳が聞こえなくなった盲ろう者である。通訳が指に点字を打つ「指点字」で相手の言葉を認識し、しゃべって答える。以前からとても忙しい人なのだが、今年の3月あたりさらに話題になり注目されたから、ますます忙しく、なのだが、来てくれる。
  金沢大学に就職した時にも話題になり新聞などで知ってはいた。また私が千葉大学で働いていたころ小島純郎先生という方がいらっしゃった。福島さんの著書にも出てくるその先生はドイツ文学より盲ろう者の活動の支援に力を注いでおられ、話をさせていただいた折、福島さんのことも話題になったように思う。そして1999年だったか、Eメイルのやりとりがあり、その後彼は私たちが始めた「障害学」のメイリング・リストにも参加した。講演の原稿をホームページに掲載させてもらったり、また本を送っていただいたりした。
  そんなことがあって昨年の12月、金沢大学の大学院の彼のゼミでの集中講義を頼まれ、4日間、朝から夕方までしゃべったのだが、福島さんは出張だった1日以外はずっといて、一番積極的な参加者だった。金沢はおいしいものがたくさんあるところで、たくさん食べさせてもらい、そして大量に飲ませてもらった。だから松本では蕎麦ぐらいはおごらないといけないのだが、それでもこちらが間違いなく得なのである。
  彼が基本的に考えているのは障害者差別をどうやったらなくせるかというような大きなことで、能力主義をどう捉えればよいのかといったことを考えている私の関心と重なっている部分がずいぶんある。で、数少ない機会に話したり、ときにEメイルのやりとりがあったりしてきたのだが、ここのところますます彼は忙しい。私はただの研究者・もの書きだが、彼は研究者をしながら社会運動家でもある。ずっと以前から日本盲ろう者協会の理事を務めているし、この10月18・19日には、ニュージーランドのオークランドで開催された世界盲ろう者連盟(World Federation of the Deafblind=WFDb)の設立・第1回総会に参加、執行委員に選出された。
  それはそのまま盲ろうの当事者で社会的に動ける人が少ないということでもある。福島さんは、盲ろう者として初めて大学に入り、大学院に行き、大学の教員になって、それはみな日本では初めてのことだった。なににせよ話題になるのは珍しいことがあった時で、しかもそれは、「障害者なのに」という言われ方で紹介される。つまり、差別的な社会であるがゆえに珍しく、話題にされ、しかもそのことはしばしば気づかれず、なにか「美談」として語られる。彼はそういうことのおかしさを考え、本に書きながら、でも、そんなわけで忙しい。自分ぐらいしか目立たないのが気にくわないのだが、しかし、いま盲ろう者が置かれている状態をなんとかしなくはならないと思うから、やらざるをえない。そんな人である。
  31日か1日、ぜひどちらかにおいでください。ホームページ(http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htm)に会場、時間等の情報を掲載。「これからあること」の欄、または「人」→「福島智」をどうぞ。「バリアフリー――「酸欠の心」に風送ろう」(『朝日新聞』2001年5月5日)の全文等も載っています。
  彼には単著の本が2冊ある。1冊は『盲ろう者とノーマライゼーション――癒しと共生の社会をもとめて』(明石書店,1997年,332p.,2800円)。少し堅い本ということになるかもしれないが、日本の盲ろう者が置かれている状況を知るには、また彼が問題にし考え目指そうとしているものを知るには必須。盲ろう者の現状と課題、盲ろう者のコミュニケーション、盲ろう者とノーマライゼーション、盲ろう児の言語教育と「言語の危機」、これからの障害者と教育・福祉・社会、といった章立てになっている。
  もう1冊は『渡辺荘の宇宙人――指点字で交信する日々』(素朴社,1999年,221p.,1500円)。エッセイ集といった体裁の本で、触れる/心のスクリーン/指点字あれこれ/外出/杖二本/スポーツ/日本にもヘレン・ケラーが沢山いる!/自立生活について/親父の味/願いごと/ダブル・ハンディとともに/香り/病院/読書/私の学生生活/夢/季節は香りから)、ストックホルム――1989/アメリカ体験記――1990/アドリア海の風/テレビ出演あれこれ/『徹子の部屋』と『おふくろシリーズ』/メロディー/結婚/仕事/夏の夜に宇宙を想う/私の好きな作家 小松左京/SFと現実。この本はまず、おもしろい。盲ろうという世界がどんな世界なのか――福島さんの場合と早くからの盲ろうの人とは同じでないにせよ――なんだがすこしわかったような気がする。2冊とも書店で注文できる本です。


UP:2001
福島智  ◇立岩 真也
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