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ほんとに地域で暮らすためにとりあえずできること

立岩 真也 2001/01/01
『手をつなぐ』2001-1(539):15-17(全日本手をつなぐ育成会)
http://www1.odn.ne.jp/ikuseikai/kongetu/kongetu01/kongetu2001.html


*2001年の『手をつなぐ』の目次等
全日本手をつなぐ育成会 http://www1.odn.ne.jp/ikuseikai

◆それは三〇年前に始まった

 身体障害がある人たちの「自立生活運動」と呼ばれたりもする動きを調べてきました。それは、地域で、施設でない場で、しかも親がかりでないかたちで、暮らそうとする運動です。今から三〇年ほど前に始まりました。その足取りを追い、現状を調べて書いたのが、安積純子他『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』(藤原書店、初版一九九〇年、増補改訂版一九九五年、二九〇〇円)です。手前味噌もいいところですが、よい本です。こむずかしいところもありますが、そんな部分は飛ばしてください。第3章「制度としての愛情――脱家族とは」には、知的障害の人の親への聞き取り調査の結果も入っています。
 今でこそ「施設から在宅へ」「施設から地域へ」とか普通に言われますが、三〇年前は「なに言ってんの、この人。」みたいな感じだったでしょう。とくに親の側からの必死の運動があってようやく施設ができてきたころです。なのにそれに文句を言うとはなんということだ、というわけです。
 けれどその文句はしごくまっとうなものでした。世界的にみても、今では誰でも使う「ノーマライゼーション」という言葉にしても、知的障害の人たちが暮らす大きな施設での生活がひどいじゃないかという北欧の親たちの主張から始まった運動から出てきた言葉です。

◆ようやく当たり前だということになった

 しかし、そういうノーマライゼーションの由来や、日本でもそんな主張がなされてきたことは、社会福祉の教科書などにきちんと出てきません。教える人も教えられる人も福祉施設に関わる人が多いからではないかと私はかんぐっています。けれど、家族といっしょに住むにせよ住まないにせよ、その世話からは離れて暮らせる、家族もまた同じように世話から離れることができる、その暮らしを施設でないかたちで実現すること、これはやはりもっともなことです。そして、多くの「普通」の人が病院や施設で(例えば「終末期」を)暮らすことが現実のことになって、ようやくその多くの人もこのことを考え出したのだ思います。
 もう一つ別の流れもあります。人を一箇所に集めて安くすませようというのが施設が選ばれた理由の一つでした。しかしもともと一人一人に人手がいるわけで、たくさん集めたからといって本来はそう効率的でもない。きちんとしたことをしようとすれば施設が安くなるとは必ずしも言えない。そんなこともあり政策も変わってきました。(当事者側の主張と政策側の変化との関係については昨年秋に出た拙著『弱くある自由へ』の第7章をごらんください。青土社、二八〇〇円、です。)
 とはいえ施設はいらないと言いたくても言えない、むしろ足りないのが現状で、だからその中での生活をよくしていくこと、権利を擁護する活動が当然に大切です。ただ、出たい人、出られる人が出て暮らせる環境を作ることは、待っている人を待たせなくてすむことにもなります。遠くの施設で暮らさなくてはならないことを少なくすることにもなります。定員を空けておく方がいざという時の必要や一時的な必要に応えることができます。だからやはり脱施設という戦略はあり、です。

◆どうしたら生活の多様性に対応できるか?

 大切なのは、場所を区切り時間を区切って、何人かを集めてというのに比べてかたちが定まらない必要に、どうやって応えるかです。
 今まで作業所がとても大きな役割を果たしてきたのはまちがいありません。作業所にはひとまずかたちがあり、人を一つの場所に集める場所も定まっていて、時間も決まっています。そして、働くことはこの社会の中ではよいことだということになっている。それでたいした額ではないけれど、少しは税金からお金も出るようにはなりました。
 ただそれが生活を限定してきたことも否定できません。生活のあり方はもっと多様であってよいし、作業所に通う人にとっても別の生活があります。住む場所としてだいぶ前から注目されているグループホームも同様です。それもありだとは思います。けれども少なくとも身体障害の人たちについて調べたところでは、その人たちはそれを次への移行のプロセスとして捉え、ずっとそこで暮らそうとは思っていませんでした。知的障害の人にとっても、これは重要な選択肢の一つですが、それだけが鍵になるわけではありません。
 ただ、知的障害の人を地域で支えるといっても、行政側にはイメージがないし、そのための手持ちの材料をなにももっていないというのが実際のところです。だれのどういう必要にどれだけお金を出すのか、どう算定したらよいのかわからない、かたちの定まらないものにはお金を出しにくい、お金を出す理由をつけられないと言われてしまいます。そこのところをどうやってクリアするか。

◆いまあるものを違ったように使う

 これで決まりという方法は、いま誰もわかっていないと思います。だからたいへんはたいへんなのですが、逆にこれから作っていけるということでもあります。ここが考えどころだと思います。
 今すでにある「社会資源」を使いきっていくと同時に、今までと違うように使っていくことがまず一つ。生活費用の出所としては、抵抗感が今でも強いと思いますが、生活保護。この社会は「できない人」が損するようにできていて、しかし損をすることにどんな正義もない、だから生活保護をとって生活するのはまったく正しい方法です。そして作業所にしても、すでににかなりの部分実際にそう使われているのですが、柔軟に使うことができます。施設のサービスにしても同様です。
 また介助・介護について、身体障害だと、いわゆる「介護」と、「情報提供」や「相談」がわりあいはっきり分かれるのですが、知的障害の人の場合の支援はかなり「よろづ屋」的な仕事です。しかしそれ自体は当然のことです。「介助」をご飯作ったりすることに限定しないで使うこと、少なくとも使おうとしてみること。そして、「相談」をなにかあらたまったものでなく、机を隔てて座り合うようなものだけでなく、個別の日常のこととしていくこと。次に述べる「自立生活センター」などが今「市町村障害者生活支援事業」という事業を委託されています。基本的には身体障害者対象なのですが、実際には知的障害の人の相談も受けています。例えばその相談を、もっと些細な、本人の日常生活の細々としたその時々の支援に使って、相談員を困らせること、等。
 こうして範囲を広げていって、それが必要で、そして「福祉のシステム」にそれなりに乗せることができることを示し、認めさせていくことです。

◆他の障害の人たちといっしょに作る

 難しいといえば難しい。けれどここのところを考えていくことからしか先は見えてきません。そしてそれは知的障害をもつ人にとっての問題であるだけではありません。
 介護保険で行なわれている「在宅介護」は、外に一人で出ることをほとんど想定していないなど、そのままでは役に立たないのは身体障害の人にとっても、精神障害の人にとっても同じです。今のところ高齢者(の障害者)限定の介護保険がこの状態のままで障害者全般に広げられてしまったら困るからどうするか、これが障害者運動の緊急の課題になっています。(介助のあり方についての身体障害の人たちの運動の捉え方、そして私の考えを『弱くある自由へ』の第7章に書きました。)
 「自立生活センター」という組織が、介助、情報など実際に地域での生活に必要なサービスを提供するという仕事をしています。(最初に紹介した『生の技法』の第9章「自立生活センターの挑戦」をごらんください。)身体障害の人たちが先行したのですが、基本的には障害の種別を越えた活動を掲げています。その全国組織「全国自立生活センター協議会」も、介護保険と違う介助のシステムをどう作っていくか、模索中です。そんなところともいっしょになって、生活の多様さに対応できる介助システムを提案していってよいし、いまちょうどそういう共闘が組める、そして組まなくてはならない状況になっていると思います。

◆本人たちがああだこうだ言いながら作る

 そしてそうした活動に本人たちが入っていって、本人たちが作っていくこと。いわゆる「政策立案」というところに本人が入っていくことの意義を、私は「東京都障害者ケア・サービス体制整備検討委員会」という委員会の委員をやった時に今さらのように強く感じたのですが、ただ役所の椅子に座ってではどうも落ち着かないということもあるでしょう。現場から提案し、変わっていく部分もあるでしょう。例えば外出等を支援する「ガイドヘルプサービス」にも、利用する側にとまどいがあります。私が直接に知っているところでは東京都立川市でのこのサービスの施行事業の開始に連動して、「自立生活センター・立川」で、当人たちが話をしていく中からそれをどういう場面で使っていくか、考え、そして使っていこうという動き、それを支援する試みが始まっています。
 そういう具体的な情報をここに記すことはできませんでした。http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htmというホームページに少し載っています。ごらんください。それから私のメイルのアドレスはTAE01303@nifty.ne.jpです。


UP:2001 REV:  ◇地域生活/地域移行/生活支援/相談支援  ◇自立生活センター  ◇介助(介護)  ◇知的障害  ◇安積純子他『生の技法――家と施設を出て暮らす障害者の社会学』  ◇『弱くある自由へ』  ◇立岩 真也
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