◆Trombley, Stephen The Right to Reproduce,1988, revised edition 2000, A. P. Watt=2000 藤田真利子訳,『優生思想の歴史――生殖への権利』,明石書店,398p.,4600円+税
◆二文字 理明・椎木 章 編 2001 『福祉国家の優生思想――スウェーデン発強制不妊手術報道』明石書店,206+8p.,2500円+税
前回・前々回と優生学(eugenics)についての本の紹介を始めたのだが、その優生学とは何か。11月刊の社会福祉士養成講座『社会学』(ミネルヴァ書房)で私が担当した「常識と脱・非常識の社会学」の用語解説には次のように書いた。
「人間の性質を規定するものとして遺伝的要因があることに着目し、その因果関係を利用したりそこに介入することによって、人間の性質・性能の劣化を防ごうとする、あるいは積極的にその質を改良しようとする学問的立場、社会的・政治的実践。eugenicsの語は1883年にイギリスのF・ゴルトン Francis Galton が初めて使った。…19世紀後半から20世紀にかけて、全世界で大きな動きとなり、強制的な不妊手術なども行われた。施設への隔離収容をこの流れの中に捉えることもできる。現在では遺伝子技術の進展との関連でも問題とされる。」
拙著『私的所有論』(勁草書房)第7章の注(pp.254-267)に当時、日本語で読めた文献のあらかたは挙げたが、その後かなりの点数の書籍が刊行されるようになった。ただ基礎的な1冊は既にその時出ていた。
1991年ころだっただろうか、BS(Bio-Sociology)研究会というごく小さな研究会を市野川容孝・太田省一・加藤秀一らとやっていた。その時読んだのは、歴史学系の学術誌掲載の英文の論文など。ただ単行書も何冊かあった。それで買った1冊が米国の研究者 Daniel J. Kevles(ケブルズ)のIn the Name of Eugenics: Genetics and the Uses of Human Heredity(Knopf,1985)で、1993年に『優生学の名のもとに――「人類改良」の悪夢の百年』(西俣総兵訳,朝日新聞社,529p.,2800円)という訳書が出た。とくに分析が鋭いというのではないが、優生学の歴史の概要を押えた本として有益な本であり、多くの論文等でも言及される有名な本であり、日本語で読める優生学の歴史についてまとまった記述のある最初の本だった。ところが今回調べてみたら、まったくあろうことか、この本はもう買えないのである。まともな図書館なら入れているから、そこを利用していただくしかない。
ではその代わりになる本があるだろうか。日本の研究者たちによる本が1冊あるのだが、これについては次回に紹介しよう。今回は「不妊化」に焦点を当てた本を2冊紹介する。