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死の決定について・1

医療と社会ブックガイド・4)

立岩 真也 2001/04/25 『看護教育』42-4(2001-4):302-303
http://www.igaku-shoin.co.jp
http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/kyouiku/

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 この回(他)は註を追加したうえで以下の本に収録されました。お求めください。
◆立岩 真也・有馬斉 2012/10/31 『生死の語り行い・1――尊厳死法案・抵抗・生命倫理学』,生活書院,241p. ISBN-10: 4865000003 ISBN-13: 978-4865000009 [amazon][kinokuniya] ※ et. et-2012.
『生死の語り行い・1』表紙
[表紙写真を載せた本]

◆五十子(いらこ)敬子『死をめぐる自己決定について――比較法的視座からの考察』,批評社,319頁,3500円,1997年発行
◆Hendin, Herbert 1997 Seduced by Death: Doctors, Patients, and Assisted Suicide Georges Borchardt, Inc.。大沼安史・小笠原信之訳,『操られる死――<安楽死>がもたらすもの』,時事通信社,323頁,2800円,2000年発行

[ほかにとりあげた本・文献]

◆『死を処方する』(Jack Kivorkian, Prescription Medicine: The Goodness of Planned Death, 1991, Prometeus Books。松田和也訳『死を処方する』,1999年,青土社,362p., 2200円)。http://www.seidosha.co.jp/

 結局順序よく書いていくのはあきらめ、今回から死の決定について。
 この主題についての本もたくさんある。数えてみたら、安楽死が主題的に扱われる日本語の単行書だけで50冊余。主に法律・裁判関連の資料集として中山研一・石原明編『資料に見る尊厳死問題』(日本評論社、1993年、268p.、5459円)、町野朔他編『安楽死・尊厳死・末期医療――資料・生命倫理と法II』(信山社、1997年、333p.、3000円)。他に、五十子敬子『死をめぐる自己決定について』も1996年までの事実の経緯を押さえておくためには役に立つ。
 ただこの主題にとっては個々の具体的なところが大切なのだが、そんなところはわからない。細かに記述し出したらかさばって仕方がないからこれは当然のことである。さらにそうした情報は今後も次々と加えられることになるだろう。こうした部分はホームページで提供されていくのが望ましいと思う。私のホームページにも、もとより十分ではないが、他の項目に比して多めの情報がある。まずはご覧ください。論文としてはやはり法学の領域のものが多いのだが、個々のケースをある程度詳しく追える。(五十子の本には文献表がある。町野他編の本にはない。私のホームページ掲載の文献リストには約 200点があり、中山・石原編の本に掲載されている文献の書誌事項は網羅している。)
 ただ同時に、具体的な事例や各国の多様な制度、判例を見ていくと、事実の海に溺れそうになる。死期を早める措置を患者本人の希望で行ういわゆる積極的安楽死、医師による自殺幇助に限ったとしよう。それにしてもこれはどんな問題なのか。
 自己決定権の範囲内にあるという肯定論がある。生き死には当人にまかせればよい。これはこれですっきりした考えのように思える。それをどうこう言うのは、パターナリズム、余計なおせっかいというものではないか。しかし、自己決定を大切なものだと思いながら、そんなふうに簡単に割り切れるだろうか。一つにはそんな問題なのだと思う。私自身の考えは鷲田・大庭編『所有のエチカ』(ナカニシヤ出版、2000年、2200円)中の「死の決定について」と『弱くある自由へ』(青土社、2000年、2800円)の第2章「都合のよい死・屈辱による死」、第3章「「そんなので決めないでくれ」と言う」に書いたので読んでいただければと思う。
 以下では、またも、まずは、おもに米国に限り、具体的なところがある程度つかめ、同時に何が論争の論点なのかが見えてくる本を紹介する。
◇◇◇
 米国では、州法により合法化され、実行されているのはオレゴン州だけだが、各地で法案が提出され、賛成と反対が拮抗する情勢になっている。
 安楽死を認めさせる運動を積極的に展開してきたのが1980年に米国で設立された「ヘムロック協会」。その創立者の一人デレック・ハンフリーが書いた本の翻訳が、品切れで今はもう買えないが、かつて出ていた。(Derek Humphry, Final Exit(ファイナル・エクジット), 1991年。田口俊樹訳『FINAL EXIT――安楽死の方法』、1992年、徳間書店、262p.、1500円)
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 そして『死を処方する』(Jack Kivorkian, Prescription Medicine: The Goodness of Planned Death, 1991, Prometeus Books。松田和也訳『死を処方する』、1999年、青土社、362p., 2200円)。著者のキヴォーキアンという人は、「マーシトロン」なる自殺装置を1990年に自ら開発し、これまで120人あまりの死を介助してきた人だ。法廷やメディアで自説を強力に主張し、有名になった。「ドクター・デス」と呼ばれると本の帯にある。
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 次に反対論。これまでもバチカンの反対声明などは報道されてきた。ただ、反対しているのはカトリックなどの宗教勢力だけでなく、その主張は「生命の尊厳」の立場からだけでないことは知っておいた方がよい。
 安楽死に反対の立場で書かれた本の翻訳が昨年出た。『操られる死』。著者のヘンディンは自殺の研究を続けてきた精神医学者で「アメリカ自殺予防財団」の医療責任者だという。
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 また別に反対派の重要な一翼をになっているのは、障害者のグループ、団体である。書籍等でそれをきちんと紹介しているものを私は知らないが、ホームページでは以下がある。
  International Anti-Euthanasia Task Force(http://www.iaetf.org/)そして、Not Dead Yet(http://acils.com/NotDeadYet/
  前者は「反安楽死国際対策本部」、後者は「まだ死んでないぞ」という米国の草の根のグループ。これらも当方のホームページからリンクされているし、その内容の一部の日本語訳を置いてある。かなり詳しい情報がある。ヘムロック協会やキヴォーキアンに対する具体的な批判もある。そして、自己決定を強力に主張してきた集団が、安楽死には反対する。その意味を考えることが、安楽死を考える上でもっとも基本的なことだと私は考えている。(続)

「死の決定について・2」
「死の決定について・3」
「死の決定について・4――松田道雄のこと」
「死の決定について・5:クーゼ」


UP:2001 REV:20140615
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