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米国における「生命倫理」の登場

医療と社会ブックガイド・1)

立岩 真也 2001/01/25 『看護教育』42-1(2001-1):102-103
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last update: 20150910

※全文は以下の本に収録されました。
◇立岩 真也 201510 『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』,青土社 ISBN-10: 4791768884 ISBN-13: 978-4791768882 [amazon][kinokuniya] ※ m.

『精神病院体制の終わり――認知症の時代に』表紙

 初回なのですこし自己紹介を。社会学を専攻しています。単著として『私的所有論』(勁草書房、1997年)、『弱くある自由へ』(青土社、2000年10月)、共著では『生の技法』(藤原書店、増補改訂版1995年)があります。すこしも生命倫理とか医療倫理の専門家ではないけれど、そして専門家ではなから、狭い意味での「生命倫理学」「バイオエシックス」よりすこし広げて、これからいくつか本を紹介していこうと思います。

 この稿は、大幅に書き加えられ、書き改められて、やがて(だいぶ先に)平凡社のブックガイドシリーズの1冊のその一部になるだろう。そうしても詳しくは説明できない部分が多々あるから、ホームページ(http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htm→http://www.arsvi.com)に「ブックガイド」という項目を置き、そこに毎回書ききれなかった部分やあげられなかった文献、また関連ホームページへのリンクなどを置く。他に「50音順索引」等にも関連項目がいろいろあるからご覧いただければと思う。
 さて、いつのまにやら「生命倫理」というものが語られている(ことになっている)のだが、これはいったいいつ始まったのだろう。日本でのことは後の回に記すし、その理解がときに間違っていることも述べる。今回はまず「常識」にしたがって「本家」の米国の動向について少し。
 今まで教科書の類いはいくつか翻訳されてきた。だが、どのようにして「生命倫理」、医療者内部での規範とは別の「医療倫理」が成立してきたのか、その動きはよくわからなかった。
 一つよくあるのは、第二次世界大戦時のナチス・ドイツにおける人体実験がニュルンベルク裁判で裁かれ、「ニュルンベルク綱領」が出されそして云々という、野蛮な過去を反省しだんだんよい時代に変わってきましたという筋の話である。
 もう一つは、「訴訟社会」アメリカでは紛争に対応するルールが必要となり、患者からの文句を言われないためにインフォームド・コンセントが定着した、といったもっとうがった見方だ。
 いずれも大間違い、ではないだろう。しかしそう単純ではない――歴史を知ることの一つの大きな意味は、単純な「物語」を簡単に信じてならないことを知ることにある。その具体的な経緯を示す本がある。ディヴィド・ロスマンの『医療倫理の夜明け――臓器移植・延命治療・死ぬ権利をめぐって』(酒井忠昭監訳,晶文社,2000年,371+46p.,3600円,原著は1991年)。そして香川知晶『生命倫理の成立――人体実験・臓器移植・治療停止』(勁草書房,2000年,242+20頁,2800円)。
 ロスマンの翻訳書の副題は、この方が売れると思ったのだろうか。またたしかにそうした主題も後半で扱われている。だがそれよりこの本がおもしろいのは、全体の約3分の1を占める「人体実験」に関わる記述である。この本を文献として用い構成も似た香川の本の副題の方がロスマンの本の中身によく当てはまる。
 第二次大戦時後、被験者の承認を得ない人体実験がかえって増え、無規制状況におかれていた。1966年、ハーバード大学の教授だったヘンリー・ビーチャーが『ニューイングランド医学誌』に、被験者の情報を与えず同意を得ずそして加害的な人体実験が数々あることを指摘する論文を発表する(『JAMA』の方は掲載を拒否された)。この論文が後の動きに大きな意味をもった。とはいえ[…]

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■表紙写真を載せた本

◆Rothman, David J. 1991 Strangers at the Bedside: A History of How Law and Bioehtics Transformed, Basic Books=20000310 酒井忠昭監訳,『医療倫理の夜明け――臓器移植・延命治療・死ぬ権利をめぐって』,晶文社,371+46p. ISBN:4-7949-6432-3 [amazon][bk1] ※ be.
◆香川 知晶 20000905 『生命倫理の成立――人体実験・臓器移植・治療停止』,勁草書房,15+242+20p. ISBN:4-326-15348-2 2800 [amazon][kinokuniya][bk1] ※

■言及・参考文献

土屋 貴志 「インターネット講座・人体実験の倫理学・第5回・米国における人体実験と政策」http://www.lit.osaka-cu.ac.jp/~tsuchiya/vuniv99/exp-lec5.html
◆立岩 真也 2008/10/25 「香川知晶『死ぬ権利』・1」(医療と社会ブックガイド・87),『看護教育』48-(2008-10):-(医学書院),
◆立岩 真也 2008/11/25 「香川知晶『死ぬ権利』・2」(医療と社会ブックガイド・88),『看護教育』48-(2008-11):-(医学書院),
◆立岩 真也 2008/12/25 「香川知晶『死ぬ権利』・3」(医療と社会ブックガイド・89),『看護教育』48-(2008-12):-(医学書院),


UP:2001 REV:20040819, 20080829, 20140612, 20150910
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