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「NPO」のこと・1

―知ってることは力になる・11―

立岩 真也 1999 『こちら”ちくま”』16
(発行:自立支援センター・ちくま


  あまりすぐには使えないはなしが続きます。すみません。「NPO」(nonprofit organization)のことについて何回か書こうと思います。プロフィットって「利益」「もうけ」という意味ですから、そのまま訳せば「もうけない組織」。「非営利組織」という日本語が普通使われます。他に、もう少し前から日本でも使われてきた言葉で「NGO」というのがあります。こちらの「G」は「政府(gouvernment)」 ですから、「非政府組織」。まあ、NPOの中に政府を含めることはないし、NGOといっても非営利の組織ですから、そういう意味では、NPOもNGOも、非政府&非営利組織ということで同じなんですが、NGOは、NPOのなかの、普通は国境を越えた活動をする団体、海外援助などをするNPOのことを言う時に使われます。高橋卓志さんが本誌12号で紹介している「アクセス・21」なんかがNGOということになります。
  次に、今述べただけの広い意味でとった場合、古今東西、どんな時代にも、どんなところにも、NPOはたくさんありましたし今もあります。ゲートボールやバイクの同好会とか、学校のサークル、など。ただこの言葉が日本で使われ始めるようになった時には、もう少し限定された意味だったでしょう。例えば「ちくま」のような団体。そして今度始まった「ぴあねっと21」(松本市障害者自立支援センター、本誌第15号に紹介)も。そして第14号で市川博美さんが紹介した「長野県NPOセンター」はNPOのためのNPOという性格をもったNPOです。ではその場合のNPOとは何か。それはおいおい書くことにして、まずはこの言葉をめぐる歴史――というほど長いものではないのですが――を少し振り返ってみようと思います。
  この言葉が日本に登場したのは、NGOという言葉が一般化したよりかなり後になってのことです。1995年に阪神・淡路大震災がありました。この時に様々な民間の活動が注目されました。それはボランティアや、ボランティア団体ととりあえず呼ばれたのだけれども、その中には例えば「アジア医師連絡協議会(AMDA)」といったNGOでありNPOである組織もあって、それはボランティア団体=みなが無償で活動に参加する団体というのと少し違う。利益を得ることを目的にするのではないけれども、スタッフ(の一部)は常勤で月給を得ていたり、非常勤で務めていたりする。そしてそういう組織の方が、活動を組織的に迅速に有効に行えるということが明らかになりました。ボランティアの志はあっても、その気持ちがその場で有効な活動に結びつくとは限りません。それまでの国際援助を通して災害時などの緊急の対応の経験があり、機器や輸送手段、それから指示や連絡のシステム、それらの対応の体制ができていたところが、当然と言えば当然ですが、力を発揮したのです。そしてそれは、行政組織の様々な対応の遅さ、まずさとの対比でも言えたことでした。そんなわけで、企業でもない、行政組織でもない、そして今まで私たちがイメージしていたボランティア団体というのとも少し違う感じの組織があること、そしてこれからそういうものが大切なんだということを多くの人が実感した。そんなことが一つにありました。
  ただ、当時の動きを調べてみると、実はNPOという言葉は、震災後に降って湧いた言葉ではないのです。1990年代に入って、この言葉は新聞紙上などでもぼつぼつ出てき始めています。また震災の1年くらい前にもいくつかの政党で検討が始まっています。その中身を見てみると、米国におけるNPOの活動のあり方、そしてそのNPOが米国の法律のもとで法人として位置づけられていることが注目されているのがわかります。例えば米国のNPOで活動している人を日本に呼んで、その活動ぶりを紹介してもらうというような催しいくつか行われて、それが新聞等でも紹介されるといった具合いです。そろそろこの辺が大切だなと思う人は思っていた、思い始めていたところに、あの震災があり、その動きを加速したというわけです。
  では具体的にはどんなところが注目されたのでしょう。NPOという言葉でどんな新しさを言おうとしていたのでしょう。
  第一は、言うまでもなく、そのような非営利・民間の活動が米国などで盛んであること。そしてその活発さは何かを具体的に提供する活動の活発さであること。「住民運動」と言うと反対する運動で、「住民団体」と言うとその団体であることが多い。「市民団体」にもそういう感じがあります。もちろん反対すべき時に反対することは非常に大切で、そういう組織は国際的にもたくさんあります。例えば環境問題で一番強力かどうかわかりませんが、少なくとも一番派手な反対運動をする「グリーンピース」とか。ただ、反対運動も絶対大切だけれども、それも含めて人に何かを伝える提供する活動が民間のレベルで行われているということ。
  第二は、それがかなり組織だった組織の活動として行われていること。もちろん、少人数の人たちの完全な手弁当で、随時集まって、時間のある時にやれることやりたいことをするという活動も、世界中にたくさんあります。ただ、活動を広く有効に行うとする場合には、それでは不十分な場合もあります。とすると、お金のこと、人の動かし方のこと、等、組織の運営、経営が大切になる。そこのところを米国のNPOなどはなかなか上手にやっている。これは参考にできるのではないかと考えた。
  第三は、第一点にも第二点にも関係するのですが、それらの組織を、社会的に位置づけるシステム、活動によってはそれに特典を与える法制度が存在していること。もちろん日本にも学校法人、宗教法人、医療法人、社団法人、財団法人といった法によって規定された非営利法人はありました。しかしそういうのは違うかちで法的にNPOが位置づけられている。これはなかなかよいのではないか、と思った。
  以上のような事情があったと思います。それをもう少し具体的に解説しながら、日本の社会の中でのNPOの意味をどう考えることができるのか、書いていこうと思います。その中では、今回書いたこと以後いろいろと紆余曲折あった末、1998年3月に成立した「特定非営利活動促進法」、いわゆるNPO法とはどういうものであるのか等にも触れようと思います。では、次回に。



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