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介護保険は使えるか

―知ってることは力になる・7―

立岩 真也 1999 『こちら”ちくま”』12
発行:自立支援センター・ちくま
http://www.azumino.cnet.ne.jp/human/chikuma


 来年の4月から公的介護保険が実施されるでしょう。65歳以上の介助(介護)を要する(と認められた)人と、加齢による障害(具体的にどういう障害を含めるか、実は細かいところはまだ決まっていません)を得た人が、この制度でサービスを受けられることになります。これから書くことをさし置いてもいろいろ問題はあります。ただ、今までのものに比べればわるくはない、多くの地域でサービスの水準が上がることにはなると思います。
 では、さしあたりこの保険の対象にならない65歳未満の人のことも含めて考えてみて、この制度が障害をもつ人が暮らしていくのに十分に使えるものかというと、どうもそうではないのです。まず月30万円と聞けばそれなりのものだと思うのですが、想定されている単価のままだと、ホームヘルプサービスを受けられるのはせいぜい1日2時間くらいのものです。そして、身体の物理的な状態、また知的な状態だけが判定の際の基準になり、全身性の障害であっても、ある程度のことができてしまったり、また頭が働いてしまったりする人は、判定で上限のサービスを受けられることにはまずならない、金額にして半額かそれ以下の水準になってしまうでしょう。そもそも、対・個人について用意されるのは短時間滞在、巡回型のサービスであり、残りの時間は家族が受け持つ、あるいは一箇所に集まって(集めて)デイサービスでなんとかという組み合わせが想定されており、でなければ(要介護度が高いと判定されなければなりませんが)施設で、となります。要するに、在宅時・外出時の双方にまたがった滞在型、付き添い型の介助になっていない、地域での単独での社会活動を支援するものにはなっていないということです。
 国の側には、介護保険に高齢でない障害者も組み入れようという動きがあります。年齢によって区分するのはおかしな話ですから、原則的には一本の制度でよいのですが、今回の制度がこんなものですから、受け入れられない。そこで、(まだ65歳になっていない)障害者の多くは、介護保険への組み入れに反対し、これまでのサービス水準を落とさないという国会での付帯決議も盾にとり、さしあたり別の制度でのサービス、サービス水準の維持・向上を求めています。これはもっともなことだと思います。
 しかし、滞在・付き添い型で、社会活動に対する介助も認めるとなれば、サービスの量が増え、支払う保険料も多くなってしまうではないかと思われるでしょう。それはある程度その通りです。例えば1人の人に24時間常時1人が付いて介助するとして、今想定されている単価で単純に計算すれば、年間3000万円を超えます。私は、それでもかまわない、そうなっても実はそんなに困らないと思っています(その「証明」は略しますが)。ただ、費用があまりかからないのも、わるくはないでしょう。繰り返しますが、現在想定されているのは、巡回、短時間滞在型で、この場合には時間あたりの単価をある程度の水準にしないと事業としては成立しませんし、人を手配し配置する組織の維持にもお金がかかります。それを含んでの価格が設定されているのです。しかし、どんな場合でもそうする必要はありません。例えば、利用者個人が契約を結び、その人自身が介助者の仕事を管理できるなら中間経費を押さえることができるでしょう。まとまった時間仕事ができるなら1時間あたりの支払いがそこそこでも生活を維持でき、それでかまわわないという介助者もいるでしょう。実際、「ダイレクト・ペイメント」といって、政府が利用者個人に現金を支給し、それを利用者が使って比較的長時間の介助を(比較的低いコストで)得るというシステムがイギリス、カナダ等々で採用されてきています(現地調査に基づく報告書が2種類私の手元にあります)。こんなのも一案かもしれません。
 他にも、「判定」の問題をどう考えるか、いろいろ考えるべきことがあります。そして、考えてやってみてうまくいったら、今度はそれを介護保険でも使えるようにすればよいと思うのです。まずは介護保険と別建てのシステムとし、それを改善していき、介護保険の改善にも活かす。それがこれからすべきことではないかと思います。昨年度、「東京都障害者ケアサービス体制整備検討委員会」というものがあって、東京都民でもない私も委員にさせられ都庁に15回ほど行きました。(身体障害者部会の15人の委員のうち障害をもつ当事者が6人、知的障害者部会は14人中当事者4人。身体障害者部会のワーキンググループは8人中当事者4人。)そこでは以上のテーマも議論され、その議論を受けて「東京都障害者ケアサービス体制整備指針」が出されました。主張を押し切れなかったところもあり、また議論を詰め切れなかったところもあり、不満が残るものではありましたが、この指針に基づき今年度は「試行事業」が行われ、その結果を受け、うまくことが運べば「別建てのシステム」が作られていくかもしれません。その辺の報告も機会があれば、今後行っていきたいと思います。
 (より詳しいところを知りたい方は,ホームページ(http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htm)の「50音順索引」→「介助(介護)」と進んでください。そこから法律の全文や障害者団体の要望書等を読むこともできます。上記「指針」も近々掲載したいと思います。私の勤務先の看護学科の学生達が昨年調査して書いた松本・塩尻・三郷での介護保険の準備状況についての報告もあります。)


UP:20040913
介助・介護  ◇自立支援センター・ちくま  ◇立岩 真也
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