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一九九八年読書アンケート

立岩 真也 199901
『みすず』41-1(454)(1999-1):34
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  今年出た本は十冊くらいしか読んでないように思う。そしてとくにここにあげるのは以前から書かれたものを読んできた人の本が多い。だから、きっと知らない人のおもしろい本が他にたくさんあったはずだが。
  ◆加藤秀一『性現象論』、勁草書房。男であったり女であること、<性>についてしばらく考えてみれば、頭はぐちゃぐちゃになり、言葉を失ってしまう。この主題について、そんなところに向かって/そんなところから考えられていない本は、なくてもよい。この本はあった方がよい本。
  ◆最首悟『星子が居る』、世織書房。星子さんは悟さんの娘さんで、ダウン症で、二二歳。彼女が五歳の時から著者が書いて発表してきた文章が収められているのだが、私たちは、思考できないようなことについて思考がなされ、それが切迫した言葉であるよりは静かな言葉となっていくその行程を、まずただ読む。
  ◆伊田広行『21世紀労働論』、青木書店。『家父長制と資本制』(上野千鶴子、九〇年、岩波書店)よりずっとよい『性差別と資本制』(啓文社、九五年)の著者が今年出した三冊の一冊。主張の全てに同意するのではない。だが、家族と市場、ジェンダーと労働…をまっとうに論ずる本はとにかく少ない。
  ◆M・アダムス編『比較優生学史』、佐藤雅彦訳・現代書館。これを出した出版社はえらい。本書の位置については松原洋子の『サイアス』一〇月二日号掲載の書評でよく把める。
  ◆風間孝+キース・ヴィンセント+河口和也編『実践するセクシュアリティ――同性愛/異性愛の政治学』、動くゲイとレズビアンの会(アカー)。一部書店の店頭にあり。書店から注文可。直接注文はFAX〇三−三二二九−七八八〇・アカー。何かがまとまっていて、そのまとまりを受け取ればよいという本ではない。同性愛への敵意を明るみにしていってそれでどうなると思いながら、でもどうしてもそれをしなければならないと思い、「アイデンティティ」をただ言っても、ただ逃れてもだめだと思い、自分達は代表しないけれど、しかし個人的なものにしてすむのでもないと思い、喋り、書く、特に三人の編集委員+松村竜也の発言+文章に注目。



優生学  ◇書評・本の紹介 by 立岩
立岩 真也
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