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おきらくなおとなになろう

立岩 真也 1998.08.15
『あなたは20(はたち)』(両津市教育委員会)


  立場というものもあるから、偉い人は、今は大変な時代なんだと言う。景気が悪くて、大変な時代だからがんばらなくちゃならないと言う。(実は、景気が悪い今だけではなくて、どんな時でも、21世紀の日本は君たちにかかっている、とかなんとか――まあ、それはまちがいではないのだが――言うはずだ。)
  さて、しかし、景気が悪い、ものが売れないと言うのだが、必要なものがなくて困っている人をほとんど見かけない。クルマにしてもなんにしても、足りてしまっていて、買い替える必要なんか実はないのだ。つまり、私たちの社会は、必要なものを作るというところをとっくの昔に超えてしまっていて、あとは余計なことをやっている。余計なことを遊びと言うなら、今の時代は遊びを大まじめにやってしまっているのである。もちろんまじめに遊ぶのはよいことなのだが、問題は、遊んでいると思ってないこと、ひどく深刻になってしまっていることだ。たとえば、ほんとは売れなくてもいいクルマが実際に売れないと、世界が終わりみたいに思うとしたら、その人はもうこの病気にかかっている。
  「今時の若いもんは…」と言われる。けれどそういう小言は人類が始まって以来ずっと言われてきたに違いなく、もしその通りに若い連中ほどひどかったら、もう人類は最低、になっているはずだが、そうでもないようだ。だから、言わせておけばよい。むしろ、やたら元気でがんばって、でもリストラに会うとすっかり落ち込んでしまうこれまでのおとなたちより、あまりがんばらないあなたたちの方が正しい。がんばる必要なんかないのだから。必要とされないものを売り歩くのに疲れたらやめてしまおう。あなたがやめると他の人が入ってくる。それで世の中は間に合っている。失業保険をとって次を考えればよい。人手不足な業界はじつはたくさんある。大した金にはならないがおもしろい仕事、人の役にたつ仕事もたくさんある。勉強なんか少しもしたくなかったはずなのに、そんな時にしたくなったりしたら、勉強してみてもよいかもしれない。(私は「社会学」というものを教えているのだが、例えばこの学問は、世間にまだ出ていない、しかし勉強もしたくない二十歳前後の学生より、そうでない年くった学生の方がやる方がおもしろい。)
  それにしても、気を付けないといけない。あなた方もそのうち、あるいはもうすぐ、まじめになってしまうかもしれない。(ところで、高校生あたりが中学生あたりのことを、「今の若い子は…」とか言っているのは笑える。)おとなの世界をなめてはいけない。おとなたちは、実はその気にさせるのが、(まじめになる必要がない時まで)まじめにさせるのが、うまいのだ。そんなこんなで、子どもなんかができると、自分が勉強嫌いだったのも忘れて、勉強させようとしたりしてしまう。20歳になったからといって、ついこないだまでのことをすっかり忘れてしまわないこと。
  なんだかけだるい文章になってしまった。でも、これは、これからを生きていく正しい方針のはずなので(証明は略、理屈に興味のある人は URL http://www.arsvi.comへ、つながらなかったらTAE01303@nifty.ne.jpへ)、成人式のお祝いに、どうぞ。
                 (40字×35行=400字詰で3.5枚)


UP:1998
立岩 真也 
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