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「市町村障害者生活支援事業」のこと

―知ってることは力になる・4―

立岩 真也 199808 『こちら”ちくま”』9
(発行:自立支援センター・ちくま


  前回,「移ることを支えること」について書きました。これまでと違うように暮らそうとする。それを一人きりでやりとげるより,助けがあった方がよい。これは福祉施設や病院から移る時だけに限りません。今まで学校に通っていたけれど,卒業してこれからどうやっていくかとか,今までと同じところで暮らすのだけれども少し外に出るのを増やしたいとか。こんな時,誰でもそうですが,特に障害があると,あった方がよいのになかなかないのが(もちろん,介助等の直接的な福祉サービスも,ですが)情報提供など,その人とその人が必要なものとをつなげるサービス,そして勇気,自信…です。
 どんなものが使えるのかわからない。いろいろと制度はあることはある。けれど,何をどのように使えるのかわからないから,使えない,使わない。他のものなら,コマーシャルがあったり,セールスマンがやってきて,買いたくないものまで買わされるのとずいぶん違います。福祉という業界では,やればやるほど評価される,とはならない。むしろ役所では予算のことをとやかく言われていて,かえって実績を増やさない方がよいなどということもあります。そして,窓口に係の人は座っているでしょうけれど,そこでできること以上のことはしない。しないというよりできない。情報を提供しようにもあまりよく知らないということもあり,時間もなかったり,公務員としての立場もあったりで,たとえばいっしょにアパートを探してくれるみたいなこともできなかった。そんなところを補うことが必要です。
  それから,自信というか勇気というか。私達が暮らしているこの社会は,障害をもってのうのうと生きていくのが難しいようにできていて,それが外に出ること,新しい生活を始めようとすることを難しくしています。だから,最初は空元気でも,元気をつけた方がいい。そのためには,まず,いろいろと苦労しながらもやってきている実物の人がいて,いろいろと話したり話を聞いたりして,あの人が大丈夫なら私は大丈夫と思えるとよい。それから,そういう人から,いろいろと生活の技を教わるとよい。今までは何も言わなくても誰か(親とか)がやってくれてたのが,今度は他人にいろいろと頼んだり指図しなくてはならないとなると,そのやり方を知って,慣れないとなりません。
  だから,これらのことをするには,民間で,そして自分自身も障害をもちながらなんだかんだやってきた人達がやった方がうまくいく。今までも様々な場で様々な人達がそういう援助をずっとやってきたのですが,それが組織的な活動のかたちをとるようになったのが「自立生活センター」です。上記したような仕事,「ピア・カウンセリング」とか「自立生活プログラム」,住宅探し,介助サービス,等々等々をやっています。全国組織に加盟している自立生活センターが今年の7月,全国で78箇所あり,「ちくま」もその一つです。厚生省の調査でも,そんな組織の活動があってはじめて施設や親元での生活から次の生活への移行が可能になっているのが明らかだったこと,このことは前回書きました。
  そして,もちろんそういう仕事は税金を使ってやってよい仕事です。そこで,1996年の秋から始められたのが「市町村障害者生活支援事業」です。つまりこの事業は,その始まりからして,自立生活センターの活動を公的に支援するという性格が強いのです。厚生省が事業の実施要綱を出していて,実施主体は市町村。民間組織(社会福祉法人である必要はなし)に委託できます。年間1500万円の予算がつきます(そのお金は国から半分,県と市から各々4分の1)。実施している市町村がゆっくりと増えています。長野県では昨年の上田市が最初で,長野市そして松本市が続くことになるでしょう。
  ただ,(私はこの事業を委託されて行なっている,あるいは行おうとしている各地の団体の全国連絡協議会の常任委員をおおせつかっていて,それで実情を少し知っているのですが)どこでもうまくいっているわけではありません。本来の目的と違ったところに事業を委託してしまう場合にうまくいかなくなります。一つは,旧来の組織に委託された場合です。療護施設には施設の外で生きていくことを支援するためのノウハウその他がありません。また,たいがいはあまり便利でないところにある施設に出向く人もいません。また,社会福祉協議会などの場合は,仕事はほぼ従来通りで,年間数億の予算に1500万の予算が上乗せされるにすぎないということにもなってしまいがちです。
  もう一つは,各種団体の寄り合い所帯的な団体を(行政主導で)作ってしまい,そこに委託するかたちをとる場合です。この場合にはよほどうまくやらないと,継続的で効果的な支援ができません。一人の人を生活を継続的に実質的に支援するには,実際に支援する人が機動的に持続的に動ける体制が必要です。一人の人の地域での暮らしが始まり,そしてなんとか落ち着くまでには,短くても半年や1年はかかります。その間,継続的に様々なことに関わるためには,専門に仕事をする人が必要です――いわゆる専門家の人達には,嘱託などのかたちで必要な場合に協力してもらえばよいでしょう。事務所で常に待機し応対し,外にも出られる,それが可能な布陣が必要で,それをバックアップできる組織力が必要です。そうした力のある組織がやっているところは,ほんとにいい仕事をしている。が,そうでないところはそうでもないのです。松本市がどのようにこの事業に臨むのか,税金を有効に使うことができるのか,注目されます。

  ※おまけ 『現代思想』(青土社)7月号の特集が「自己決定権」です。私も原稿を1本書いています(「空虚な〜堅い〜緩い・自己決定」)。関心のある方がいらっしゃたら,どうぞ。一般書店で注文できます。税込1300円です。


UP:1998 REV: 
地域生活/地域移行/生活支援/相談支援  ◇市町村障害者生活支援事業  ◇自立支援センター・ちくま  ◇『季刊福祉労働』  ◇立岩 真也 
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