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移ることを支えること

―知ってることは力になる・3―

立岩 真也 198805 『こちら”ちくま”』8
発行:自立支援センター・ちくま


 主に30歳台の脳性まひの人で療護施設に暮らす人,グループホームで暮らす人,そしてアパートを借りるなどして一人で暮している人(結婚した人は今回は除外),各10人計30人にいろいろ聞きました,という実にシンプルな調査を,1994年度から96年度にかけて厚生省の心身障害研究の一環として行いました。その報告書が今度出ました※。
 制度ができ施設が開設された当初に入居し,もう約20年療護施設に暮らしてきた人がいます(もっと歴史の古い精神病院だと,同じ病院に50年という人達も)。他方,5000人余の人が療護施設への入居を待っています。もちろん,空きを待っている人がいようがいまいが,施設に居たい人は居続ければよいのですが,積極的に入居し積極的に住み続けたいという人はいませんでした。施設の外に介助サービス等の体制が整っていないから,出たいけれども,施設に居続けた方が安心(というより安全)といったところ。だから,もちろん一番重要なのは(施設外の)地域での生活,サービスをどう作っていくかなのですが――本連載の1も2もこのことでした――ここではもう一つ別のこと。
 調査時療護施設に暮らしていた10人中2人がその後一人暮らしを始めました。そして今グループホームにいる人も一人で暮らしている人も,過去には施設にいたり,親元で暮らしていました。調査で明らかになったのは,その人達がこうして住む場所を移ることは,それを支援する障害をもつ当事者組織の活動があってできた(ないところではできていない)ということです。暮らす場所を探すにしても見当がつかない,生活保護をとるにしても知識がない。といった具合で障害がない場合に比べて面倒なことが多い。それだけでなく,今まで言われた通りにやってきた,あるいは何も言わなくてもやってもらえてたのが,自分で何かとしなくてはならない,他人とコミュニケーションしないとならないのですが,それに慣れていない。そんなこんなで自分に自信がもてない。そうした人が知識を得,コネを得,住む場所と受けられるサービスを確保し,自分に自信を持ち,他の人に自分の意志を伝えて暮らしていくには,それらを支援する組織的で継続的な活動がとても重要な役割を果たしているということです。当事者の団体が運営する「グループホーム」も,それ自体が次へのステップと捉えられていました(ここに永住しようと思っている人は,今回一人もいませんでした)。ステップですから,生活の場でなくても,「自立生活体験室」みたいなものでも,あるいは体験プログラムでもよい。実際「自立生活プログラム」といったプログラムが週1くらいであってそれに数か月参加する,といったことから療護施設の次の生活を実現していった人がいました。
 もちろんこれまで,役所でもどこでも「相談」は行なわれてきました。けれど,こういう支援は行なわれてこなかった。不動産屋を一緒にまわるなんてことはなされなかった。そういうことを考えつかなかったし,考えてもできなかったからです。「自立生活センター」とこのごろは呼ばれたりする障害をもつ本人主体の組織だけがそれを行なってきました。その必要性を知っていたからですし,またそれができたからです。何が大変なのか,何が自信を持てなくさせているのかを自分のこととして知っていますし,そういう共感が,支援すること,支援されることを容易にするからです。
 さしあたり施設に入りたい人に入ってもらうためにも,施設を出たい人には出ることを容易にすることが必要になってきます。そしてもっと数多くの人達,つまり親と一緒に暮らしてきた人がこれから一人で暮らそうとする,あるいは同居を続ける場合でも独立性を高めた暮らしをしていく上でも,これらの支援活動の重要性は明らかです。厚生省もこういうことはそれなりにわかってきています。「市町村障害者生活支援事業」の一つの狙いもここにあります。次回はこのことについて。

 ※報告書の発行は放送大学三ツ木教授の研究室。いちおう1000円ですが,他の刊行物と一緒に御注文なら無料。連絡いただければ案内をお送りします→立岩
 *すみません。売り切れました。



自立支援センター・ちくま  ◇立岩 真也
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