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若いうちに生活保護を使おう

―知ってることは力になる・1―

立岩 真也 199802 『こちら”ちくま”』6
発行:自立支援センター・ちくま


  「生活保護」というとあまり身近な感じじゃないかもしれません。でもこれは使える制度です。なんとか生活できるだけお金が出るのはこの制度だけです。そして介護加算があり介護(介助)が必要な人にも都合がよい。条件は「お金がないこと」。だから、もちろん若くなくて使える人は使えばよいのですが、若い人がもっと使って便利な制度なのです。
  「お金がない」とはまずたくわえがないこと。学校出たての人だったら少なくとも自分で稼いだたくわえなんかないはずです。それがだんだん年をとるとそれなりに貯金ができたり、財産の相続があったりということもあるから若いうちがよい。そして月々の稼ぎが一定以下であること。就職できるのにしない場合には仕事をみつけるようにと言われます。しかし就職できないなら仕方がない。作業所などで働いても、給料が生活保護の基準額を下回る場合には差額が出ます(つまり、給料+生活保護費=生活保護の基準額となる)。残念ながら作業所の給料は高くないから、ほとんどの場合とれます。
  次に家族との関係。生活保護には「世帯単位の原則」というものがあって、同一世帯の他の人に収入がありそれが基準を超える場合には支給されません。しかし「家族」ではなくて「世帯」であることに注意してください。「世帯」とはいっしょに住んでいて生計もいっしょになっている単位ですから、別居して経済的な支援を得ていないなら当然支給されます。そろそろ親元から離れて一人で暮らしてみようかなという人が使うとよい制度なのです。
  こういうことがわかっていないケースワーカーがいたらそれはだめなワーカーですから教えてあげます。教えても言うことを聞かなかったら、「ちくま」に相談するとよいでしょう。とにかくこちらがある程度わかっていた方がよいですから、申請前にも相談しとくと有利です。また『How To 生活保護』(現代書館、1700円)も役に立ちます。
 さて一番大切なこと、つまり金額です。細かな基準があり場合によって様々ですが、松本市に住む障害者手帳1級の一人暮らしの人の基準額は月約13万5千円(重度障害者加算約2万5千円含む)。冬は暖房費として1万円ほどプラスされます。障害基礎金だと1級でも約8万円で一人で暮らすには足りないけれど、生活保護ならなんとか、です。(ちなみに年金は、他の収入と同じく「収入認定」されるので、受け取れる総額は生活保護費だけの場合=生活保護の基準額、と同じです。)
  もう一つの魅力は介護加算です。家族以外の人に介助を頼む場合の他人介護加算の方が家族介護加算より額は高く、上限が月7万円ほど。さらに知事、厚生大臣の承認を得ると、上限各10万円、16万円ほど。これを「特別基準」と呼んだりします。16万円なら、ホームヘルパー等を併用すれば、相当の介助を必要とする人でもなんとかいけます。この「特別基準」のことを知らない福祉事務所の人がいますが、松本市でも使っている人はいます。また手続きを援助する民間の全国的な組織もあります。
  他に、引越しの際に必要な敷金・礼金等の費用が出ますし、福祉機器を事実上自己負担なしで導入する方法もあります。障害があるために必要なら自家用車をもつことも認められます。さあ、いかがでしょう。
  ※おまけ 『現代思想』(青土社)2月号の特集が「身体障害者」です。私も原稿を1本書き、対談を1つしています。よろしかったらごらんください。*

  *のちに著書『弱くある自由へ』(青土社)に収録されました(2000.10)。


UP:1998
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