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少子・高齢化社会はよい社会

立岩真也 1997/11/01
信州大学医療技術短期大学部公開講座


 *受講者用資料集中の文章

 出生率が低下している→大変だ、高齢化が進んでいる→大変だ、といった類いの話がこの世には満ちあふれているのですが、さてそうだろうかと考えてみます。表題はその結論です。詳しくは当日、ですが、例えば…
 地球的な規模で問題になっているのは、むしろ「人口爆発」です。人口の増加の方が懸念されているのです。他方、この日本という国に人口の減少を心配する人がいます。この両者はつじつまが合わないのではないでしょうか。人口の増加は「途上国」の問題だから、日本は別、でしょうか。けれど、もし環境のことが問題だとすると、「先進国」日本の国民の一人当り消費量・排出量は少ない国の人に比べると何十倍にもなります。また、ご存知のように日本の人口密度は世界でもトップクラスで、土地の価格の高さ、住宅の狭さ、一人当りの公園等の面積の狭さ、交通渋滞、通勤地獄、…等々、解決困難な問題の多くは一人当りの国土面積に関係するものです。とすると…。
 高齢者の割合が高くなっているのは事実で、これからもっと高くなるのも確実です。そして、A:高齢者でない人=生活に必要なものを生産する人、B:高齢者=もう生産しない&生活のために助力をより必要とする人、とすると、Bの生活を支えるためにAは(介護といった活動を含めて)よりたくさん働かなければならないということにはなります。
 けれどもまず、これから高齢者の割合がずっと高くなっていくというのは誤解です。いわゆる「団塊の世代」の人、「ベビーブーム」の時に生まれた人達は数が多かったわけで、その後は高齢者になる人自体が減っていって、高齢者の割合はほぼ一定の値に落ち着くでしょう。ですから、これから50年くらいの間をなんとか乗り切って、うまいやり方を見つけてしまえば後はなんとでもなります。今起こっていることは人類史上、ただ1回だけ起こることなのであって、そういう意味では今はとてもおもしろい時代でもあります。
 上のBがおかしい、高齢者=生産しない人&助けを必要とする人、ではないという言い方もあります。もちろんその通りで、定年のあり方などを考えていく必要がでてくるのですが、ここではこの点は置いておきましょう。よく言われることだし、他方ては介護等を必要とする人が多くなるのもまた確かなことだからです。ここで考えたいのは、それがそんなに大変なことなのか、また、それに平然と対処できる社会を作れないほどに私達は愚かなのか、です。まず、生産性が低い時代に人を支える負担とそうでない時代の負担とは同じでない。だんだん大変になっているということではないのです。税金が増えることを心配する人もいます。しかし、例えば介護という今までただでやっていた仕事に税金からお金が出るようになったら、税金を払ったとして損になるでしょうか。また、社会の「活力」の低下を心配する人もいます。しかし、ここ何十年かこの国に満ちていた活力なるものは、そんなに大切なものなのでしょうか。…
 (35字×36行)


UP:1997
少子化
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