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権利を擁護するNPO

立岩 真也
日本社会学会大会 1996年11月 於:琉球大学
当日配付した文章


□要旨集原稿

 言葉が直接に意味するものだけをみれば,政府は非営利組織(NPO)であり,営利企業は非政府組織(NGO)である。ただ,これらの語の一般的な使用法はこれとは異なり,NPOとは非営利かつ非政府の組織のことであり,NGOはその一部であって国際的な(援助)活動をする組織のことを指す。
 この(非営利+非政府)組織=NPOにどのような意義(そして限界)があるかを考えることは,市場という領域(における営利企業の活動)と政治という領域(における政府の役割)をどのように評価するかということに等しい。だから,この主題は,社会(科)学にとってとても基本的なものである。まずこのことを指摘しておきたい。
ただ,この主題を全面的に展開することは限られた時間の中では不可能である。別に一定の考察を行っているので,それを参照願えればと思う★01。
 本報告では,医療・福祉サービスに関係するNPO,とくに権利擁護活動を行うNPOの活動をとりあげる。実際,病にある人,障害のある人が情報を交換し,共通の利害のために活動する団体,健康や医療に関わる情報を提供し,健康に関わる権利,障害者や病者の権利を主張し擁護する民間の非営利組織が増えており,活動は活発化している。だが,第一に,日本国内に限っても,どのような領域にどれほどの組織があり,それらがどんな活動をし,どんな効果を当事者に与え社会に与えているのか,またどのような課題を抱えているのかはよく知られていない。その活動の実際について,調査・研究を開始しており,今後も継続される★02。今回は,その一端を紹介しつつ,その活動の意義がどこにあるのか,基本的なことをいくつか確認する。以下では,その中で,この領域における財の供給のあり方,供給される財の性質に関連する2点をあげる。
 1:提供者と利用者の利害はそもそも一致しない★03。だが市場では,この一致しない利害が価格メカニズムによって調停され,利用者の利害も反映される。供給者はその製品を買ってほしければ,品質等々に気をつかい,消費者に受け入れられるものを供給しようとするだろうからである。しかし,たとえば公的保険制度の下で価格が統制されている医療の場合には,価格メカニズムは不十分にしか働かない。しかも,だったら「自由化」すればよい,自由競争にゆだねればよいとも言えない。金のあるなしで生死が左右されてしまうことにもなりうるのだから。
 2:ここで提供される財は誰でもその場でそのよしあしがわかるといったものではない。たとえば薬をいくら眺めてもそれがよいかどうかはわからない。使ってみないとわからない,しかもわかってからでは遅いということも多々ある。しかも,医療過誤をめぐる現実をみてもわかるように,利用者にわからない方が提供者としては都合のよい場合がある。経済学で言う「市場の失敗」の一因としての「情報の非対称性」が働き,それが利用者=消費者にとって不利に働いているのである。
 だから供給システム自体を変えていく,利用者に近い組織,あるいは利用者自身がコントロールできる組織が実際のサービスの供給を担当する,という方法が一つあり,実際にそのような活動が始まっている★04。と同時に,もう一つ,供給者と利用者の間にあって,利用者の権利を擁護する活動が求められる。
 それをどのように誰が行うか。法律によって,政府が,という答えは間違ってはいない。強制,禁止という手段が用いられねばならない場面があるからである。ただ,政治に何をさせるか,どのようにそれを実現していくか。この場面でNPOが果たす役割がある。また,政治という場は,それ自体,そこから権利が擁護されねばならない当の相手でもあり,政府は監視,評価の対象でもある。
 さらに,上に見たように,通常の取引だったら効く利用者の側のコントロールが十分に効かないことが問題なら,提供者と利用者の間に立って利用者に必要な情報を集約し提供することによって,利用者サイドによる直接的なコントロールを可能にしていくことも可能である。こうした活動を行う主体としてNPOがふさわしい理由がいくつかあり,事実,注目すべき活動がいくつかなされている。
■注

★01 立岩真也・成井正之「(非政府+非営利)組織=NPO,は何をするか」(千葉大学社会学研究室『NPOが変える!?――非営利組織の社会学』,1996年3月,発行:千葉大学文学部社会学研究室&日本フィランソロピー協会,1500円)。この報告書は会場で販売+郵送にて提供→Eメイル,ファックス,郵便,電話で御注文をうけます。郵便振替用紙を同封いたしますので送金に御利用ください→立岩:〒390 松本市蟻ケ崎1892-4 tel & fax0263-39-2141 NIFTY-Serve:TAE01303@nifty.ne.jp) 。報告書の目次は以下の通り。

 序章 報告書への招待[天野正子]
  ◆第T部 NPOとNPOを支えるもの         
 1アメリカのNPO活動と日本の市民活動/2(非政府+非営利)組織=NPO,は何をするか/3人を用いる ――アメリカのNPOはどうしているか/4どのようにお金の流れをつくるか/[寄稿]フィランソロピー社会を 作るために[高橋陽子]
  ◆第U部 企業の社会貢献,企業人の社会貢献,そして家庭
 5企業の社会貢献活動について/6企業人のボランティア活動――2つのボランティア・グループ,そしてボラ ンティアする契機/7レジャーとしてのボランティア/生活すべてがボランティア――企業人の意識・主婦の意 識
  ◆第V部 新しい働き方の模索――ワーカーズ・コレクティブ
 8ワーカーズ・コレクティブ――主婦たちの新しい働き場所/9ワーカーズ・コレクティブ「凡」の軌跡/10ワ ーカーズ・コレクティブ連合会の役割
  ◆第W部 民間社会福祉活動                
 11住民参加型在宅福祉サービス/12社会福祉協議会に未来はあるか
  ◆第X部 まちづくり                   
 13住民主体のまちづくり――世田谷区を事例に/14どうやって民間で合意を形成していくか
  ◆第Y部 教育のオルタナティブ              
 15フリースクールの現在――教育のオルタナティブ/16子ども支援塾ネット/17「親の会」のもつ意味/18教育 行政と民間教育活動/19共に育つ教育を進める/20教育システムのあり方を考える

★02 1996年は日本証券奨学財団からの助成を得て行われている。また種々の組織や組織の活動についての具体的な情報は,以下のインターネット上のホームページから提供されている。

  http://ehrlich.shinshu-u.ac.jp/tateiwa/1.htm

このホームページは,医療〜生命倫理,病や障害がある人の生活,生活の支援に関わる政策・制度,社会的諸資源,NPOの活動,等々についてのデータ,文献案内,また集会・研究会・学会の案内,等々の情報を提供している。情報,研究成果の提供,情報提供活動への参加,調査研究活動への参加を求めています。お問合せは上記へ。
★03 たとえばこの当たり前といえば当たり前のことが当たり前でないように言説や実践が構成されてしまう医療という場の構造について,立岩「医療に介入する社会学・序説」(『病と医療の社会学 岩波講座 現代社会学14』1996年,pp.93-108)。
★04 障害をもつ当事者自身が各種のサービスを供給する組織である「自立生活センター」の活動について,またこうした組織を含めた社会サービスの供給システムのあり方について,立岩「私が決め,社会が支える,のを当事者が支える ―介助システム論― 」「自立生活センターの挑戦」(安積純子他『生の技法 ―家と施設を出て暮らす障害者の社会学― 増補・改訂版』,藤原書店,1995年5月,366p.,2987円)。


REV: 20161031
立岩 真也  ◇Shin'ya Tateiwa
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