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障害者の住まい方に関する研究(第3報)

日本社会福祉学会第44回全国大会 1996年10月 於:同朋大学
要旨集原稿


厚生省心身障害研究,主任研究者:高松鶴吉
『心身障害児(者)の地域福祉に関する総合的研究 平成7年度研究報告書』 1996
              東京都心身障害者福祉センター      赤塚光子
              横浜市総合リハビリテーションセンター  佐々木葉子
              信州大学医療技術短期大学部      〇立岩真也
              神奈川県総合リハビリテーションセンター 田中晃
              練馬区立石神井福祉園          林裕信
              放送大学                三ツ木任一

 療護施設、グループホーム、アパートでの一人暮らし、以上3つの住まい方をする脳性マヒ者各10名に対し、訪問聞き取り調査を1993年度から1995年度にかけて行った。その結果の一部を報告する。調査結果の概要は、厚生省心身障害研究(主任研究者:高松鶴吉)『心身障害児(者)の地域福祉に関する総合的研究 平成7年度研究報告書』(1996年)に掲載され、この掲載原稿を当日配付する。また、3年間の調査結果をより詳細にまとめた報告書も発表される予定である。詳しくはそれらを御覧願いたい。紙数の制約から、ここでは、他と比較した場合の療護施設での生活の特質について、そして、施設のあり方を含む社会サービス供給のあり方の変革の方向に関わる部分をとりあげて報告する。
 グループホームの居住者、一人暮らしする人は、安くはない家賃を払い、住居の面積、採光、通風、等の条件をある程度犠牲にしても、街中での暮らしを選んでいる。特に一般交通機関へのアクセシビリティや介助者にとっての交通の利便性が住居を選ぶ際の条件になっている。他方、多くの療護施設は、地価の問題などもあって、近年になって開設された施設ほど、住宅街、商店街から離れ、交通手段が便利でないないところに置かれることが多い。これが外出などの社会生活を大きく制約している。
 このように療護施設の立地が制約されるのは、施設が一定以上の規模の障害者専用の施設だからである。では、その療護施設は障害者のための専門施設として個々の障害者に応じたサービスを供給し、生活環境が整備されているかといえば、調査結果が示す事実はそうではない。
 まず、療護施設では、1人〜8人と1部屋の居住者数に格差が大きく、同時に複数の定員が一般的であって、プライバシー確保の困難等、居住空間についての不満が全体に多い。また上記した立地条件に起因する制約や、外出に対する介助体制が整っていない等の施設側が課す制約によって、施設外部へのアクセスが困難であり、趣味の活動なども含め、施設内で生活が完結させられている。施設外に人的つながりを持つ少数の人を除き外出は少ない。他方、グループホームの入居者や一人暮らしの人のほとんどは、障害者自身が運営している組織で(そこで得られる収入は少ないのだが)活動している。これらの組織は、彼らの一人暮らしの生活への移行の援助の役割を果たしたり、また緊急時の連絡先となるなど、現在の生活を支える人的ネットワークの核となっている。こうしてまず夜帰る場(個室)と日中の活動の場とが分かれており、活動の場への行き来がある。また毎日の食事をはじめ生活を自らで決めるから日常の買物があり、娯楽のための外出がある。これが近所付き合い等のあり方の違いにも関係している。
 介助について、グループホームや一人暮らしの人では、その量(とそのための費用)の不足の指摘が多くあったが、自己決定は確保される。介助者との間に問題が生じた時、その問題を解決すべく、介助者の交替といった手段の行使を含め、介助者側に対する働きかけがなされる。療護施設では、施設による違いが顕著であり、介助の内容を指図できるできない以前に、起床、排便、就寝等の時間が施設側に決められ、生活の基本を自分の思うように営めない状態に置かれている施設がある。他方、利用者の要請に応じて介助を行う施設もある。ただ、後者でも必ずしも高い評価は得られていない。これにはグループホームや一人暮らしの場合と異なる、施設におけるサービス供給のあり方がかかわっているようである。
 福祉機器の使用についても、電話やパソコン等、情報・通信機器に関しては、グループホームや一人暮らしの人の方が多く所有しており、よく利用している。また機器購入の際の費用負担については療護施設居住者の方が不利な立場にある。居室等の改造についても、第一に、かなりの部分は一般の住居でも可能でありグループホームや賃貸のアパート等で実際に行われている。第二に、療護施設側の姿勢にも関わり、改造を申し入れても受け入れられない場合がある。ただ、一般の民家を用いているグループホーム、また一般のアパートなどの居住者にとっては、スペースの制約や建物の構造上の問題、また賃貸物件の場合には貸主との関係で大掛かりな改造や機器の設置が難しい場合があり、このことに対する不満が語られた。
 以上ほぼすべてについて、療護施設の優位は認められなかった。もちろんこれは、制度が相対的に整備され、グループホームでの生活、一人暮らしが成り立っている場合との比較で言えることであり、障害者の在宅での生活一般について言いうることではない。それがために療護施設での生活もまた選ばれた。ただ、それはやむを得ぬ選択として選ばれ、その生活に満足はしていない。施設を出て暮らす具体的な展望については、地域での福祉制度の充実度とともに、生活の具体像を描き必要な社会的資源を得て暮らしていくための支援活動を行う当事者組織が近くにあるか(そのような地域に施設があり、施設がそうした活動に協力的であるか)否かによって大きく異なっている。他方、グループホームは、それ自体が一人暮らしに移行するためのステップとしてはじめから捉えられており、実際にそうした機能を果たしている。グループホーム、一人暮らしへの移行は能動的な選択としてなされている。以上も調査で確認された。
 施設間の格差が大きく、基本的な生活水準さえ確保できない例がある。その改善が必要であり、実際、相当の改善がみられる施設もあるのだから、不可能ではないはずだ。そのためにも、個別の療護施設の実態の比較調査、居住者の間での情報の交換、入居者の権利擁護活動の充実が必要となろう。
 ただ、利用者の自己決定をそれなりに尊重しようとしている施設についても、利用者の満足度は必ずしも高くない。現在の施設の、措置体系下での職員・対・入居者という関係から構造的に生じやすい問題があるからである。療護施設では、食住が現物としてあらかじめ施設から供給される。生活は一括して与えられ、それで完結する。施設側が管理、運営の主体で、その一部として職員がいる体制の下では、サービスの利用者と提供者という関係が形成されにくく、自覚されにくい。これは、在宅福祉サービスにも当てはまる。介助や機器の供給等について同様の制約があり、サービスや物の質の向上、多様化を阻んでいる。たとえば介助サービスでは、ホームヘルパーの留守宅への派遣がなされないと住居以外での活動が制約される。また、施設に住んでいても外出介助等のサービスを受けられてよい。利用者が介助者を選び、契約を結び、利用者の要望に応えられない場合は契約を解除できるようにするなど、現物を選択の余地なく提供するという体制を見直し、現金支給を含め、供給の自由度、柔軟性を高めるなど、サービス供給のシステム自体を変える必要が出てくる。機器供給や住居の改造についても同様のことがいえる。
 このような方向で改革していくなら、療護施設自体の性格が変わり、宿泊施設に近いものになっていく。とすると、障害者が集められて暮らす場である必要がどれだけあるのか。最初にみたように、一定規模以上の集住が施設の外部との疎隔を起因させているのだった。これは明らかにマイナスである。他方、施設のプラス面として残りうるのは、(調査結果からは優位性が確認されなかったが)居室等の設備の整備と、(居住者にとっての利益とは必ずしもいえないが)介助等に関わる人員配分の効率性である。
 だが前者については、公営住宅の一人入居枠を拡大する、公営住宅等を改造可能な仕様にする、民間の賃貸物件にも補助を行い、既存の建物の改造が難しいなら予め改造可能な仕様にすることを推進することもできる。個々人の必要に合わせるには障害者専門の施設でもそれなりのコストがかかる。一般の住宅でも、同等あるいはそれ以下のコストで、居住環境を整備することは不可能ではないはずである。障害者をもつからこそ市街地に住めることが重要である。
 残るのは介助サービス等に「規模の経済」のメリットが働きうることだけである。今回調査した一人暮らしの人の介助費用の最高は月60万円ほど。また仮に1日24時間一人を介助すればその費用は月 100万円ほどになるはずである。この場合でも、生活にかかる必要の総額は、(療護施設の措置費の基準額ははるかに超えるが)自治体からの支出が多くそれなりに必要度に応じたサービスを提供できている療護施設にかかる費用に比べれば高くはない。また、夜間を含む緊急時への対応システムを整えることは施設外でも可能であり、その場合には、24時間に近い介助を必要とする人はかなり限られてくるだろう。このような策を講ずれば、唯一残る(負担者にとっての)施設の相対的な有利さも相当程度減殺される。
 もちろん、在宅での施策が十分でない中で療護施設が重要な役割を果たしていることは事実であり、このことは上にも記した。だが、現況下での療護施設の必要性からしても、希望しながら入居できないことがあったり、身体的な不調等の場合の一時的な入居に対応できていないことは問題である。ゆえに、療護施設から出て暮らすための支援の充実が不可欠とされる。今回の調査で明らかになったことの一つは、こうした移行を支援し、地域での生活を援助する活動を行う、障害をもつ当事者の組織の重要性である。これらの組織に対する、活動の多様さ、自由さを損なわないかたちでの、支援の拡大が求められる。


REV: 20161031
施設  ◇病者障害者運動史研究  ◇立岩 真也
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