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障害者の住まい方に関する研究(第3報)

杉原素子 赤塚光子 佐々木葉子 立岩真也 田中晃 林裕信 三ツ木任一

last update: 20161031


 key words : 脳性まひ者,住まい方,一人暮らし,療護施設,グル−プホ−ム

 厚生省心身障害研究,主任研究者:高松鶴吉
 『心身障害児(者)の地域福祉に関する総合的研究 平成7年度研究報告書』(1996年)

 ※お断り:本稿は,上記報告書に掲載される最終稿と全く同じ,ではありません。

[要旨]脳性まひ者の療護施設,グループホーム,一人暮らしの3つの住まい方を調査し,求められる生活,生活の支援のあり方を探った。各10人,計30人への訪問聴き取り調査結果から,重度障害者のこれからの住まい方を考える上でいくつかの重要な示唆がえられた。


■1はじめに

 本研究は,脳性まひ者に代表される生まれた時からの肢体不自由者を対象とし,かれらの住まい方の充実に向けた効果的な援助方法の開発と施策のあり方の提言を目的とする。 1993年度は,療護施設入所者,グループホーム入居者,アパートでの一人暮らし,親との暮らし,配偶者や子どもとの暮らし等,居住形態,同居家族の有無別に各1例づつ計6名を選び,その生活の実態や生活の質及び満足度等について聴き取り調査を行い,第1報でその結果を検討した。1994年度は,第1報の検討結果をもとに,療護施設入所者10名,グループホーム入居者10名の計20名の生活について前年度と同様の調査内容で聴き取り調査を行い,第2報で2つの住まい方の特性の検討を行った。1995年度は,一人暮らしの脳性まひ者10名に同様の訪問聴き取り調査を行った。本報告では,療護施設,グループホーム,そしてアパート等での一人暮らしの3つ住まい方の比較検討を行う。これまでの研究の過程を通して,それぞれの住まい方の特性を知り,障害者本人の求める生活のあり方を実現させるために現時点で何が課題となっているのかを探ることができる。本研究結果が,障害者の生活を本人が求める「あたりまえの生活」に近づけるために,ノーマライゼーションの推進のために,活用されることを期待する。なおここでは,紙数の制約から,調査結果の一部の概略しか報告することができない。より詳細な調査結果を別に発表する。
 以下,療護施設(6か所)をNT〜NY,グループホーム(6か所)をGT〜GY,一人暮らしをIと表記し,各居住者をNTa,GUb,Icなどと表わす。30名の概要は以下の通りである。全員の身体障害の等級は1級,療護施設の入居者の方が概して障害は重いが,グループホーム入居者にも一人暮らしの人にも,療護施設の居住者と同程度,あるいはそれ以上に障害が重い人がいる(GTc,GUb,GWa,Ijがほぼ全介助)。

 療 護 施 設 │ グループホーム  │   一人暮らし
   │性│年│入│居住│   │性│年│入│居住│  │性│年│入│居住
│ │ │所│期間│ │ │ │居│期間│  │ │ │居│期間
NTa│男│39│36│ 3年│GTa│女│33│28│ 5年│Ia│女│42│36│ 6年
NUa│男│41│21│20 │GTb│男│31│25│ 6 │Ib│男│37│24│13 
NVa│女│34│29│ 5 │GTc│男│36│30│ 6 │Ic│男│36│30│ 6 
NVb│女│35│29│ 6 │GUa│男│33│26│ 7 │Id│女│33│30│ 3 
NVc│男│30│24│ 6 │GUb│女│37│30│ 7 │Ie│男│41│30│11 
NWa│女│38│19│19 │GVa│男│35│31│ 4 │If│男│34│28│ 6 
NWb│男│40│24│16 │GWa│男│37│35│ 2 │Ig│女│34│25│ 9 
NXa│女│38│30│ 8 │GXa│男│39│31│ 8 │Ih│男│30│27│ 3 
NXb│男│41│23│18 │GYa│男│38│36│ 2 │Ii│男│35│33│ 2 
NYa│女│35│26│ 9 │GYb│男│31│27│ 4 │Ij│男│41│40│ 1 

 N 男性5人・女性5人 平均年齢37.1歳 平均入居年齢26.1歳 平均居住期間11.0年
 G 男性8人・女性2人 平均年齢35.0歳 平均入居年齢29.9歳 平均居住期間 5.1年
 I 男性7人,女性3人 平均年齢36.3歳 平均入居年齢30.3歳 平均居住期間 6.0年

 調査項目は16項目。本報告ではそれを整理し直して報告する。調査1件につき要した時間は2〜3時間程度。調査者は質問に対する回答を書き取った。以下では必要に応じ「」内にその発言内容を記す。同時に,各項目の満足度,自己決定度(以下s,dと略記)について4段階のいずれかを選んでもらい,0〜3と数値化した。その平均値を表●に記した。また全項目の質問が終了した時点で,あらためて満足している上位3項目と不満足上位3項目,さらに自分の生活にとって重要だと思う上位3項目をあげてもらった(表●)。

■2調査結果

 ■1住居(問5)
 他に比べ療護施設では居住空間についての不満が大きい。また自己決定の度合いが低い。そして施設による違いが甚だしい。今回の10人では,個室4人,2人部屋5人,8人部屋1人。ただこれは療護施設の全体像を表わすものではない。個室を全面的あるいはかなりの割合で採用しているNW・NX・NYは,全国の療護施設の中では例外的である。そして1部屋あたりの居住者数,1人あたりの面積にも関係して,プライバシーが確保されていないとの回答を得た施設が多い。「個人スペースはベッドとそのまわりだけ,プライバシーは全くない」(NUa,s0,8人部屋,1人分2畳)。また個室の人でも,「職員からいろいろ指示される,人間関係が煩わしい」(NYa,s0)といった回答があった。
 グループホームでは10人全員が6〜8畳の個室に居住しており,そこでのプライバシーは守られていると答えている。ただし個室以外は共用スペースであることによる制約がある(GXa,s1)等の回答もある。また,既存の建物,特に一世帯用の民家をグループホームとして利用する場合(GY)には,移動性や遮音性に問題が残る。
 一人暮らしの人では,1部屋(6〜9畳)3人,キッチン(3〜 4.5畳)も含め2部屋3人,3部屋が3人(以上賃貸),このうち2人(Ie:2部屋の車椅子用住宅,If:2Kの一般住宅)が公営住宅に居住。4部屋が1人(自家)。平均居住面積はより広く,風呂,トイレ等の設備面を含め居室の独立性もより高い。ただ,「プライバシーはあるが,介助者が常にいる」「常に人が出入りしている」といった回答があった(If,Ij)。広さ(Ia:s1,1部屋),日照(If:s1),一般公営住宅の仕様等の問題(Ie:s0,車椅子には不便,単身入居に関わる条件),経済的理由で改造できない(Ij:s1,d1),等の不満が平均値を下げている。満足度や自己決定度の基準自体が居住環境によって異なり,単純に並列して比較できない。このことは,以下すべての項目について言える。

 ■2立地条件(問6)/アクセシビリティ(問15)
 施設が住宅街の中にない,駅や商店街までの距離が遠い,交通手段が便利でない療護施設はNT,NV,NW。NTは地方都市郊外の農地に囲まれた中にある。「自然はいい,生活には不便」(NTa,s2)。NVは駅から遠く,近くに住宅も少ない。「施設の周辺で自分で用を足すことはない」(NVa,s0)。NWは都市部にあるが,高台で,車椅子,電動車椅子で駅まで行くのは不可能。開所当時は民家もあまりなかった。「空気は良いが,山の上で外出しづらい」(NWa,s0),「施設のバスを利用して外出する。気軽にショッピング等できるところはない。外出が自由にできない。」(NWb,s0)。他方,NXは30分程度と時間はかかるが,駅まで電動車椅子で行ける(NXa:s3)。NYは電動車椅子で7,8分で単独で最寄りの駅まで行くことができ,今回調査した療護施設の中では最も立地条件がよい(NYa:s3)。市街地にあるのとないのとでは著しい違いがある。
 療護施設のいくつかが市街地区から遠く離れたところにあるのとは違い,グループホームは市街地にあり,特にGT〜Wは最寄りの駅までの電動車椅子で5〜10分と距離が短く,商店街等も近くにある。前項(問5)の日照についての質問で,GT,GU,GVの4人が「悪い」と答えた(療護施設入所者では6人が「よい」)。これはグループホームが比較的住宅の密集地にあるのに対し,療護施設のほとんどは市街から離れ,十分な敷地が確保されていることによるだろう。十分な予算を使えれば別だが,現実には障害をもつ人の住居に限らず制約はあり,敷地面積,採光,通風,等を優先するか,これらの条件が十分に満たされなくても街中での生活をとるかという選択を迫られる。グループホームは基本的に後者を優先し,その上で可能な限り居住性を確保しようとしているようである。そして,グループホームの周辺についての不満の多くは,街中での居住,移動を確保した上での駅等の利用の不便さに向けられたものである(GTa,GTb,GXa:いずれもs1)。
 一人暮らしの人では,最寄り駅まで5〜10分程度のところに住む人が8人。駅員の数が少ないなど電動車椅子への対応が悪いため最寄り駅が使えず,30分ほどかかる別の駅を利用している人が2人いる。かれらの多くが,まず立地条件,特に一般交通機関利用へのアクセシビリティや介助者にとっての交通の利便性を住居を選ぶ際の条件にしており,このことに対する満足度は高い。加えて,その住居を選んだという自己決定度も高い。
 問15「道路や建物などのようす」の満足度は総じて低い。建物の入口や歩道の狭さ,段差,路上の障害物,等が指摘された。特に駅員の対応を含め,駅がよくないという回答が多い。また外出機会の多い人の方が具体的で厳しい指摘をしている。ただ一人暮らしの人に満足度の高い人が何人かおり,平均値もやや高い。選んで住んでいる地域に一人で移動する障害者が比較的多く,条件が相対的に整っていることが関係しているようである。
 障害のない人なら,郊外でバスの便もよくないところでも,自家用車の利用等によって不便を感じないかもしれないが,障害があるとそうはいかない。途中に急な坂などがなく電動車椅子で商店街や最寄りの駅まで時間をかけずに行ける場所,一般交通機関の利用が便利な場所に住居があることが大切である。グループホームはかなりの程度この条件を満たしている。一人暮らしの人はそういう場所を選んでいる。だが多くの療護施設はそうではない。むしろ,地価の問題等から,近年になって開設された施設ほど,住宅街,商店街から離れたところに置かれることが多い。これが外出等の社会生活を大きく制約している。

 ■3外出(問12)
 療護施設では,まず各施設の居住者の外出に対する姿勢,施設側の体制の違いが大きい。NTでは,月1回の面会の時だけ面会者が付き添えば外出できる。職員が足りないからだという(NTa:s0,d0)。NUでは「門限」が19時に決まっている(NUa:s1,d3)。またNVでは「園外買物」(職員が介助)は月2回までと決まっている。NWでは前もって介助の要望を出しておくとそれに合せて職員が介助に応じる「介護要望制」がとられ,それを利用して外出している。NWaは隣の市にある「自立生活センター」に通っている(s3)。NXは電動車椅子で行ける距離に商店街があり,NXaは月2回程度近所で買物をする(s1)。NXbもいろいろな店に買物に出かける(s3)。NYaは隣の市にある作業所(といっても作業が主体の場ではない)に毎日通っている。また電動車椅子を利用し,単独で最寄り駅周辺や沿線の駅周辺に買物に出かけている(s3)。
 以上,療護施設の入居者の外出は,第一に,施設の立地条件と周辺のアクセシビリティの度合い(→2)によって制約され,第二に,介助要員が用意できるかどうか(→6)といった事情にも関係して施設側が課す制約によって限界が設けられる。そして,第三に,施設の外にどのような活動の場があるか(→4)によってその度合いが定まっている。第一・第二の要因によって外出の機会が狭められている施設入居者がいる。また,第三の要因,施設の外に活動の場がなく,生活に要するものは施設が支給していることにより,外出する動機,外出の必要が当人にあまりないということにもなる。
 NWa,NYaは,施設の外に活動の場を持ち,活発に外に出ているが(両者:s3),それはまずそのような場が通える距離にある(そのような地域に施設がある)こと,そして施設の側も外に出ようとする入居者の要望に応えようとしていることによっている。これら,最も頻繁に外出している人が,一般的なグループホーム居住者,一人暮らしの人と同じ程度であり,しかもその人達は,施設外に施設と別の組織とのつながりを持つ人達である。そして,それでもなお,療護施設居住者の外出の場合には,日常生活の必要のための外出,日常の生活を自分なりに成り立たせていくための外出という性格は薄い。
 グループホームの入居者の外出は,まず日中の作業所等への行き来(→4)である。仮に活動の内容が療護施設内で行われるものと変わらないとしても,一つの建物の中で生活が完結するのとそうでないのと,その生活は同じでない。次に買物のための外出がある。支給されるもの以外の嗜好品を買いに行くというのではなく,日常的に必要なものを買出しに行く。GT,GU,GXの居住者達は平均して週に1回程度近くに買物に出かけている。GWaはほぼ毎日,電動車椅子椅子で5分ほどの駅近くの商店街に買物に出かけている。他に「居酒屋に週3回」(GTb),「2週に1回,電車に乗って,酒を飲みに行ったり,会議に出たり」(GWa),等。ただ,まだ自発的な外出の機会をつかめないグループホームの入居者もいる。GYでは,平日は作業所に通い,休日もグループホームと関係のある団体の行事に出かける。日常的な買物は職員がしている。「もっといろんなところに出たいですけど,なかなか出れないです。」(GYb,s0,GYaもs0)。GYの居住者を除いたグループホームの居住者の外出に対する満足度は全般的に高い(s2〜3)。
 一人暮らしの10人も,グループホーム居住者と同様,よく外出している。障害者団体の活動等(→4),自分のスケジュールや必要性に応じて,またショッピングの楽しみを求めて,出かけている。日常生活用品は近所の店やコンビニエンスストアで求め,休日などには繁華街に出かけていく。自分の行きつけの商店やデパートがあり,よく研究している。洋服を買う店,電気製品を買う店,レコードを買う店とそれぞれのお気に入りの店をもっていたりする。満足度を低く答えた人は,階段が多い等の物理的な障壁を指摘している。

 ■4活動(問8・9・10)
 療護施設内のクラブ,サークル活動には多くの居住者が参加している。また今回の調査対象者の中には,自治会の役員を務めている人もいる。相当に大変のようだが,同時に,やりがいを感じ,充実感を得ているようだった。自分達の生活,生活している場所について考え,施設の運営のあり方に対して発言し,そこに参加する場になっている。また,施設の外側との関係を持ち,外側から施設を見ることにもつながっている。
 また施設外の団体での活動に参加し,それが大きな意味をもっている人達が3人いた。この3人は友人についての質問に対しても,またこの中の1人NYaはキー・パーソンをあげてもらう質問に対しても,これらの団体のメンバーをあげた。こうした活動への参加は,施設の外にいる人達,施設の外の社会との関係の形成に,また将来の展望を具体的に描くのに,重要な意味をもっている。またこうした活動には,徐々に施設外からサポートを得たり,一人で行動する範囲を広げていくにせよ,少なくとも当初,施設(の職員の)側の支援,理解が必要である。そしてそれ以前に,まずそうした組織が通える距離にあることである。施設内で完結する活動についてはそれなりに充足していても,これらの条件が整っていないと,それ以外の個人的な活動をしようとしてもできないことになる。
 グループホーム入居者,一人暮らしの人の全てが障害者自身が運営する団体の活動に参加している。うち前者7人,後者4人は作業所に通っている。ただ,作業所といっても,当事者が運営する場合は,単純作業を行う場という色彩は概して弱く,運動体,サービス提供,交流の場としての性格が強い。複数の組織に参加する人も多い。こうして全員が何らかの日中の仕事を持っている(平均活動日数は各週4.1日,4.5日)。そして,療護施設のクラブ,サークル等では施設内で活動が完結するのに対し,生活の場と日中の活動の場とが分れており(ただしIjは主に自宅で仕事をし,週末等に会議,打ち合せで外出),これが外出,近所付合い等のあり方の違いにも関係している。満足度は総じて高い。
 これらの作業所や団体は,彼らの一人暮らし生活への移行の援助の役割を果たしたり,また現在の生活を支える人的ネットワークの核となっている。緊急時の連絡先としてあげた人も多い。また一人暮らしを希望する障害者に対し彼ら自身が援助する場ともなっている。活動自体には充実感を感じている。不満は,忙しすぎること,活動からの収入が少ないといったことに対するものである。またホームヘルパーの派遣を受けるため,平日の日中,自宅で待機しなければならず,これらの活動が制限を受けてしまうことに不満がある。

 ■5生計(問4)
 療護施設居住者の全員が障害基礎年金を受給しており,家族から若干の仕送りのある1人以外はこれが唯一の収入源となっている。施設からの費用徴収が約3万円,残りを,被服,趣味教養,交通,通信,嗜好品,外食等の食費,等に使っている。収入は皆ほぼ同じだが,満足度にはかなりのばらつきが見られる(s0,s3が各4人)。生活の基本的な部分は,入居者から定額を徴収しつつ大部分は置費等から支出され,それを施設側が管理しているから,それ以外にお金を使う場もそうないなら,手元に残る分は,多くの場合,被服費等を除けば,趣味的な部分に出費され,その限りでは,多くはない金額でも,あまり不足とならない場合がある。さらに,個人に支給される年金についても,施設(NTa),家族(NVa,NVb)が管理している(管理を委ねている)例があり,そのため自分の収入源等を十分に把握していない人もいる。全員が自己決定していると回答している,その自己決定は一定の枠の中での決定であり,その枠内で足りていると感じられることもある。だが一時的にその枠の外へ出ようとすると(例えば旅行),また枠中の生活でない生活を送ろうとすると(職員以外の介助者への支払い,障害者団体への参加,将来の生活に向けての蓄え),この枠のあり方,そして具体的な金額は満足できないものになる。
 グループホームの6人は生活保護を受給している。他は年金と家族からの仕送り等。グループホームの住居費(利用料)は 28,000円,40,000円,45,000円,100,000円。他に食費が25,000〜40,000円,水道光熱費が7000〜10,000円ほどかかる。これだけで障害基礎年金(+特別障害者手当)を超える。また介助に関わる費用(→6)の問題がある。生活保護の他人介護加算は,厚生大臣承認の特別基準の上限額で月16万円ほどになる。住居費を払い,介助を確保するために,他の制度が十分でなければ,他人介護加算を含む生活保護を受給する必要がある。受給していない3人のうち2人は,他の人に比べれば介助の必要度が少ない。また,職員が金銭管理をしているGYを除き,金銭の管理は個人にまかされ,共同購分は当事者主体の運営会議が決定している(GYa,GYb:d0,他の8人:d3)。
 一人暮らしの人では,3人が生活保護,他は障害基礎年金と特別障害者手当が基本的な収入である。生活保護受給者はいずれも他人介護加算をいわゆる特別基準で受給しており(2人は知事承認約10万円,1人は厚生大臣承認約16万円),ここでも介助費用が生活保護受給の選択を促していることが伺える。給与所得等がある人は4人で,3人が月2万〜3万円,1人が7万円ほど。家賃は1万円未満(持家,借地代)1,1万円台1,2万円台1,3万円台1,5万円台3,7万円台3。総支出中のかなりの割合を占めるが,立地条件(→2)等を考えての選択である。また当然,全員が自分金銭を管理している。

 ■6介助(問2)
 療護施設での介助に関わる自己決定度については,施設による違いが顕著である。「午前7時10分にベッドから降りる。午後7時半にベッドに上がる(他の人は6時半)。ベッドに上がると本を読むこともテレビを見ることもできない。できたら9時半にベッドに上がりたい。電話の介助を頼むと職員が断る,怒る。外部との通信は自由だと思う。トイレの時間も決まっている。個人のことで,生理現象だ。時間を決めるのはおかしい。やろうと思えばできるはずだ。」(NUa,8時30分に排便,11時30分・14時50分・16時45分に排尿,朝食は7時40分,昼食は11時40分,夕食は17時,昼も夜もトレーナー,寝間着を着て過ごす。)これは,個々の介助内容の細かな部分を指図できるできないという以前に,生活の基本的な部分を自分の思うように営めない状態に置かれているということである。このように生活時間が定められていることはなく,利用者の要請に応じて介助を行う施設もある。それらの施設の居住者の自己決定度は明らかにそうでない施設より高い(NW・NX・NY>NV>NT・NU)。しかし,これらの施設での介助に居住者が満足しているかというとそうでなく,満足度は総じて低い。例外的なNVaの回答(s3)は,以前いた療護施設での介助に比べれば現在いる療護施設の方が格段によいことによる。
 グループホーム,一人暮らしの人の多くは,いくつかの制度を組み合わせて使っている。
第一にホームヘルパー。多くは1回2時間×週2回程度だが,週24時間(Ij)の人,またガイドヘルパーを月60時間利用している人(Id)もいる。第二にいくつかの自治体にある介護人派遣事業(制度上ホームヘルプサービスの一部として位置づけられている場合もある)。自治体から利用者が選んだ介助者に介助料が支払われる。今回の調査対象者の居住地域の多くにはこの制度があるが,全国的には少数の自治体に限られる。別言すれば,こうした地域でないとグループホームでの居住,一人暮らしが困難だということである。多い人で,Ib・Icが月 153時間分,約21万円。Ijが月約46万円(昼8320円+夜7070円,×日数)。夜間を含め生活のほぼ全部に介助を必要とするIjは,この制度が充実した自治体を選んで療護施設から移り住んできた。1日20時間余の有償介助を得ている。以上の制度で必要な量を得られない人は,生活保護を受給し,他人介護加算(→5)を利用して有償の介助者を得ている。介助者の調達,介助時間等の調整にあたっては,自立生活センター等の障害者の組織が利用される。他にボランティアによる介助を得ている人もいる。特に障害が重度の人の場合,量的な不足,行政による介助費用の支給額が少ないことが指摘される。なお,介助者への支給額を積算すると,最高月60万円程(Ij,GVa等)になる。この場合,生活にかかる費用の総額は,療護施設の措置費の基準は遥かに超えるが,自治体からの支出が多いNW〜Yと比較すれば高くはない。そして生活の質の違いがある。グループホームでも一人暮らしでも介助者との関係で様々な問題が生じるが,問題が生じた時,十分にとは言えないまでも,その問題を解決すべく(介助者の交替といった手段の行使も含め)介助者側に対する働きかけは可能である。自己決定が確保されている。
 利用者の自己決定を尊重することに自覚的である施設もある。にもかかわらず,利用者の満足度は高くない。現在の施設の措置体系下の職員・対・入居者という関係から,構造的に生じやすい問題があるからである。施設側が管理・運営の主体で,その一部として職員がいる体制の下では,サービスの利用者と提供者という関係が形成されにくく,自覚されにくい。基本的な生活水準さえ確保できない例があるから,その改善は必要である。実際,施設の自治会等の要求で改善されてきた施設もある。しかし,その先の問題となると,利用者が介助者を選び,契約を結び,利用者の要望に応えられない場合は契約を解除できるようにする等,システム自体を変える必要が出てくる。

 ■7機器(問3)
 手動の車椅子は全ての人が以前から使っている。ただ,電動車椅子を利用するようになったのは3年前,4年前など比較的最近の人が多い。一人暮らしの人では10人全員が電動車椅子を利用している。機器導入の利点についての質問に対して,電動車椅子の導入に関する回答をした人が最も多かった。他に導入した機器についての満足度も全般的に高い。
 グループホーム,一人暮しの人に特徴的なのは,コミュニケーションに関わる機器が多いことである。ワープロ(パソコン含む)が15人(N3,G4,I8(4人パソコン)),トーキングエイド3人(N1・G1,I1),ファックス5人(G1,I4),福祉電話2人(G1,I1),ハンズフリーの電話2人(I2),スピーカーホン(G1,「一人で電話がかけやすくなった」),呼気スイッチ電話(I1)。「呼気電話は一人でいても安否確認可能。聴覚障害者には公費負担があるので,適用範囲を広げてほしい。」(Ij)
 機器購入の際の費用負担については,療護施設に住む人の方が不利な立場にある。「補装具」は施設居住者にも給付されるが,「日常生活用具」の支給対象は在宅の障害者に限られ,ワープロ等は支給の対象にならず自己負担しなくてはならないからである。ただグループホームの居住者や一人暮らしの人でもワープロ,パソコン等については自費で購入した人も多い。「パソコンはワープロとして公費補助があるが,指定業者があるなど制約があることと補助額が少ないため,自費で現金で購入した方が安くなるのが問題」(Ij)補装具として給付される車椅子についても,「軽くしたいのでスタン合金のものを使用」とした人(NUa)が自費で,「軽くてカラフルなので,米国製の電動車椅子を使っている」人(Ig)が半額自己負担で購入している。かなりの割引販売がなされているパソコン等の場合には,安い店で全額自己負担で買った方が,指定業者から購入し,その価格から公費負担分を差し引いた分を自己負担するより安くすむといったことが起こってしまう。指定されている機種が,自分の必要や好みに合わないこともある。また,ハンズフリーの電話等は特に障害者用に開発されたものではないが,利用価値の高いものとして評価されている。利用者の選択の幅を拡大する方向でシステムを改革すべきである。

 ■8改造(問3)
 療護施設は障害者の療護の「専門」施設だから個々の障害に応じた機器が提供され,生活環境が整備されていると考えられているとすれば,事実はそれに反している。
 第一に,療護施設で使用されている機器等のかなりの部分は,一般の住居にも導入できる。NWbが導入している環境制御装置は一般住宅にも取り付けられる。天井走行リフターも,グループホームとして新築されたGVでは,GVbの居室にとりつけられている。療護施設の居住者の中には,機器の導入,改造にあたって職員と相談したり(NWa),職員から助言を受けた(NWb)例があるが,こうした専門家の助言にしても施設でなければ受けられないものではない。一人暮らしの人では,先輩のアドバイスや生活訓練の場での体験等も活用して,出入口,風呂,トイレ等にかなり細かく改造を加えている。
 第二に,施設側の姿勢にも関わり,申し入れても受け入れられない場合もある。満足度の高い施設がある(NV〜Yの8人中6人がs3)反面,「障害者用の公衆電話をつけてくれと言うと,県の管理下だからできないと言う」,改造は「全くできない。園だから,できない」(NUa,s0)。グループホームの場合は,居住者=運営主体側の希望で改造できる。一人暮らしの場合,改造については家主の理解を取り付けて入居している人が多い。
 ただ,もともとスペースが限られている等,建物の構造上の問題,また賃貸物件の場合には,出るときに復元しなくてはいけない等,貸主との関係で,大掛かりな改造や機器の設置が難しい場合がある。グループホーム,一人暮らしの人の不満はこの点に向けられている。だが,公営住宅等を改造可能な仕様にする,民間の賃貸物件にも補助を行い,既存の建物の改造が難しいなら予め改造可能な仕様にすることを推進することもできる。個々人の必要に合せるには障害者専門の施設でもそれなりのコストがかかる。一般の住居でも,同等あるいはそれ以下のコストで,居住環境を整備することは不可能ではないはずである。

 ■9経緯・展望
 最後に今の住まい方に至った経緯と今後の展望について得た回答の一端を見る。療護施設居住者の何人かも,今の居場所にしたのは「自己決定」だったと答えてはいる。確かに,当人が最終的には入居を決めた。だが,その経緯を見ると,選択肢自体がきわめて限られたものであることが多い。具体的には家族による介助が困難になった(あるいはそれが予測された)ことによる。他方,グループホームや一人暮しの選択は,親から独立した生活を送りたい,一人で暮らしたいといった,積極的,能動的なものであり,それ以前の生活より望ましい生活として選ばれている。またグループホーム入居に特徴的なのは,それが永住の場所ではなく,次の生活への移行過程の中に位置づけられていることである。
 この3者の選択のあり方の違い,それぞれへの評価の違いは,いくつかの居住場所を移ってきた人達の発言,評価を見るといっそうはっきりしていた。そしてそれは障害についての認識(問1)や,家族関係(問11)にも影響する。例えば,既に家族との関係が疎遠になっている場合は大きな変化はないが,家族との生活の後,介助をめぐる状況の悪化に押し出されるというかたちでなく,家族から離れることができた場合には,かえって,家族との関係が,以前とは違った良好な関係として再び構築されている例がいくつもあった。
 療護施設の居住者達も現在の暮らしに必ずしも満足しているわけではない。今いる場を出て暮らしてみたいという思いがある。それが何に由来するかは,これまで見てきた。だが,その実現の可能性についての認識,見通しの具体性についてはかなりの差があった。
 第一に,グループホーム居住者の方が,次の生活を現実のものとして描いている。それはまず,そもそもこの場が一つのステップと位置づけられ,実際にもここを経へ一人暮らしに移行した人がいて,それをモデルにできることによる。また,以上で見てきた療護施設の立地条件やサービス提供のシステムのあり方によって形作られた,施設の内外を隔てる障壁が,施設外で暮らすための機会や生活の技術等を与えにくくしていることによる。
 療護施設居住者の中でも大きな差がある。理由は基本的に同じである。外部との接触のないところにある施設では,移行は困難になる。どの療護施設でも,施設自体はその外での暮らしにつながるサービスを提供できていない。その機能を現に果たしているのは,施設の外部の障害をもつ当事者組織であり,そこにアクセスできるところに施設があるか,施設がアクセスを援助しているか,これらが,具体的に施設を出た後の生活像を描けるか,必要な資源を実際に得,それを使いこなせるようになるかどうかに関わっている。
 グループホームの設立や運営自体が当事者の活動としてあり,一人暮らしの生活も当事者組織の支援を必須としていることは既に幾つかの項目で述べたが,住まい方の選択,次の段階への移行の場面で,障害をもつ当事者組織の果たしている役割が再度確認される。

■結語

 特に療護施設には多くの問題があり,すぐに改善すべき点が多々ある。実際一定の改善がみられる施設もあるのだから,他の施設でも改善は可能なはずだ。ただ,もう一つ,別の住まい方を可能にする,容易にするという方向もある。療護施設には立地条件に関わる問題があった。障害をもつからこそ市街地に住めることが重要である。ならば,むしろ公営住宅の一人入居を拡大する等の方途をとるべきである。同等の居住環境を保障しようとする場合,一般住宅の方が施設よりも社会的負担が大きくなることはないはずである。
 介助の問題。「今はナースコールを押せば職員が飛んでくるので安心」(NWb)という状況がともかく療護施設にある。仮に1日24時間,一人を介助すればその費用は月 100万円程になるだろう。それでも,中では質の高いサービスを提供している療護施設にかかる費用に比べ,これが特に高額であるわけではない。全国的な介助費用支給制度の確立が求められる。また,夜間を含む緊急時への対応システムを整えることは施設外でも可能であり,その場合には,24時間に近い介助を必要とする人はかなり限られてくるだろう。
 経済状況。依然として厳しいが,例えばこれらが従事している活動による収入がより高い水準になれば,例えば10万円前後になれば,介助費用を別として,年金と合わせひとまず独立した生活が可能になる。社会的に有意義な活動に対する報酬の支払いがもっと考えられてよい。生活保護の受給には介助費用の調達という要因が大きく関わっている。この費用が独立に支給され,上記の条件が満たされれば,生活保護受給の必要は必ずしもない。
 供給体制の変革。決定を利用者に委ねる供給形態が求められる。療護施設での生活は一括して施設側から与えられる。また施設外でも,介助や機器の供給等について同様の制約があり,サービスや物の質の向上,多様化を阻んでいる。現物を選択の余地なく提供するという体制を見直し,現金支給を含め,供給の自由度,柔軟性を高めるべきである。機器供給システムの改革,介助についてはホームヘルパーの留守宅への派遣を可能にする,等。
 当事者組織に対する正当な評価。様々な場面で障害をもつ当事者組織の意義が確認された。利用者が権利として享受できるサービスについては,社会がその費用を負担する義務がある。活動の多様さ,自由さを損なわないかたちでの支援の拡大が求められる。


REV: 20161031
療護施設 
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