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社会サービスを行なう非営利民間組織の場合
―自立生活センター(CIL)から―

立岩 真也

住信基礎研究所『平成7年度「市民公益団体の実態把握調査」依託調査結果報告書』
(経済企画庁依託調査),pp.特論4-11(199603)



■ 非営利民間組織としてのCIL

 □ 非営利民間組織そしてCIL

 福祉・医療等の社会サービスの領域で活動する多様な非営利民間組織がある。法人格をもつ組織としては,社会福祉法人・医療法人があり,また財団法人・社団法人として活動する様々な組織があるが,それ以外にも法人格を持たずに活動する民間組織は多く,むしろこれら任意団体の活動が近年特に活発なものになり,重要性を増している。様々なボランティア団体があり,活動に参加する人が増加している。また1980年代以降は,有償で家事援助等,主に在宅の高齢者に対する家事援助等の支援を行なう民間組織が急激に増加した。この中には,社会福祉協議会が運営するもの,市町村等が出資する福祉公社の他に,数多くの任意団体が含まれる。さらに,各種の患者会や同じ障害をもつ人達の会,あるいはその家族の会があり,当事者による支え合い,医療・福祉に関する情報の提供や,障害者や病者の権利の擁護を目的とする活動が拡大している。
 これらの中に,1980年代後半から現れてきた民間組織として「自立生活センター」(以下,CIL= Center for Independent Livingと略記)がある。この組織の活動はその一部を上に記した様々な組織のもつ様々な要素を合わせもっており,社会サービスに関わる非営利民間組織の活動の現況を捉え,組織に関わる法制度のあり方を探っていく上で格好の対象であるので,本稿はこれをとりあげる。インタヴュー調査を行ったのは,その中の一団体であるA協会(東京都八王子市,1986年発足)であるが,その他の団体の活動も一部含めて報告する。
 CILの全国的な連絡組織,「全国自立生活センター協議会」(Japan Council on Independent Living Center→JIL=ジル)(1991年結成)は,CILを次のような条件を満たす組織と定義している。
 1 所長(運営責任者)と事務局長(実施責任者)は障害者。
 2 運営委員の過半数は障害者。
 3 権利擁護と情報提供の基本サービスの他に介助,住宅,ピアカウンセリング,自立   生活技能プログラムの中から2つ以上のサービスを不特定多数に提供している。
 4 障害種別を問わないサービスの提供。

 現在全国に50のCILがあり,授産部門をもっているため社会福祉法人格を有する1団体以外は全て任意団体である。

 □ 組織

 1994年度のA協会の収入・支出は約3600万円。収入としては,東京都社会福祉振興財団から1425万円(介助サービスと自立生活プログラムに対して),八王子市から240万円,障害者雇用促進事業団から130万円(障害者の雇用について),民間財団から100万円,賛助会費・寄付金が145万円,以上の計が約2000万円,残りが会費や事業による収入となっている。支出では人件費が約1800万円と最も大きな割合を占める。また,有償介助サービスについては特別会計として別に計上される。この部門の1994年度の決算は約1850万円。これを含め,この組織の活動に関わって年間約5500万円が動いている。行なっている事業の全てが本来の目的遂行のための事業であり,本来の事業を行なうための手段としての収益事業は行なっていない(団体によっては,バザー等を行なっているところがある)。
 1994年度の会員数は正会員495名,このうち利用会員138名,協力会員(サービスの担い手)357名。他に資金面で協力する賛助会員(年会費5000円)が105人。事務局でフルタイムで働く有給スタッフは7人(うち障害者が5人)。
 会員制組織のかたちをとってはいるが,会員を限定した共益型の組織ではない。行政機関でもサービスを提供する場合は,名簿をもっていなくてはならないのと同じだという。誰でも会員になれる。会費を払えない人には会費を免除している。
 決定機構について。会員の総会を最高決定機関とする非営利組織も多いが,A協会では,米国の多くのNPOと同様,公益法人であれば理事会にあたる運営委員会が決定の権限をもっている。運営委員は無報酬で基本的な活動方針の決定に参加する。事務局が事業の実際に携わる。会員による評価は,実際に提供されるサービスに対する評価としてなされればよい,評価が得られない組織は淘汰されればよいと考えている。
 このように,A協会,(活動資金が調達できる地域の)CILは非営利組織ではあるが,いわゆるボランティア団体ではない。その活動の中核的な部分は,無償のボランティアによって行なわれているのではない。
 まず,たとえば次に記す介助サービスの場合,ボランティアによっては夜間や休日等を含めたサービスを安定的にかつ利用者本位に供給することは到底不可能である。実際,この組織の活動は,介助の相当部分をボランティアによってきた障害者達がこのことを認識し,別のシステムを作ろうとして始められたものでもある。また,事務局のスタッフには,その組織の活動を知悉した人材が求められ,24時間のサービスをコーディネートするその仕事はフルタイムで働くことを必要とする。
 しかしその費用を利用者の自己負担に求めるべきだとは考えていない。行なっているサービス,組織の活動は,全社会的な支援のもとで,その一部として行なわれるべきだとの考えから,サービスにかかる費用についても,組織運営の経費についても,公的な支援策を積極的に求めている。組織に対する助成としては,A協会他の東京都内のCILの場合,任意団体を含む非営利組織の活動に対して助成を行なう東京都地域福祉振興基金(東京都の出資,助成の実施主体は東京都社会福祉振興財団)からの助成があり,これが活動水準の向上につながった。

 □ 介助サービス

 CILは介助の利用者と介助者を会員として登録し,両者の関係をコーディネイトする。利用者(利用会員)と介助者(協力会員)の両方が入会金1000円,年会費3000円を払う。サービスは有償で,CILによって額が設定される。時間あたり 800円,夜間・早朝・休日は 880円。A協会は利用者,介助者の双方から手数料50円を受け取る。つまり,手数料を含め,利用会員は1時間 850円を払い,協力会員の手元には 750円が残り, 100円がA協会の収入になる。こうしたシステムは主に高齢者に対してサービスを行なう他の民間在宅福祉団体と共通のものである。
 介助の依頼があると,まずコーディネイターがその人の家を直接訪問する。自助具の利用状況や住宅の改造の実態をチェックし,公的介助の利用状況や依頼の内容を詳しく聞いてくる。次に登録している介助者の中から近くに住み依頼内容に合う介助者を選び,利用者宅で面談する。利用者・介助者ともに3回まで相手を選べる。両者の間で合意が成立すると,A協会が立合い三者で介助契約書を作成する。そこには介助の日時,内容,条件などが記される。月末にコーディネイターが利用者宅に集金に行き,その際介助者に対する苦情などがあれば聞く。介助者が翌月事務所に介助料を受け取りにきた時に利用者に対する苦情等を聞き,双方の間に立って調整する。
 A協会の1994年度の介助実績は約16000時間。年間40000時間程度のサービスを供給しているCILもある。これは市町村が主体となって行なうホームヘルプサービス(家庭奉仕員の派遣)の供給量と比較しても,相当の規模である。また,A協会の場合,このサービスの利用者の30%弱は高齢者である。高齢であるからではなく(法的に定まった認定基準からは外れるとしても)障害者であるからこそサービスを必要としているという認識から,サービスの利用者を限定してはいない。知的障害や精神障害をもつ人にもサービスを提供している。ただ,CILは,ある地域におけるサービスを独占しようとは考えていない。むしろ,多様な供給主体があることによって,利用者の選択が可能になることが望ましいと考えている。
 注目すべきは介助派遣の質である。全てのCILは,医療行為などを別にして,基本的に必要な全ての介助を行っている。また派遣時間帯の制限がなく,1日24時間に対応し,日曜・祝日等の派遣も行っている。こうした必要に応えるためにこそCILを設立したのである。
 また,CILの介助者に占める男性の割合は約40%であり,ホームヘルパーや他の民間団体の担い手に比べ,はるかに男性の割合が高い。また,民間在宅福祉団体の担い手のほとんどは中高年の専業主婦あるいはパートタイムで働く主婦だが,CILの場合,他に職業を持つ人が全体の3分の1程度を占め,ついで学生,主婦となる。CILの提供する介助はまず入浴介助等の身辺介助であり,かなりの重労働になる場合がある。また夜間を含む一日の全ての時間が介助の必要な時間であるとき主婦層はそれに応じることができない。さらに,施設等で異性による介助が当たり前のようになされてきたことを彼らは批判し,同性による介助を原則としている。また,こうした会員によるサービスの提供で対応できない部分について,専従の介助スタッフを置くこともしている。
 これらはみな,CILが,利用者のために,利用する側によって作られた組織であるからこそ実現していることである。
 ただ以上は,サービス提供の実施において,民間組織が有効であるということであって,そのサービス実施のための(あるいは利用者がサービスを購入するための)資源・費用の徴収,配分は,政府が担うという分業をあるべき姿と考えている。実際,これらの組織の活動は,介助に関わる費用を支給する(多くは自治体独自の)制度があってはじめて可能になっている。そうした制度のない地域では,CILの活動は未発達であり,また限定された質・量のサービスの提供を余儀なくされている。

 □ 地域での生活への支援

 介助サービスの提供は,CILの活動の(重要ではあるが)一部でしかない。先にみた「定義」の部分でも,権利擁護と情報提供が基本的に提供されるサービスとされ,その他に介助,住宅,ピア・カウンセリング,自立生活プログラムが列挙されている。情報提供,カウンセリングの活動,またこれらを通した障害をもつ人達の権利擁護のための活動に重要な位置が与えられている。
 例えば東京都立川市にあるCILは「住宅サービス&相談部門」を設け,住宅探し,住宅改造相談,家主とのトラブル解消等をサービスとして提供している。一人で暮らし始めようとする時に,相談に応ずる不動産屋,部屋を貸してくれる大家を見つけるのは難しい。その過程にスタッフが付き添う。交渉につきあい,アドバイスをする。相談者の満足を得る結果になったら 10000円+実費を払ってもらう。また,相談業務として福祉制度の利用法等についての相談も受けている。その人が本来なら受け取れるはずのものを教え,窓口がそれを渋ることがあれば,その場面に立合う。これらのサービスにかかる料金は,非会員の場合は1件につき2000円+実費,会員は基本的に無料である。
 こうした生活環境や制度面でのサポートも含みながら,障害者であることを巡って社会の中で与えられてきた心理的な抑圧からの解放という側面をももつ活動として,「ピア(peer)・カウンセリング」がある。これはある属性を共有する人達の間,たとえば障害者の間で行なわれるカウンセリングである。同じ属性を担うことによる体験の共有(あるいは連帯感,親近感の存在)がクライエント(依頼者)にとって効果的であること,さらに同じものを共有しつつ辛い状態を乗り切ってきた人達がカウンセラーでありクライエントがその人をロール(役割)モデルとすることができること,これらがその特徴,利点とされる。
 こうした個別の相談やカウンセリングと同時に,定期的なプログラムとして「自立生活(技能)プログラム」が行なわれている。標準的なプログラムは,大抵の場合,週1回,全部で8〜12回程度が1シリーズになる。参加費は1シリーズにつき 10000円程度,参加人数は10人程度で,1回3時間くらい。自分に自信をもち,種々の社会的資源の利用法についての情報を活用しながら,また介助の場面等日常的に生ずる対人関係等の問題を解決しつつ,障害をもつ人が地域で暮らすことができるように援助するためのプログラムが設計され,提供される。これを提供するのもやはり障害をもつ当事者である。障害をもつ者にとって最も適切な方法は,経験を積んできた障害をもつ当事者によって一番よく理解されているからであり,自分に自信を持ち,与えられた状況に挑戦できるようになるために,自らそれを体験してきた人がプログラムを実施する側にいなくてはならないと考えるからである。また最近では,クッキングスクールやワープロ・パソコン教室等,テーマを絞った講座も開かれている。
 もちろん行政機関においても,たとえば提供しているサービスについて市民に知らせるのはその業務の一部であり,さらに充実をはかる必要はあろう。しかし,これらの民間組織の活動にはそれを超え出る部分がある。第一に,特に心理的な援助等は,当事者によって,当事者の担う組織の中で,はじめて有効に提供される。断酒会などを一例とする自助組織(セルフ・ヘルプ・グループ)の活動は,その活動の本性からして,政府も営利企業も担うことはできず,肩代わりすることはできない。非営利民間組織こそが活躍できる領域である。第二に,時に行政機関と利用者の間に立った活動,また行政に対する抗議や要請の活動を行なわねばならない場合があるが,これも行政から独立した組織であるからこそできる活動である。

 □ 非営利民間組織であることの意義

 社会サービスの供給主体として非営利民間組織の果たす役割は大きい。CILによる主張,そしてその実際の活動の意義をあらためて整理すれば,以下のようになろう。
 第一に,政府はその行政の区域について常に単一の主体であるため,競争が働かない。利用者にとっては選択肢が存在しない。それに対して,民間組織が複数あれば,利用者は選択が可能になり,各々の民間組織の間に競争が働き,また独自の特色を打ち出すことも可能になる。
 第二に,ある属性を共有し,置かれている状況を共有する当事者によってこそ有効に提供されるサービスがある。
 第三に,サービスの提供にあたり市民の直接的な参加がより容易になる。活動に従事する人を非常勤の公務員として登録するといった方法もありうる。だが,それではサービス提供のありかたの企画・決定まで市民が担うことはできない。
 第四に,利用者参画型組織によるサービス供給の意味。価格メカニズムがうまく働くなら,供給者サイドに委ねておいてもよいかもしれない。供給者はその製品を買ってほしければ,品質等々に気をつかい,消費者に受け入れられるものを供給しようとするだろうからである。しかし,たとえば現在検討されている公的介護保険はその一例となろうが,一定のサービスに対して定額制のシステムが採用される場合には,価格メカニズムは働かない。また,価格の上乗せ分が自己負担になるといった場合を考えるなら,価格によって質を制御すればよいとも言えない。このような場合に,非営利の,利用者に近い組織,あるいは利用者自身がコントロールできる組織が求められる。
 第五に,政府や企業と市民の間に立って,政府や企業のあり方を監視し,そのあり方を改善するための活動が求められるが,そうした活動もまた非営利民間組織が行なう活動である。
 なお,CILはこうしたサービスを行なうための資源の供給については,政府による再分配策の中に位置づけられるべきだと考えている。それは第一に,不特定多数への情報提供,不特定多数のための権利擁護活動のように,個人からの利用料の徴収が困難なサービスがあるからであるが,それだけではない。第二に,障害をもつ人が地域で暮らしていけることを保障する義務は全ての人にあると考えるからである。ゆえにそのための負担は社会全体がこれを担うべきだと考える。ただ,社会の全ての人が直接に参加することは望めない。とすると,直接的な市民の参加への回路を開いておくと同時に,また(ボランティアとして参加できない人達にも)開いておくためにも,負担できる者は税金や保険料を負担し,それがサービスの提供に対する対価として支払われるのが最も合理的である。これが社会全体による支援の実現の仕方として採用される。
 だが,このように全社会的負担を主張することは,政府がサービスの提供まで直接担当すべきことを主張することではない。誰からどのようなサービスを受け取るかに関わる決定は利用者に委ねられるべきだと考える。つまり資源の供給とサービス(の提供者)についての決定を分け,前者を政治的再分配によって確保し,後者を当事者=利用者に委ねればよいと考える。しかし,個人が単独で供給された資源を利用し,サービスを利用することは難しい。ならば,そこに組織が介在すればよい。CILがその一角を占める。

■ 法制化についての見解

 □ 法人格取得の必要性

 A協会は,規約で利益の私的分配を禁じ,会計内容が公開されているといった一定の条件を満たす組織について,認可制ではなく,登録・登記によって法人格が付与されるべきだと主張する。営利企業が簡易に法人格を取得できるのと同等に,非営利組織にも法人格が付与されることを求めているのである。もちろん,現在も,市民から預かったお金によって活動がなされている以上,市民に対してその経営,活動実績を報告するのは当然の義務であると考え,予算書・決算書,及び活動実績を会報等に掲載し公開している。会計監査は外部の専門家が,現在のところ無報酬で,行なっている。規約上は,解散時の財産処分のあり方が未規定であるが,非営利組織の法人化が実現するのであれば,それに合わせてこの部分の規定を付加する用意はある。
 活動内容について特に規定を設けるべきでなく,たとえば同好会のような組織でも法人格が欲しいというのであれば認めるべきだとする。また,先に紹介したようにA協会他のCILの場合,会員の総会ではなく,運営委員会を意志決定機関としている。組織のあり方は各々の組織が目的とするところによって必ずしも一様ではないので,こうした組織形態の多様性を許容する法制化がなされるべきだと考えている。
 既に紹介したこの組織の活動から,なぜ法人格を必要とするのか,その理由は明らかである。
 第一に,組織を組織として運営していくために必要である。事務所やリースの機器を借り,必要なものを購入せねばならないが,これらの契約を団体が行なうことはできず,代表や事務局長個人による契約とせねばならない。団体名義の銀行口座をもつこともできないのである。またスタッフを雇用し,社会保険に加入させるといった場合でも,現状では個人が雇用するかたちをとらねばならない。事務所をおき,常勤の有給スタッフをおいて,有償でサービスを提供する活動をしている団体であるがゆえの法人化の必要があり,そのその必要度は,無償の奉仕活動を行なう団体に比して,より大きい。ゆえに,ボランティア団体に関する法律ではなく,非営利組織の法制化が必要と考えているのである。
 また組織の組織としての継続を考えた場合にも法人格の取得が必要だという。患者会など当事者組織には,個人,あるいは何人かの発意で始まったところが多い。だが,個人的な集まりから誰でも参加できる組織として活動を充実させていくためには,特定の個人から相対的に独立した,組織としての形をもった組織に移行していくことが望まれる。現在ある組織は比較的新しく設立され,設立時のメンバーによって運営されている組織が多い。だがやがて,それらを支える人は交代していく。特に高齢者主体の組織,ある種の病にある人達の組織の場合,運営に携わる人が活動に参加できなくなった場合の組織の継承の問題は遠い将来のことではない。個人名義の銀行口座の処理ひとつとっても,不必要に面倒な事態が引き起こされることにもなりうる。組織活動が円滑に継承されていくためにも,法人格の付与が必要とされる
 第二に,利用者との関係において,サービスに関わる責任問題等で法人格をもっていることが必要である。たとえばサービス提供中に事故が起こってしまった場合,その責任の所在が明確にされ,必要であれば適切な補償が行なわれねばならないのだが,現状では,運営に携わる個人の責任とされ,あるいは責任の所在が曖昧なままとなり,結果として,利用者の権利が十分に保護されないことになりかねない。
 第三に,こうした団体が法人格をもつことは,国・地方政府にとっても必要である。組織に事業を依託する,あるいはある事業に助成を行なう場合には,政府とその組織とは契約を結ぶことになる。例えば公的介護保険が実施されたとして,実際のサービスをどこが提供するのか。民間の果たすべき役割は大きい。この場合に,非営利の,組織としてのかたちをもった,財務内容を公開している組織であることが,新しい制度のもとで確認され,法人格を与えられているのであれば,そうした組織にサービスを委ねるのはより容易になる。ところが現状では,十分な活動実績をあげている組織が,法人格を取得していないという理由で,自治体との契約関係を結ぶことができないでいる。また,行政機関が提供できないでいる活動内容についても,有料でサービスを行なっているからという理由で,自治体の広報等での活動の紹介を断られている。非営利組織の法制化によって「非営利」団体であることが認定されば,有料でサービスを提供していてもそれは営利目的ではないのであるから,行政機関との連携もより容易になるはずである。
 このように,非営利組織の法人化は,組織を維持し発展させていくために必要であり,また利用者にとって必要であり,政府にとっても必要である。A協会は以上を指摘する。

 □ 新しい法制度の必要性

 繰り返すと,こうした組織にとって必要なのは,まず非営利法人という法人格そのものである。A協会は,検討を重ねた上で,現行の公益法人格を取得しようとする道はとらないことにした。それは,取得できないというだけでなく,既存の法人が自らの活動形態に合わないから,仮に取得できても取得しないという選択である。
 たとえば財団法人化は不可能である。不可能であるだけでなく,それに必要とされる資金面の条件を満たすことを必要としてない。これらの組織は,規模が大きいところでも年間予算が5000万円程度であり,たとえば財団法人化に必要と言われる3億円といった資金があるなら,それだけで6年間の活動をまかなえる。そんなお金があったら活動のために使うだろう。このような額の,そして取り崩すことのできない基本財産は,たとえそれが1桁あるいは2桁少ない額であったとしても,まったく必要としていないのである。
 この分野で法律に規定された法人として社会福祉法人がある。しかし,社会福祉法人は,社会福祉事業法の改正で若干変わったにせよ,依然として,基本的に施設を所有して経営する組織として想定されている。しかし,現在求められ,またCILが行なおうとしているのは,地域福祉,在宅福祉活動であり,それを行なうための要件は,土地・施設といったハードウェアの所有ではなく,人材を擁し情報を有していることである。
 また,CILのような組織は,そもそも法的に定められた事業の枠組みの中で設立されたものではなく,何が必要なのかを自ら模索していく中で,行なうべき事業を発見し,発展させてきた組織である。またサービスを供給する対象も,従来のように,高齢者,身体障害者,知的障害者,精神障害者といった福祉行政における区分に対応するものではない。このような組織とその活動にとって,法律による,また行政機関による予めの規定,認可,監督は,必要でなく,時にその発展を阻害するものですらありうる。まず法人格があり,その後に,たとえばある事業について意義を認められ,法律や条令によってその支援策が定められ,事業の依託をうけるといったかたちをとって,問題になることはない。

 □ 規制について

 サービスの質の確保のためには規制が必要だという議論がある。また非営利組織が法人化された場合に,法人であるという理由で,過度に利用者に信用されてしまう危険はないか,こうしたことも指摘されうる。非営利組織の法制化にあたり,政府による規制のあり方が問題にされる。これについて当の非営利組織はどのように考えているのか。
 現状では,とくに在宅サービスを行なう民間団体は,保護されていないと同時に,実質的に放任されている。しかしそれで大きな問題は起こっていない。それは,もちろん第一に,利用者に必要なものを提供しようという理念に基づいて非営利組織の活動がなされているからであるが,同時に,そのサービスの質が利用者によってその時々に評価されうるものであることにもよる。利用者は,そのサービスが気にいらなければ,そして他に選択肢があれば,次から断わることができる。また先述したように,サービスの提供にあたってお金の流れが透明になっているという要因もある。
 他方,たとえば終身型の有料老人ホームなど,一括型の契約が行なわれ,サービスの提供が未来に渡り,商品に関する情報の取得,予測が困難な場合には事情が異なる。また,たとえば乳幼児へのサービス提供施設のような場合にも,利用者本人によるサービスの質の管理は困難になる。そしてこうした問題は,営利企業によるサービスの提供にだけ見られるのではなく,全てが管理者側によって一括して供給されサービスを受け取る側による制御が実質的に不可能な現在の福祉システムでは起こりうるし,また実際起こっている問題でもある。これらの場合には,一定の基準を設けるなど利用者・消費者保護の施策が必要になってくる。
 しかし,法人格自体は,形式的な要件さえ満たしていれば付与するものとすべきだというのが基本的な考え方である。以上に見たように,提供されるサービスによって,その規制・監督の必要性・必要度は異なるのであるから,規制・監督は個々の事業に応じて個別に行なうよりなく,組織への法人格の付与の時点で対応することはそもそも不可能だからである。個々の事業のあり方について,しかるべく法令が整備されればよい。規定から逸脱する行為はそれによって処罰されるべきであり,その中にたとえば裁判所による活動停止命令,あるいは組織の解散命令も含まれうるとする。
 このように,法的規制も場合によって必要ではあるとしつつ,A協会は利用者・消費者による選択が実質的に可能なシステムの構築をはかるべきだとする。たとえば地域に一つの団体を認可するより,多数の組織が並存している方がよい。利用者による選択が可能にあり,利用者によるコントロールが可能になるからである。実際,東京都内のいくつかの地域では,同一地域に2〜3つの民間団体が並存してあり,利用者はどの団体のサービスを利用するか選ぶことができ,このことが行政機関によるサービスの提供も含め,サービスの質への要求を厳しくしているのである。

 □ 税制上の優遇について

 このようにA協会は,まず非営利組織の法人化が先決であるとし,この水準での法制化がなされれば,その法人格を取得しようと考えている。そして,寄付金や事業に関わる税制上の「優遇」の条件は,法人格の付与とは別に設定すべきだと考えている。ではその条件とは何か。少なくとも自らの組織の活動,提供しているサービスについては,既に紹介したように,全社会的な負担がなされるべきであり,具体的には租税の配分や公的保険制度によってサービスに必要な資源が供給されるべきだと考えているから,それと同じ理由で,その活動への寄付等,民間からの自発的な資金提供についての非課税,所得税からの控除などは当然認められるべきであると考えている。
 ただ,収益事業への課税については,収益事業を行なっていないから,現実には大きな問題ではない。また,賛助会員からの賛助会費や寄付の額は先に見た通りで,多額の寄付はあまり多くはなく,法の整備によって劇的な変化が起こるとも思えないという。まず組織として必要なのは法人格の付与であると主張するゆえんでもある。
 しかし今後,サービスの社会化を背景として,家族に対する遺贈から非営利組織への贈与へという変化は考えられるし,また実際,そうしたことを思う,語る人は増えているという。現実に,ある個人から保養地にある不動産の贈与についての提案もあった。家族への遺産贈与は,一つに家族によるサービスに対する反対給付という性格をもっていたのだが,家族によるサービス供給自体が困難になり,サービスが社会化されていく中で,そうした動機は薄れていく。また遺産の家族への贈与を優遇することに対する正当性も明らかでなくなっていく。そうした中で,例えば自身がサービスを利用した,あるいは運営に携わった非営利組織に財産を贈与したいという人が増えてきて不思議ではない。この時,少なくとも現在近親者に対して与えられているのと同じだけの,贈与にあたっての「優遇」があってよいのではないか。米国などで遺産による寄付,財団の設立,公益信託の設定が盛んになされていることは知られているとおりである。それと同じことが日本で実現することは,すぐには期待できないだろう。ただ制度が変わることが,意識の変化を促す一助にはなるかもしれない。
 その際,非営利組織であっても,役員報酬といったかたちを借りての財産の私的な移転の手段として組織が使われる可能性がなくはないだろう。自らの組織については,運営委員は無報酬であり,会計内容も公開しているから,そうした危険はありえず,税制上の優遇を得る資格は十分にあるが,現行の法律のもとでの公益法人においても経営に関する情報の公開はなされていない。情報の開示は必須であると考えている。
 このように,A協会等のCILの活動については,その公益性は明らかであり,ゆえに税制上の優遇も当然であるとするが,様々な領域で活動する非営利組織全体を見渡した場合に,どの範囲についてそれを認めるべきか。現状より広げるべきことは明らかであるけれども,その具体的な決定のあり方については慎重に検討されるべきだとA協会は考えている。そしてここで避けなければならないのは,税制上の優遇と法人格の付与とが一体化されることによって,法人格を得ることのできる非営利組織の範囲が狭まることである。ゆえに,法人格を取得できるその条件と税制上の優遇を得られる条件とは別に立てるべきであると主張されるのである。


※現在,非営利組織の法制化についての検討が各政党・政府によって行なわれている。本稿は,政府の18関係省庁による「ボランティア問題に関する関係省庁連絡会議」の事務局を担当している経済企画庁が住信基礎研究所に依託した調査(筆者はこれに調査協力者として参加した)の報告書の一部として書かれた。



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