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生殖革命

立岩 真也 19960228
比較家族史学会編『事典・家族』,弘文堂
http://koubundou.co.jp/


 600字

 生殖に関わる技術(生殖技術 reproductive technology)の急速な進展とそれが社会にもたらす変化を言う。広義の生殖技術には、子を産まないための避妊・人工妊娠中絶等も含めることができ、また不妊治療も様々に行われてきた。生殖革命と言う時には、特に体外受精児の誕生以降の技術の革新を指すことが多いが、体内で受精を起こさせる人工授精も、技術的にはさほど困難ではないものの、「代理母」を巡る問題を見てもその社会的な影響は大きい。この「革命」が含意するのは生殖を巡る人為の領域の拡大であり、それに関わる倫理的社会的問題の現われである。第一に、性交に関わらない他者が生殖に介在することが可能になり(代理生殖)、受精卵等の凍結によって時間的な自由度が生まれたことにより、誰が、どのように、子を持つのか、子が生まれ育つことに関わるのかが問われる。第二に、子の「質」に関わる人為的な操作の可能性の出現である。精子の遠心分離により(パーコール法)男女産み分けが可能になっており(日本産科婦人科学会の会告では重篤な伴性劣性遺伝性疾患を有する子供の妊娠の回避にだけ用いるよう求めている)、また胎児の染色体・遺伝子等の状態を診断する出生前診断が行われている。病気や異常が発見された場合に胎児治療が行われるのはごく一部であり、ダウン症の因子が発見された場合等は多く人工妊娠中絶が行われる(選択的中絶)。さらに「優秀」な子を持つために技術を利用しようとする動きもある(精子バンク等)。どこまでを誰が決定してよいのか、よくないのかが、そしてその根拠は何かが、問われている。(立岩真也)

[参考文献]Peter Singer & Deane Wells, The Reproduction Revolution : New Ways of Making Babies, Oxford University Press, 1984(加茂直樹訳『生殖革命――子供の新しい作り方』晃洋書房、1988).Marie-Ange d'Adler & Marcel Teulade, Les sorciersde la vie, Gallimard, 1986(林瑞枝・磯本輝子訳、『生殖革命――問われる生命倫理』中央公論社、1987).グループ・女の人権と性『ア・ブ・ナ・イ生殖革命』有斐閣,1989.


UP:1996 REV:
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